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都子ちゃんのこと 3

 ノックの音と同時にドアが開いて、母が顔を出した。


「ふたりとも、そろそろ桃のパンケーキを食べられそう? ――あら、ぴーちゃんったら、はしゃいじゃって。ご機嫌ね」


 そう言いながら私の顔を覗き見た母は、ん? と首を傾げる。


「難しい顔してるわね。喧嘩しちゃった?」

「いえ! してません」


 都子(いちこ)ちゃんが慌ててぶるぶると首を横に振り、綺麗な黒髪が顔の動きに合わせて素直にさらさら揺れる。


 都子ちゃんはとても潔い人だと思う。

 自分の過ちを認めて正そうとする素直さもあるし、怖いことから逃げずに真正面から立ち向かおうとする勇気もある。その姿は、まるでサムライみたいだ。

 でも、それでは駄目なのだ。

 どんなに強い気持ちを持っていたとしても、私達はまだ高校生になったばかりの子供だ。

 都子ちゃんの周りにいる大人は敵ばかりで、助けてくれそうな人がひとりもいない。このままでは、きっと大人の力に負けて望まぬ方向に連れて行かれてしまう。


 そんなのは絶対に嫌だ。


「お母さん、都子ちゃんの話を聞いてあげて」


 私は手を伸ばして母のエプロンの裾をぎゅっと掴んだ。


「都子ちゃんの?」

「あ、いえ。たいした話じゃないんです」

「たいした話だよ! 大事だよ! 都子ちゃんの一生が掛かってるんだよ!! 今なんとかしなきゃ駄目! 明日じゃ……手遅れになる」


 にぱっと笑って、手を振ってくれたあの男の子の顔が脳裏を過ぎる。


 ――明日遊ぼ。じゃあね。


 あの男の子に、明日は来なかった。


「お母さん、都子ちゃんを助けて! 私じゃ、どうしたらいいかわかんないの」


 ぎゅっとエプロンの裾を引っ張ると、母は引かれるまま、すとんと私の隣りに座った。


「一生が掛かってるような大事なら、ほうっておけないわね。――都子ちゃん、ちょっとだけ、おばさんにお節介を焼かせてくれない?」

「でも、ご迷惑になりますから……」

「都子ちゃん、お願い! 警察に頼る前に、お母さんに相談してみて。私じゃどうしたらいいかわからないけど、お母さんならわかるかもしれないから」

「……芽生(めい)ちゃん」

「お願い。私、都子ちゃんとお別れしたくない」

「……うん。私も……」


 頷いてくれた都子ちゃんは、母に事情を打ち明けた。


 都子ちゃんは、私に話した時のように自分の心情を語るようなことはせず、ただ簡潔に要点を繋げて話していく。なかなかの説明上手で感心してしまった。


「お父さんも巻き込みましょう」


 話を聞き終えた母がそう言った。


「でも仕事があるから、都子ちゃんとお話しできるのは夜になるわ。今晩は家に泊まってくれる?」

「いいんですか?」

「もちろんよ。客間もあるけど、芽生ちゃんと一緒の部屋がいいわね」

「賛成! そうしよう!」


 はじめてのお泊まりに私は大喜びしたが、都子ちゃんはなぜか難しい顔になり、きゅっと唇を噛みしめて頭を下げた。


「ありがとう……ございます」

「都子ちゃん、そんなに気を張らなくてもいいの。――可哀想に……。昨夜は怖くて眠れなかったんでしょう? この家は安全だからゆっくり休んでね」

「……はい。ありがとう……ございます」


 母の言葉に、都子ちゃんは涙声でお礼を言って、また頭を下げた。

 その姿に、ただ喜んでいた私はハッとした。


 そうだった。

 昨夜、都子ちゃんは見知らぬ男達に部屋に押し掛けられるという怖い目にあったばかりだった。

 しかも、この問題はまだ解決していない。

 喜んでいる場合じゃなかった。






「私、優しくない」


 部屋から出て、母と一緒に食器を持ってキッチンに向かいながら、私はぼそっと呟いた。


「あら、どうして?」

「都子ちゃんが疲れてるのに気づいてあげられなかった」


 母から優しい言葉をかけられて気持ちが緩んだのか。あの後、都子ちゃんは泣き出してしまった。そして泣き止む間もなく、そのまま寝落ちしてしまったのだ。

 本当に疲れていたんだと思う。


「それは経験不足よ。これから精進しなさい」

「はーい」

「でも、お母さんに助けを求めたのはファインプレーね」

「そう?」

「ええ。都子ちゃんは自分から助けを求めることができない性格だから」

「わかるの?」

「昔のお母さんにちょっと似てるのよ」

「……お父さんが、お母さんは自分の家族と疎遠だったって言ってた」

「そうね。……芽生ちゃんももう高校生だし、都子ちゃんのことが落ち着いたら、少しお母さんの昔話を聞いてもらおうかしら」

「うん。聞く」


 聞いて、もっと人のことをちゃんと考えられるようになろう。



 その後、私と母は喜々として都子ちゃんのお泊まりの準備をはじめた。


 お客さま用の布団を出し新品の歯ブラシを用意して、下着も下のほうは未使用のものを用意した。上に関しては、つるぺたな私達の物では都子ちゃんとはサイズが合わないのが一目瞭然なので、夜のうちに洗濯するしかない。

 パジャマや服は母の物を出してもらうことになった。


「都子ちゃんは芽生ちゃんよりずっと身長が高いものね。美人さんだから選び甲斐があるわ。――これなんかどうかしら。これなら夏までずっと着られるわ。このワンピース、お母さんにはあまり似合わなくて殆ど袖を通してないのよ。勿体なくて」


 母はクローゼットの奥から、濃紺に白の水玉模様のノースリーブのゆったりとしたラインのワンピースを取り出した。


「都子ちゃんに絶対似合う! あ、でもカーディガンがないと今は寒いかも」

「そうね。用意しておくわ。これは明日着てもらうとして、今晩はラフにこんな感じかな?」

「上はそっちの赤いのがいいよ。そっちのが絶対似合う」

「だったら、下はライトグレーのほうがいいわね」


 それから、仕事中の父の元に母と一緒に行って、BGM代わりに都子ちゃんの事情を聞いてもらった。その後でフリーサイズのロングスカートとカットソーを手に、そうっと自分の部屋に戻った。


「あ、起きてた?」

「……うん、いま起きたところ。ベッドを貸してくれてありがとう」


 都子ちゃんはベッドの上に身体を起こし、膝の上に乗るぴーちゃんを撫でていた。

 まだ眠いのか、周囲を漂う苺ちゃん達もよろよろしている。


「カーテン開けるね」


 勢いよくカーテンを開けると、さあっと部屋が明るくなる。


「ああ、もう夕方の空の色ね。……なんだか不思議。早朝に家を出た時は、もう二度とこんな風に落ち着いて夜を迎えられることなんてないんだろうなって覚悟してたのに……」

「大丈夫だよ。明日も明後日もその先も、ずっと大丈夫だからね」

「……ありがとう」

「うん。あ、ほら、着替え持ってきたの。制服、皺になっちゃったでしょ? お母さんの服なんだけど、ちゃんと洗濯してあるから着替えてみて」


 ベッドの上に広げた服を見て、都子ちゃんはちょっと戸惑った顔になる。


「……赤」

「うん、赤。絶対似合うよ?」

「そうなのかな……」

「嫌いだった?」

「え? ううん。ママ……母に、赤い服は似合わないって言われてたから、着る機会があまりなかったの。でも……そう。考えてみると、私はこういう綺麗な赤い色が好きだったのかも。小さな頃に父が買ってくれた赤いセーターもお気に入りだったし……」


 あれもちょうどこんな色だったと、都子ちゃんが赤いカットソーに触れて懐かしそうに言った。


「この色、都子ちゃんの光の色だよ。苺ちゃん達の色」

「そう。こんなに綺麗な色なのね。……なんだか、嬉しい」


 赤い服は、予想以上に都子ちゃんに似合っていた。






 仕事を終えた父と一緒に夕食を食べた後、お茶を飲みながら皆でこれからのことを相談した。


「まず最初に確認したいことは、通帳やカードなどの貴重品のことなんだ。それはどうなってる?」

「全部、持ってきてます」


 幸運なことに、貴重品の類いは全てひとまとめにして部屋に置いてあったので、出掛ける時に持って出たのだそうだ。


「そうか。それなら、絶対に取り戻さなくちゃいけないものはないね。そうだ。鍵を替えられてる可能性は?」

「それは大丈夫です。オートロックだから、勝手に鍵を替えることはできないんです。――でも、あの……危険があるようなら無理しないでください」


 都子ちゃんが顔を曇らせる。

 侵入してきた五人の男達はいわゆる半グレっぽい雰囲気だったらしく、都子ちゃんは迷惑をかけることを恐れているようだ。

 だが、多少無理をしたとしても、警察沙汰にはしない方向で行こうと父は考えてくれていた。

 この場合、都子ちゃんの祖母と関わることのほうが、都子ちゃんにとって一番危険だろうからと……。


「そこは心配いらないよ。こっちは厳つい肉体労働者を大勢動員できるからね」


 父の大学時代の友達には引っ越し業を経営している人がいるのだ。そこの従業員やバイト達に手伝ってもらって、物量作戦で都子ちゃんの部屋から男達を一気に追い出す予定になっている。

 ただ、彼らにも仕事があるので、追い出し作戦の決行は明日、日曜日の夜になってしまうとのことだった。


「お礼に関しては……」

「そこも心配いらない。作戦終了後に焼き肉を奢るってことで話はつけたから、俺の経費で落とすよ」


 あ、これ、税務署には内緒ね? と父がおどける。

 都子ちゃんは、ありがとうございますと深々と頭を下げた。


「えーっと、もうひとつ確認したいんだけど……。昨夜、そいつ等に、その……暴力をふるわれたりしなかったかい?」


 ためらいがちな質問の仕方に、父がなにを心配しているのか、私にはすぐにわかった。

 だから、即座に横から口を挟んだ。


「レ○プの心配してるんなら大丈夫だよ。すぐに部屋に逃げ込んだもんね?」


 私のあっけらかんとした発言に、両親はギクッと身体を震わせ、都子ちゃんはさあっと顔を青くした。

 ふわふわ飛んでいた苺ちゃん達が一斉に動きを止め、一部はパチッと弾けて消えてしまう。

 それを見た私は、すぐに自分がとんでもない失敗をしたことに気づいた。


 沢山読んできた小説の中で、女の子がそういう被害にあうパターンを何度か読んだことがある。

 読む度に酷いことをするなぁと嫌な気分になったけれど、それはあくまでも物語世界の中でのことだったから、私は悪い意味でそのことに慣れてしまっていたのだ。

 それがどういうことなのか、本当の意味では理解していなかった。


 だから、本当にその危険に晒された都子ちゃんが、どんなに怖い思いをしたか、想像することすらできずにいた。

 その危険に晒されただけで、PTSDになる人だっているのに。


 ――本を読んで共感することと、現実で体験して実感することは違う。


 父からそんな風に注意されていたのに……。


 父は、都子ちゃんが感じただろう恐怖を思いやって、わざわざ言葉を濁して質問してくれたのだ。

 それを理解しないまま、頭でっかちの知ったかぶりで口を挟んで、言ってはいけない言葉で都子ちゃんを傷つけた。


「ごめんなさい! 私、今すごく無神経な言葉を使った」

「芽生ちゃん、私なら平気だから」


 慌ててがばっと頭を下げた私に、都子ちゃんは青い顔のまま笑いかけてくれた。


「むしろ、こういうことははっきりさせておいたほうが誤解がなくていいと思う。だから、私からはっきり言うね。――昨夜は、クラスメイトの女の子とちょっと話をしたぐらいで、他の人達とは会話すらしていません。押し入って来られた時、腕を掴まれそうになって慌てて自分の部屋に逃げ込んで、鍵を掛けて、それっきりです」


 部屋に閉じこもっていたとしても、もしかしたらドアを乱暴に叩かれたり、ドア越しに大声で怒鳴られたりしたかもしれない。

 都子ちゃんがあんなに疲れていたのは、一晩中そんな怖い状況で過ごしたせいだったのかもしれない。

 そういうことをちゃんと思いやってあげられなかったことが無性に恥ずかしい。

 私は俯いて唇を咬んだ。

 

「それならいいんだ。怖いことを思い出させて悪かった」

「いいえ。気にしないでください」

「芽生。反省してるか?」

「してる」

「ならいい。次やったら、本気で怒るからな」

「うん。っていうか、怒ってください。私、頭でっかちで、本当に実感が足りてなかった」

「自分でそこに気づいてくれて良かったよ」


 優しい声を掛けられて、私はますます小さくなった。

 都子ちゃんは私の友達という立場でこの家に招かれているのだ。私が彼女の盾になって守ってあげなきゃいけなかったのに、逆に傷つける言葉を口にするなんて最低だ。


「それから、都子ちゃんのこれからのことも決めてしまおう。――君のマンションに居る男達を追い出した後、そこでまた以前と同じように暮らし続けることは俺には認められない」

「私も反対するわ。そういう人達に目をつけられてしまったら、戻るのは危険すぎるもの。学校の行き帰りも危険だろうし……。だからね、都子ちゃん。しばらくの間、家で暮らさない?」

「でも、これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないです」

「君が不幸になることのほうが迷惑だよ。なにしろ、うちの芽生が泣くからね」

「うん。泣く」


 私が威張ると、両親がふっと笑った。


「ほらね。俺としては、大事な一人娘を泣かせたくないんだ。だから、家で暮らしなさい。その間に、君のお父さんも探しておくから」

「え……父を探してくれるんですか?」

「うん。君がひとりで探すより、俺が探した方が早く見つかると思う。――今まで、どうやって探してたんだい?」

「以前暮らしてた近所の人達を訪ねたり、父の前の勤め先に電話して聞きました。でも、全然見つからなくて……」

「うん、それなら、本職を頼ったほうがいいね」

「本職……探偵?」

「そうだよ。料金に関しては、出世払いってことにしておこう」


 しっかり勉強して出世してくれよと、父がおどけたように言う。


「……ありがとうございます」


 都子ちゃんは涙声で頭を下げ、苺ちゃん達は何故か私の周りでくるくると舞い踊っていた。






「昨夜はお風呂に入れなかったから、凄くすっきりした」


 お風呂から上がった都子ちゃんが言う。

 私は枕を抱っこしたまま「良かったね」と応じた。


「都子ちゃん、枕の厚み、こんな感じでいい? この枕、高さを調節出来るから、遠慮せずに好みを言って」

「ありがとう。これで大丈夫よ。私、こだわりはないから」

「そっか」


 さっそく枕にカバーをかけて、私のベッドの隣りに敷いた都子ちゃんの布団にセットする。


 明日は日曜日。

 母からは好きなだけ寝てていいと言われているので夜更かししておしゃべりできるかなと期待していたのだが、身体が温まったせいか都子ちゃんはもう眠そうで、ふわぁとあくびしている。

 そんな気の抜けた姿を見せてもらえることが、なんだかとても嬉しい。


「もう眠い? あのね、夜中に喉が渇いたら、テーブルの上のポットとグラスを使ってね。冷たい麦茶が入ってるから。あと、なにか困ったことがあったら、遠慮せずにたたき起こしていいから」

「ありがとう。芽生ちゃん」

「目がしょぼしょぼしてるよ。もう寝てて。これ、部屋の灯りのリモコンだから、好きに調節してね。じゃあ、私もお風呂に入ってくるから。――ぴーちゃん、都子ちゃんをよろしくね」

「にゃあん」


 ぴーちゃんは珍しく素直に返事をしてくれた。



 お風呂から戻ってこっそり部屋のドアを開けると、部屋の中は常夜灯ひとつで薄暗くなっていた。

 音を立てないようそうっと部屋の中に入り、ベッドに潜り込む。

 ぴーちゃんはいつもの猫ベッドではなく、都子ちゃんの布団の端っこで丸くなっている。ちゃんと都子ちゃんの接待をしてくれていたらしい。


 私もベッドの上に寝転び、いつものように天井を見上げる。

 常夜灯の中、ふわふわ~っと飛ぶ淡いピンク色の光と一緒に、苺ちゃん達もくるくるっと舞い踊っている。

 苺ちゃん達の元気そうな様子から見て、どうやら都子ちゃんはまだ起きているようだ。


「起こしちゃった?」

「……ううん。起きてたの。起きてるって、なんでわかったの?」

「苺ちゃん達が元気だから。眠ると起きてる時より光の数が少なくなって動きも鈍くなるの」

「一目瞭然なのね」


 ふふっと都子ちゃんが楽しそうに笑う。

 気の抜けた、柔らかな笑い声に、私も自然に笑顔になる。


「都子ちゃんは私の学校での噂、知ってるよね? 怖くないの?」

「当たり前でしょ。だって私は、芽生ちゃんが私達の目には見えない『妖精さんみたいなもの』を見ているんだって知ってたもの。それに、妖精さんが見えるなんて言っていた子が、人を呪うようになるとも思えなかったし」

「……そっか。ありがと」

「こちらこそ、ありがとうだよ。……もしも今日、芽生ちゃんに声をかけてもらえなかったら、今ごろどうなっていたか……」


 都子ちゃんがそう言った途端、苺ちゃん達がぎざぎざと鋭角に飛び回りはじめた。


「都子ちゃん、嫌なことは考えないで……。怖い夢見ちゃうよ」

「……そうね」

「大丈夫。きっとすぐに都子ちゃんのお父さんだって見つかるから。味方してくれる大人が増えたら、怖いお婆さんだって撃退できるよ」

「うん、そうよね。……でも、もしも……もしも、パパが私のこと怒ってたら……どうしよう。離婚して以来、一度も会ってないの。私、パパに本当に酷いことを言ったから……嫌われてたら……どうしよう」

「にゃん」


 涙声になった都子ちゃんに、ぴーちゃんがすり寄っていっている。

 苺ちゃん達は、なにかを訴えるように、一斉に私にぶつかってきた。


 こういう時、どうしたらいいんだろう?


 友達がいなかったからわからない。

 わからないから、真っ先に慰めにいったぴーちゃんを見習うことにした。


 ベッドから都子ちゃんの布団に移動して、寄り添うように寝転び、泣いて震える都子ちゃんの肩をポンポンと軽く叩く。


「大丈夫だよ。お父さんだって、都子ちゃんが苦しんでたこときっとわかってくれてる。怒ってないと思うよ」


 悪いのは、都子ちゃんに父親への悪口を強要した母親だ。

 小さな子供には、親に抗う術などないのだから……。


「……もしも怒ってたら?」

「その時は謝ればいいよ。私も一緒に謝ってあげる。許してもらえるまで二人でがんばろう?」

「うん。……芽生ちゃん、今日は本当にありがとう」


 ありがとう、と何度も呟きながら、都子ちゃんは泣き続けた。

 途中、脱水が心配になった私が麦茶を差し出すと、ふふっと柔らかく笑って、またありがとうと言ってくれた。


「私、今日一日で何回ありがとうって言ったかな」


 都子ちゃんは微笑んで、そう呟いた。


 結局この夜の私達は、ぴーちゃんを真ん中にして、三人(?)で寄り添いあって眠ったのだった。

月曜木曜の週二回更新を目指してがんばってます。

お話が進んできたので、あらすじをちょっと変更しました。


次話は、マッチョに囲まれてひゃっはーw

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