第108話 野生の勘?
王都より少し離れた上空地点。ここから目立たないように馬車を隠蔽しつつ王都の様子を探っているのだが、状況は思ったよりよくない事がひと目でわかった。
「スルトさんこれは一体どういう状況だと思いますか?スルトさんの話だと今はまだ一進一退の攻防を繰り広げているはずだったと思ったのですが……これってどう見ても何かしらの侵攻を受けてません?」
「……そうだな。俺もそう見える、急いで降りたい所だが今の状態で城の近くに降りるのはマズイ気がするな。ユーラすまないが手間を掛けるが聞いてもらえないか?」
「ある程度であれば」
なんでもかんでも出来るわけ……はあるとは思うが、俺は決して完璧な人間じゃない。ここまでこれたのも偏にリィサ達が俺を支えてくれたからだ。だからここで何でも出来る任せて下さい!とは言えないのだ。
「いや何難しい事じゃないはずだ……ユーラなら」
「俺なら、ですか?あまり買いかぶらないで下さいよ?俺にだって出来ることと出来ない事くらいありますよ」
「高濃度の魔石を道具も無しに自身で作り出す様な非常識なやつが何か言ってるな?まぁそれは良いとしてだ。ユーラお前には、いやお前たちには王都の外周……街の方から中心の王城に進むような形で来てほしい。できれば被害に合っている街の人達を衛兵達と一緒に助けながらが理想的だ」
「街の人を助けながらですか?まぁそれ事態は問題ありませんが、スルトさんは何処へ行くつもりですか?」
「俺か?俺はおそらくすでに王都入りしているはずのマシイナとゴリニテと合流した後にこの騒ぎの大元に攻め込むつもりだ」
「マシイナ伯爵とゴリニテ侯爵と合流してですか。ゴリニテ侯爵はなんとなくわかりますが、マシイナ伯爵は大丈夫ですか?言ってはなんですがあの方ってなんとなく気弱な感じであまり戦いには向いてなさそうな気がしますが……大丈夫なんですか?」
「あぁ、まぁ言いたい事はよくわかるがあれでアイツは魔法が得意なやつだし後衛職としては中々目を見張るものがある。俺とゴリニテが前衛に出てマシイナが後衛で補佐をするっていうのが俺たちのやり方だな。いざという時の判断や行動にも助けられてきたから中々どうして凄いやつなんだぞ」
「そうなんですか、言ってはなんですが人は見た目によらないって所ですかね?俺もマシイナ伯爵には気をつけないといけませんかね?」
「いやいやなんで味方に気をつけるんだよ。そこは普通に頼りになる味方でいいじゃねぇか」
「そこはホラ貴族に対して不敬だ!みたいな?」
「アイツに限ってはないな。それに……お前に貴族の不敬が通じるとは思えないんだがなぁ」
「いやいや……」
とスルトさんとよくわからない掛け合いをしていると真剣な顔つきをしたレナリアさんが来て俺たちのやり取りにストップをかけた。
「スルト伯それにユーラさん楽しいのはわかりますが、そこまでにして早く街の人を助けに行きましょう!どうやら街の中にかなりのならず者達が入ってきてるようで街の人達に暴行を働いているようです。この様子だときっとロクでもない事も起きている可能性も……ですから」
「わかりましたみなまで言わずとも大丈夫です。急ぐとしましょう。スルトさん準備は良いですか?」
レナリアさんの言う事はなんとなくわかる強盗・恐喝・強姦などが横行している可能性があるかもしれないと言うんだろうな。おおよその予想は出来ていたので最後まで言わさずに返事をする。そして直ぐ側で俺に準備は出来たのかと煽られたスルトさんは「お前が……」とかなんとか言ってるけど細かい苦情は後にして気が向いたら聞くとしよう。今はレナリアさんの苦悩を晴らす事が先だろう。
「皆準備は良い?まずはスルトさんを降ろした後に俺たちは街の外周から中心に攻めるような形で進んでいく。その際に巻き込まれている住民を助けつつ進んでほしい。俺たちの目的はまず住民の保護それと道中出会うであろう敵の殲滅、敵に関してはどうしようもない場合以外は殺さない様にしてほしい」
そこまで説明しているとリィサやシェイラから待ったが掛かった。
「ユーラ殿街の住民に害をなす愚か者共に情状酌量の余地など必要ないのではないか?素早く切り捨てて一刻も早く住民達を安心させてあげるべきではないのか?」
「そうね、私もそう思うわ。ユーラが何を考えての発言なのかは知らないけど自分を害したものが助けられた後ものうのうと目の前で生きていたらそれはそれで落ち着かないものだと思うわよ?」
言われてみればそうなのだが、俺としては一応考えがあっての事なのでそれに関して説明をする事にした。
「二人とも落ち着いて聞いてほしい。俺は別に犯罪を犯した愚かな奴らを許して上げて欲しいとか言ってる訳じゃないんだ。出来るかどうかは知らないけど全ての事が終わった後にそいつらを奴隷として売り払って被害にあった住民の補填に当てられないかと考えたからなんだけど……もしかして奴隷として売るっていうのは出来なかったりする?」
俺の言葉に二人は顔を見合わせていたが答えを持ち合わせて居なかったのか、他の皆に視線を彷徨わせた。するとそれに対してモモリスが軽くため息をつくと代わりに答えはじめた。
「結果だけを言えば出来るわね。ただし重度の犯罪を犯したものまたは何かしらの形で指名手配されていたりする者に関しては冒険者ギルドもしくは騎士団に引き渡した後に国の手によって処刑されるわね。その場合は奴隷に落とす事はできない代わりに賞金が渡される事になるわね」
「そうか……うん、ならそれはそれで良いとしよう。別に必ず何が何でも奴隷にしたい訳でもないからね。ただ後になって国の保証が出るかもわからなかったから一応の手段として出来るなら確保して置きたかったってだけだからね。それがわかれば十分だよ。二人は納得してくれた?」
俺が説明した事を理解してくれたみたいで頷いて返事をしてくれた。さて、準備をして……あれ?何か肝心な事を忘れているような?え~と、何気なく周囲を見渡して思い返していると戦闘準備をしているシェイラ達を見て思い出した。そうだ!せっかく作った新しい武器を渡すのを忘れていた!
なんとか降り立つ前に思い出せたので急いで皆に配布する事にした。
「みんなちょっと待った!そういえば皆に新しい武器を作ったのを忘れていたんだ。今から配るから少し待ってね」
そしてゴソゴソとマイバッグから全員分の武器を取り出す……そういえばスルトさんにも渡さないと駄目かな?流石にスルトさんの分まで作ってなかったな。
う~んまぁ自分には無いのか?と聞かれたら以前作った大量生産タイプのやつを渡せばいいだろう。あれでも十分な切れ味があるみたいだし。
「じゃあ急ぎ足で悪いけど皆俺の周りに集まってくれるかな?今からそれぞれに渡すから」
皆に集まる様に言うとやはり予想した通りスルトさんまで俺の所に来てしまった。今更あなたのはありませんとは言えないので予定どおりスルトさんのは大量生産の物を渡してさっさと目的の場所に降ろしてしまおう。その後に皆に渡せばこの場を切り抜けられる!
「えぇっと、皆はちょっと待ってね?スルトさんに先に渡して先行してもらおうと思ってるんだ」
「おっ!ユーラにしては気がきいてるな?何か後ろめたい事でもあるんじゃないのかぁ?」
「そ、そんな事は無いですよ。それよりも急がなくて良いんですか?お二人が待っているんでしょう?」
「おっと!そうだったな。で、俺に何をくれるんだ?」
俺をからかいつつニヤニヤしながら近づいてくるスルトさん。これはもしかしなくても気づかれたか?いや!そんな事は無いはず……あくまでも知らぬ存ぜぬを貫き通そう。
「そんな顔しても何もありませんにょ……ありませんよ。ただ、武器を渡すのを忘れていたから焦っただけですから。はい、これを受け取って下さい」
大量生産の片手剣を渡しつつ言い訳をしてみる。これはうまくごまかせたのではないか?ちょっと動揺してマジ噛みしてしまったが、間違ってはいないので怪しまれないはず……。
「ほぅ、そうかそうか。まぁ忘れる事なんてよくあるよな。別に気にしてないぞ?俺の存在を忘れていたとしてもな?これも良い物みたいだし頑張ってくるとしようかな?まぁ、次の機会には是非とも忘れずにいてくれると嬉しいがな?ハッハッハ!」
「……何に対して言ってるのかよくわかりませんが、覚えておきます」
どうやら無駄な努力だったようだ。俺には貴族界を渡り歩くスルトさんを誤魔化す事はできなかったらしい。なんで気づかれたんだろう?
「さてと!ユーラをからかうのはここまでにして置くとしようか。……すぅ、ふぅ。ユーラ先に行ってるから後を頼むぞ?」
軽く呼吸を整えて意識を切り替えたスルトさんが戦士の顔に変わり俺に後を頼むと降ろして欲しいと頼まれた場所へゆっくり馬車を降下させている最中にすでに開いていた扉から飛び降りると、あっという間に姿が見えなくなった。これで後は俺たちが準備を整えて降り立てば良いだけになった。
「後は俺たちだね。すぐに皆にも武器を渡すから。まずはリィサからねリィサにはこれレイピアだよ」
リィサにレイピアを渡したものの受け取ったリィサはどうして良いか困った様子で俺を見ていたが意を決したかのように話だした。
「ユーラその言いづらいのだけど、私はこの武器の存在を知ってはいるし見た事もありはするけれど使った事は一度もないのよ?せめて使い慣れている前にもらった片手剣と盾で戦ったら駄目かしら?」
いきなり使い慣れない武器を渡されたリィサはかなり戸惑っているようだけど、おそらくウィリルの時と同様で持てばわかるはずだ。それが良い証拠として……。
「でもリィサの今の立ち姿かなり様になっているよ?皆に聞いてみたらどうかな?」
「えっ?そう?」
俺が言った言葉を信用できないのかシェイラ達やレナリアさん達を見やるリィサ。その不安を解消させて上げるべくレナリアさん達にも意見を求める。
「レナリアさんはどう思います?今のリィサにあのレイピアってかなり似合うと思いませんか?」
俺の意図が伝わったのかコクリと頷き如何に今のリィサが使い慣れて見えるかを説明し始めるレナリアさん。そのレナリアさんの説明に乗っかる様に他の皆も「よく似合ってる」「歴戦のレイピア使いね!」とか褒めそやしている。
そこまで皆に言われたリィサはようやく少し納得したのか俺が渡したレイピアで素振りを始めると俺が言った事が嘘ではない事をやっと理解したらしく「ありがとうユーラ大切にするわね」と言って受け取ってもらえた。これはアレだね?俺の説明が足りなさ過ぎたようだ、せめてリィサには鑑定をした事を告げて受け取って貰えば早かったかもしれない。それとなくリィサを見るとウィンクをしていたので俺が思っていたことを察したのかもしれんね。本当に気が利くいい女だよねリィサは。
さてとあまり悠長にしてる暇はない、次々渡していかないと。次はレナリアさんだな。
「レナリアさんはこれですね。はい、どうぞ」
「あのぉユーラさん?これは一体どういった物なのでしょうか?私このような武器を見るの初めてなのですが……」
レナリアさんがそういうのも無理はないだろう。だってこれって本当の意味でレナリアさん専用だしね?俺がレナリアさんに渡したのは円月輪と呼ばれる武器だ。当初俺はどうにか投擲してる間の無防備な状態をどうにかしようと色々試行錯誤していたのだが、あまりいいアイデアは出ず困っていたのだが、ふとそれなら投擲したものをそのままコントロール出来るような物にすれば良いのでは?と思い至った。なのでこれは普通の円月輪とは違ってレナリアさんが投擲する際に魔力を込めて投擲するとそのままレナリアさんの思うままにコントロール出来るものになっている。ただし欠点もあるそれは込めた魔力が何らかの形で霧散もしくは放出するような事が起きると制御を失い普通の円月輪と同じ効果しか持たないようになる。そういった点ではかなりの熟練した技術が必要な特殊な武器といえるだろう。しかし、レナリアさんには投擲術があるしなんとかなるのではないかという若干の期待も込められた武器でもある。いずれしっかりとした知識と技術を手に入れもっと性能を上げたものにしていきたい所だ。
「……という物なんですが、どうですか?うまく使えそうですか?」
粗方説明をし終えると説明を聞いたレナリアさんが手元で円月輪をクルクルと回して感触を掴もうとしているようなのだが……自分で作っておいてなんだが円盤状の刃物をクルクルと回している手元を見ていると手を滑らせて怪我をしないかと非常にハラハラする。実に心臓によろしくない光景ではある。
「ユーラさん……」
「どうでしょう?」
「問題なく使えると思います。不思議な事に実に手に馴染むと言いますか、何の問題もなくいけると思います。後は実践で試して感覚を掴んでいきますね」
「それは何よりですが……もし少しでも違和感を感じるようなら以前に渡した片手剣を使ってもいいですからね?怪我をしないようにしてくださいね?」
「ご自分で渡されたのに不安なんですか?もっと自身を持っても良いと思いますが……」
それはそうだが後から使っている最中に怪我をしました、なんて言われた日にゃその武器を作った事を後悔してしまいそうなので是非とも俺の心の安定のために安全重視で使ってほしい。切実に……。
「次はユリーナさんですね。ユリーナさんには……!っと、いけないこれですね」
あっぶねぇ!今間違って凶悪すぎるやつを出す所だった。というかほんの少し出してしまった。見られてないよな?アレは流石にヤバすぎる!絶対に見せちゃいけないやつだからな。
「ユリーナさんこれをどうぞ。ユリーナさんには申し訳ないですがユリーナさんの武器は素材のグレードアップで武器の耐久性だけを上げる事しかできませんでした。ですが、それでも以前渡した物よりはグッと使いやすくなってると思います」
「……」
「えっと?どうしたんですかユリーナさん?受け取ってはくれませんか?それともこの武器は嫌でしたか?」
どうしたんだろう?鑑定では本人は本能のままにモーニングスターを選んだとあったんだけど……やはり他の二人の武器を見て考えが変わったのだろうか?
「ユーラさぁ~ん、私これじゃなくてさっきのやつが良いなぁ~」
な、何!馬鹿な!アレを見られていただと?確かにさっきほんの一瞬だけ出しかけはしたが、それでもアレは柄の部分しか見えなかったはずだ。もっと言えば柄頭の部分だけのはず……それなのにアレが良いって……いや、待て!まさかとは思うがこれも本能によるものだとしたら?何だろう、絶対に無いとは言えないものがユリーナさんにはある。なんというか野生の勘的な?取り敢えずしらばっくれてみよう!
「何のことですか?さっきのはアレは別の、そうアレは俺が使おうと思って作った片手剣なんですよ。なのでできたらアレは俺が使うために譲って欲しいですね。ユリーナさんがどうしても片手剣が良いというのなら別なんですが……」
どうだろう?そこまで苦しい言い訳にはなっていないはずだが?
「フフフ……無駄ですよ、ユーラさん。私は知ってるんですよ~。だってさっきのあの武器が私を呼んでいたんです。【自分を振ってくれ!勢いのままに振り回してくれ!ご主人さまぁー!】って私を呼ぶ声が聞こえたんですよ~……だから早く出して下さい、ユーラさん?」
そんな馬鹿な!武器が意思を持ってユリーナさんに語り掛けたっていうのか?仮に本当に語り掛けたとしてなんで製作者の俺を飛び越してユリーナさんがご主人さまなんだ?オカシクね?」
「さぁ!早く出して下さいユーラさん!さぁ!さぁ!さぁ!さぁ!さぁ!早く!出して!下さい!」
「ちょっと待って!ユリーナさん!なんかめっちゃ怖い!気の所為!気の所為ですからそれで我慢してください!」
「そんな訳ないんですよ!私の勘に間違いはないんです。だから……早くその子を出して下さい?私にその子を下さい」
負けない!絶対に負けない!渡してなんかやるもんか!俺は絶対に負けないぞ!
「うふふ、良いですねぇ。すっごいカッコいいですねぇ~。ユーラさんありがとうございま~す」
負けました……だってさぁ始めのうちはただ笑顔で頂戴?って言うだけだったんだけど、途中から無表情で早く頂戴?って言われてたら段々怖くなってきたんだよ。無理だよ、あんな顔つきで迫られて耐えられる訳ないじゃん。もう疲れたさっさと皆に配って行くとしよう。
この一話で全員分の武器配布まで書くつもりでしたが、思った以上の文字数になったので分けてまた後日投稿させていただきます。
いつも読んでいただきありがとうございます。