第111話 王都鎮圧中(リィサ視点)
今回も急ぎ足!時間が足りぬ!
あちらこちらで鳴る剣戟の音、騎士やスルト伯爵様達率いる貴族達の怒号。その煽りを受けて悲鳴を上げながら逃げ惑う平民達。
私達はそんな中を平民の人達を助けながら王都の中心部である王城目指して移動している最中だった。
「それにしてもひどい状況ですね。中にはもう手遅れな方も……。何故この様な事に。お父様一体皆に何があったというのでしょう」
「レナリア……今はとにかく少しでも多くの人々を助けながら進みましょう。焦っては事を仕損じるかもしれないわ」
「そう、ですよ~。なに、せ!私達は今ユーラさんと別行動中なんですから。何かあっても自分達の力だけでどうにかしないといけないんですから!ねぇ~」
私は焦りを見せるレナリアを宥めつつも、周囲に警戒の目を張り巡らせる。いつ襲われても対応できるように、とのつもりでいるのだけど……先程から襲撃してくる騎士達のほぼ全てをユリーナの振るう凶悪なモーニングスターにより壊滅させている。なので私がさっきからしていることはひたすらレナリアを落ち着かせる事ばかりだ。
「ねぇユリーナ?少しは私達にも実戦の機会をくれないかしら?あなたばかりだと私達が一緒に行動している意味がないと思うのだけど?」
これがただの戦闘を体験する為とかであるならば良いのだけど、これは実戦でありスルト伯爵様方の派閥の行く末を決める為の戦いでもあるのだ。手柄をどうこうとは言わないがレナリアに実戦を経験させて少しでも鬱憤を晴らして貰えれば今みたいにマイナス思考に陥ったりする暇はないはずだ。レナリアの為にもそして私の為にも少しは戦わせて欲しいのだけど……。
「う~ん、そうですね~。なら私もちょっとくらいは休憩しましょうか。じゃあ次の集団からはお二人におまかせしま~す」
ここへ来るまで一体どれだけの相手を沈めたと思っているのかしら?数える様な事はしてはいないけれども、それでもゆうに100は超えるだけの相手を沈めているというのに……。私達が通り過ぎたあとには鎧が穴だらけだったり砕けている騎士達がそこかしこに転がされている。あまりの凄惨な光景にもしかしてトドメを差したのでは?と思い、何度か倒した騎士達の生死確認をしたくらいだ。それをしてちょっとというのは一体どういう精神構造をしているのか調べてみたくなるほどだ。
何はともあれ私達にも戦闘の機会が巡ってきた様なので、それまで宥める者と宥められる者だった私達は気持ちを切り替えて戦闘準備をする。
ここに来るまでもかなりの数の騎士達を倒したにも関わらず視線の先には見ただけで50人以上はいそうな集団がガチャガチャと金属音を響かせながら来ている。その姿を見た私とレナリアは気を引き締める。相手は位が低いのか、先程までユリーナが相手をしていたフルプレートアーマーを着込んだ騎士ではなく関節などの要所だけを保護するライトアーマーを装備している。これならば私の持つレイピアやレナリアの持つ投擲武器でもなんとかやりようがあるだろう。あとは私達の戦い方次第だ。
「レナリアいい加減覚悟はできたかしら?いつまでも落ち込んでいても状況は改善しないわよ?どうにかしたいなら自分自身で片をつけるくらいの気概を持って見たら?」
それまで顔を伏せてばかりいたレナリアは私の言葉にハッとした様に顔を上げて前を見据える。そう、そうじゃないとダメなのよ。何かを解決するのにいつまでもユーラにばかり頼るのはダメ。私達も何かを出来るというところを見せなければいけないの。
「いきます!この国の王女でもある私がいつまでも落ち込んでいるだけじゃダメ……躊躇ってばかりでは前に進めるはずがありません!覚悟を決めました!はぁっーーー!」
きっとレナリアは騎士達を傷つける事を躊躇っていた。彼女にとっては平民だけが民じゃない。騎士だって彼女にとっては等しく守るべき民だから。だからこそ目的を成すためとはいえ傷つけるのを恐れていたのだろう。レナリアは優しい、あまりにも優しすぎる。きっと彼女が王女という立場にいなければここまで思い悩む事はなかったはずだ。
しかし、レナリアは覚悟を決めた。たとえ民である者たちを傷つける事になろうとも全ての元凶になっている相手を打倒し、もとの平和な王都を取り戻そうと。ならきっと大丈夫だろう。それに……。
「私達にはユーラがいる。ズルいかもしれないけど後の事はユーラに任せましょう?きっとどうにかしてくれるはずよ」
「えぇ!ですね!私達にはユーラさんがいますから。今私にできる最善だけを尽くして待つ事にします!セイッ!ハァッ!」
レナリアの戦闘スタイルは的確だ。持っている投擲武器で武器を持っている手を狙っている。そして無手になったところを素早く近寄り相手を投げたり、急所を突いた一撃で相手を昏倒させている。どういう技術なのかは知らないけど中々洗練された動きに見える。きっとかなり前からこの動きが出来ていたのだろう。王族といえども騎士に守られてばかりではないみたい。
あら、いけない。レナリアにばかり集中していたせいで自分の周囲が疎かになっていた。私の前には騎士が10人も来ていた。新しい武器に変えたばかりで、まだ完全な動きが出来てる訳でもない事だしこの騎士達である程度コツをつかんでおこうかしら。
「まだ完全にこの武器に慣れてないから手加減は出来ないわよ?それとも騎士さん達には余計なお世話かしら?私達平民と違って普段からたくさんの訓練と実戦も兼ねてるでしょうから」
ここに来るまでずっと相手にしていたから気づいた事だけど、襲ってくる騎士や冒険者達はなぜか誰一人まともな事を喋らない。何も言わない訳ではないけど口に出す言葉は意味の無い事ばかり「グゥゥ」だの「オォォ」とこんなものばかりでまるで知性のない者を相手にしているようだった。
そんな相手にも関わらず今の私の発言には挑発めいたものを感じたのか、張りのある声で「オオオォォッ!」と叫んでいる。どういう状態なのかはハッキリとはわからないけれど全く意思が無い訳ではないようだ。まぁだからと言って……。
「単純な力押しで掛かって来るような相手に遅れを取るほど弱くは無いのよね?そこそこ痛いとは思うから覚悟してちょうだい?」
明確な意思は無いはずなのに私の言葉にわずかに戸惑いを感じているようだ。この状態は完全ではないのかしら?……ムリね。私にはわからない、ユーラがいればなんらかの方法で知ることができたでしょうけど……まぁ今はここにはいないのだし、そんな事でいちいちユーラを当てにしてたらキリがないもの。第一初めて戦う相手の情報がないのは当たり前、事前情報なんてある方が珍しい。なら今自分の持てる力で解決しないとね。
「先に謝っておくわね、ごめんなさい。……あなた達で私の今の実力を図る試金石になってもらうわ!」
素早く駆け出していき持っているレイピアで鎧の隙間を縫うように突く!絡め取られる前に引き抜き、払うように露出した肌の部分を切り裂く!軽やかに踊るようなステップを刻み相手の懐に潜り込み突き刺す。掴まれたりすればあっという間に追い詰められる可能性があるので、とにかく相手を翻弄する動きを心がける。
突き刺し、払い切り、動きで撹乱させて隙きができればトドメを差す。とは言っても完全に息の根を止めるのではなくあくまでもしばらく行動ができなくなるであろう状態に追い込むだけなんだけど。
自分が思い描いていたよりも動けてる。これもモニカや戦乙女の指導のおかげかしら?彼女たちには暇を見ては訓練に付き合ってもらった。Aランク冒険者というのも頷けるだけの強さがあったし、何より戦闘時の立ち回りを教えてくれた事が助かった。実戦の機会が少ない私達には多いに参考になることばかりだった。
あとはなんと言っても体力を養う為の訓練だ。あれがなければこれだけの時間を戦う事など出来なかったでしょうね。……でもあまり何度もやりたくない訓練だったわね。まさか魔法職であるルティアやモモリスを含めて彼女たち全員が脳筋だとは思わなかったわ。何でもモニカの教えらしいけど……それとも冒険者はアレが普通なのかしら?だとしたら私には向かないかもしれないわね。
思考が飛びがちでありながらも対処できる自分に内心驚きながらもどこか戦えてる事が誇らしいと思いながら戦っているのがいけなかったのだろう、地面にあったほんの少しの出っ張りに気づく事が出来ずそれに足を取られてしまった。
足を引っ掛けたせいで姿勢が崩れる。そうなると待っているのは敵の容赦ない攻撃だ。しかし、この体勢では相手の攻撃を反らす事も避ける事もできそうにない。相手を格下のように扱ってしまい油断したのがいけなかった。
迫る剣が私の視界を覆い尽くす……寸前に恐怖を感じて目を閉じた。しかし、いつまで経っても攻撃は当たることはなかった。なぜなら……。
ゴンッ!という鈍い音の後にバキャッ!と聞き慣れないようで、ここまで来る道中に何度も聞いた音が耳に届いた。
目を開けるとそこにいたはずの剣を振り下ろそうとしていた騎士はおらず代わりに見えたのは長い金属の鎖だった。その鎖のもとをたどるように視線で追ってみるとそこには微笑みながら例の凶悪な武器を振った後のユリーナが立っていた。
「油断大敵~ですよ?リィサさん?侮らず私達の全力でしっかり対峙しないとダメじゃないですか~」
助けてくれたのは素直に嬉しい、言っている事も理解できる。しかし、ユリーナのほんわかとした雰囲気で言われてもどうもしっくりこない。せめて、こういう時くらいはハキハキと指摘してほしいと思うのはワガママかしら?
「大丈夫ですか!リィサさん!」
私に駆け寄り手を差し伸べるレナリア。戦闘中にする事ではないと言いたいところだけど、周囲を見渡せば私が倒した騎士とレナリアが倒した騎士とは別に今のユリーナのたった一振りで残り全てに騎士達を倒してしまったようだ。
差し伸べられたレナリアの手を取って立ち上がり周囲を見渡すと、そこには当然の帰結とも言える状況が広がっていた。先程のユリーナのたった一振りに一体どれだけの力が込められているのかは、そこいらに倒れ伏した騎士達の惨状を見ればわかるわね。一言で言い表すのなら……。
『ズタボロ』
これに限るかしらね。どうやればあの細腕からこんな凄惨な状況を広げる攻撃が生み出されるのかしら。本当に不思議だわ。
「どうやら今のユリーナさんの一撃で騎士達は全て倒したようですね。お疲れさまです」
「加勢ありがとうユリーナ。おかげで助かったわ」
「いえいえ~、どういたしまして~。私としては少し物足りないくらいでしたから全然問題無いですよ~」
少し物足りない?この娘は一体何を言っているのかしら?私が油断したとはいえそれでも相手には軽く苦戦を強いられたしまったというのに……私がまだまだなのかしら?それともユリーナが異常なの?どっちなのかしら?段々わからなくなってきたわ。
私の苦悩をよそにレナリアがこの先の行動を提案してきた。
「どうやらこの周辺はもう騎士達はいないようですね。次はあまり手の回っていない場所を目指しませんか?この先に貧民と呼ばれる民の集まる場所があるのですが……もしお二人がよければ」
「私は良いわよ。特に問題は無いわ。どっちにしろ全部の場所を回らないといけないだろうし」
「私も問題無しで~す。私達の邪魔をする相手は全員コレで沈めてあげますよ~」
不穏な一言を発しながら凶悪な武器を振り回すユリーナ。初めて出会った頃の印象はすでになく今の私には彼女が聖母のような微笑みで敵対した相手に全滅を促す狂戦士にしか見えない。しかし、今の状況であればそんな彼女も頼りがいのある仲間だ。
油断からの危機はあったものの頼もしい仲間のおかげで大事には至らなかった。これからは更に気を引き締めて掛かろう。そう思いを強くして次の目的地を目指す事にした。
今回は前回のあとがきで書きました。初の完全女性メンバー視点です。
中々難しくて何度も見返しておりましたのでかなり時間を要しました。もっとうまく書けたような気もしますが今回はこれでご勘弁を!
いつもブクマ&評価ありがとうございます。誤字脱字も大変助かっております、ご協力に感謝です!