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這いずるもの再び 1

「ただいまー」

「ただいま帰りました」


 いつものように都子ちゃんと家に帰ると、リビングのほうからバタバタと慌ただしい気配がした。

 この状況には覚えがある。

 リビングに顔を出すと、案の定両親が荷造りをしているところだった。

 しかもお客さんが三人もいるのに、ほったらかしにしたままだ。


「お祖父ちゃん、また倒れたの?」

「いいや、むしろ元気になりすぎた。大人しく寝ててくれればよかったんだがな」

「孝俊さん、これも必要でしょう?」

「おう。ありがとう」


 前回同様、もう時間の余裕がないらしい。

 なにがあったのかは後で母に聞こうと思って、お客さんのほうに顔を向けた。


「城崎さん、茜さん、いらっしゃい」

「やあ、芽生ちゃん」

「どうも」


 気さくに返事してくれるお馴染みの二人の隣には、穏やかそうな細面の中年男性がいた。


「えっと……はじめましてですよね? 藤麻芽生です。こちらは友達の都子ちゃん」

「こんにちは」

「こんにちは。お嬢さん達。山内です。おじさんは神主を仕事にしてるんだよ」


 微笑む山内さんの膝の上には、ぴーちゃんが乗っていて、背中を撫でられて気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らしていた。


 私の膝の上には、よっぽどのことがない限り乗ってくれないのに!


 ぴーちゃんが懐いたんだから、きっと凄くいい人なんだろう。

 だが私は嫉妬メラメラだ。


「いらっしゃるのって今日でしたっけ?」

「いや、三日後の予定だったんだ。神社関係で急な呼び出しがあったので予定を変更してもらったんだよ。お陰でとても楽しい時間を過ごせてたんだけどね」


 界太先生のサイン色紙も貰えたしと、山内さんが嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、もしかしなくてもそのお話の途中で、急にあんな状態に?」


 父を指差すと、城崎さんが苦笑して頷いた。


「死に損ないが騒いでるから田舎に帰らなくちゃならなくなったって言ってたな。事情はわからないけど、界太先生の生家との諍いは有名な話だから、なんとなく察してるところ」

「そっか……。せっかく来ていただいたのにすみません」


 ペコッと頭を下げてから、都子ちゃんと一緒に空いているソファに座った。


「いやいや、ぴーちゃんともこうして存分に触れあえたし、君とも会えた。目的は充分に果たしたよ」

「私?」

「そう」


 山内さんは、私をじいっと見た。

 たまに私が他の人にやってることだが、こうして黙ったままじいっと見られるのって、けっこう落ち着かない。

 心の中まで見られているような気がして、お尻がむずむずする。


「えっと……なにかわかりますか?」

「うん。私には君たちの見ている神気の光は見えないが、その代わり俗に言うところのオーラといったような、生体から発する光は見えるんだ。君のオーラは茜さんと良く似ている。他者と共鳴しやすい、巫女に向いているタイプだ」

「茜さんと一緒かぁ」


 それは素直に嬉しい。


「じゃあ、都子ちゃんはどうですか?」

「彼女は……そうだね。とてもオーラの光が強い。生命力そのものが強いんだろうね。道を誤らなければ、ひとかどの人物になれるだろう」

「凄い。凄いね都子ちゃん」


 私は嬉しくてはしゃいだが、都子ちゃんは微妙な顔をしていた。


「嬉しくないの?」

「う~ん。自分には見えないものだから、そのまま信じることはできないかなって……。すみません」

「いやいや、いいんだよ。それでこそだ。君はそれでいい」


 山内さんは嬉しそうにそう言った。


「おっと、もう時間がないな。――いいかい、お嬢さん達。もしかしたら、今晩また怖いことが起きるかもしれない」

「え?」

「おじさんがいないときに起きる怖いことって、あの黒いもののことですか?」

「そうだよ。でも、怖がらなくてもいい」

「お札を用意してくれたんですね」

「そうだね。でもたぶんお札では止めきれないと思う。だが茜さんが君たちを守る」

「茜さんが⁉」


 びっくりして視線を向けると、茜さんが「まかせといて」とつるペタの胸を叩いた。


「その時が来たら、君たちも協力してやってくれ」

「協力って、どうすればいいの?」

「茜さんのやることを黙って信じてくれればいい。信じるのが無理なようなら、応援するだけでもいい。君たちの神気の光が茜さんの力になるからね」

「光が力になるんですか?」


 くるくるっと宙を舞う光は綺麗なだけで、現実世界にはなんの力も持たない。澱みにぶつかっていっても、ほんの少し相殺されるだけだ。

 あの黒いものに対抗するには弱すぎるんじゃないかと思ったのだが。


「芽生ちゃんがヒントをくれたのよ?」

「私?」

「そう。学校で黒い靄を祓ったんでしょう?

「そうみたいだけど、自覚してやったわけじゃないし……」

「それを自覚してやれるようになったのよ」

「山内さんのお陰だけどね」


 そんなこと、本当にできるんだろうか?

 半信半疑でいると、背後からポンと肩を叩かれた。


「俺は反対なんだ。できれば俺がいない間、みんなでホテルにでも避難していて欲しいぐらいだ」

「ホテルに避難しても、多分無駄ですよ。あの黒いものは奥さんか芽生ちゃんを狙ってるんです。幸い城崎君が見てくれたお陰で、それが生き霊だということがわかってる。そして茜さんという戦力も得た。ここで思いっきり叩くべきです。きっと本体にもダメージがいって、うまくいけば生き霊を飛ばせる精神力をごっそり削ぎとることもできるでしょう」

「反撃されてダメージを受ければ、現実でも体調を崩すはずです。誰が黒いもの――生き霊を飛ばしてきたのか、それで見いだすこともできると思いますよ」

「この先ずっと黒いものに悩まされるのは嫌でしょう? 取材旅行にすら行けなくなってしまいますよ」

「確かに……」


 山内さんと城崎さんに説得されて、父は物凄く嫌そうな顔で渋々頷いていた。

読んでいただきありがとうございます。


この作品はこれが年内最後の更新です。皆さま、良いお年を。


次話は、護身刀。

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