ひまわりのこと 1
「よし、終了だ。後ろの生徒、答案用紙を集めてくれ」
「はい」
テスト終了と同時に、教室中をくるくるっびゅんびゅんと光がのびのびと楽しげに飛び回った。
私も開放感からおもいっきり伸びをする。
定期テストの後、採点の時間を取る為にテスト休みを取る学校がもあるようだが、残念ながら我が母校にはない。
それでも終業式まではずっと午前授業だけなので、テスト終了後の開放感はハンパなかった。
今日からもうあんなに勉強しなくていいんだと、じんわりしみじみ喜びに浸っていると、「どうだった?」と都子ちゃんに肩を叩かれた。
「今日もばっちり」
「そう、よかった」
笑顔で答えると、都子ちゃんはほっとしたようだった。
テスト期間中に孝おじさんが訪ねてきたりして、ちょっとごたごたしたことをまだ気にしているのだ。
でも大丈夫。孝おじさんが訪ねて来た翌日から私は絶好調だ。
問題があるとすれば、それ以前の教科で……いや、とりあえずテストが返却されるまでは忘れよう。
「じゃあ行きましょうか」
「うん。ご飯なに食べる?」
「そうね、久しぶりにファストフード食べたいな。ひとり暮らしだった時は、面倒でよくテイクアウトしてたから」
「じゃあ、フードコートを利用しよっか」
「そうね」
学校鞄を手に立ち上がったところで、ニヤニヤ委員長、咲希ちゃんに「どっか行くの?」と声をかけられた。
「うん、服を買いに行くんだ」
今のところ都子ちゃんは最低限の服しか持ってないから、夏休み前に少し補充する予定なのだ。もちろん、私のも。
学校帰りに友達と買い物に行くなんてはじめてだから、私はすでにご機嫌だ。
「一緒に行っていい?」
「もちろんいいよ。美結達も誘う?」
「誘うだけ無駄。あの二人は今日から部活でしょ」
「あ、そっか」
テスト期間中は原則部活禁止なのだが、美結と杏ちゃんは一日でもサボると身体の調子が狂うと言って、家に帰ってから自主練と称して二人でランニングや筋トレをしていたようだ。
二人の姿を教室内で探すと、部活前の腹ごしらえか、ふたりしてお弁当を広げてちょっと早いお昼ご飯を食べていた。
「部活頑張ってね。ばいばい」
「また明日ねー」
挨拶して教室を出る。
目的地は学校の最寄り駅から駅三つぶん離れたところにあるショッピングモールだ。
私も都子ちゃんも好みがはっきりしているせいか、服を選ぶのにほとんど迷うことがない。ざっと売り場を見て回って気に入った服を手に取り、ふたりしてさくさくレジに向かおうとしたら、咲希ちゃんに止められた。
「なんなのあんた達。つっまんない買い物の仕方してるわね。試着ぐらいしなさいよ」
「試着しなくても大丈夫だよ。ゆったりサイズを選んでるから」
「そういえば、芽生ちゃんっていつもぶかぶかの服着てるわね」
私が持っている服を見て都子ちゃんが言った。
「うん。なんか楽だし」
上はゆったりで下はぴったりしたパンツ。私は基本的にボーイッシュな服装を好んで着ている。
「都子ちゃんは、けっこう地味な色の服を選んでるんだね」
家に来てからの都子ちゃんは、母が用意してくれた服ばかりを着ていた。母の好みでちょっとフェミニン系だったのだが、都子ちゃんがいま手にしている服は、アースカラーでデザインも飾り気がなくシンプルだ。
「都子ちゃん色白で美人だし、もっとはっきりした色やお嬢さまっぽいデザインが似合うと思うんだけど」
「同感。ついでに言うと、芽生ちゃんはもっと可愛らしい服が似合うと思うわよ」
たとえばこれとか、と咲希ちゃんがずいっと差し出した服に、私は目が点になった。
明るい黄色でオフショルダーのひらひらしたトップスだったからだ。
「えー、こんなの似合わないよ」
「絶対似合うって。これに短パンをあわせて、厚底サンダル履いたらばっちり」
「うん、可愛い」
「でしょ? 都子は……そうね、こういうのはどう?」
咲希ちゃんは私に黄色のトップスを押しつけると、涼しげな青の小花柄でノースリーブのワンピースを持ってきて、都子ちゃんの顔にあてた。
「都子ちゃん似合う!」
「でも……派手じゃない?」
「全然派手じゃないよ。試着してみなよ」
「その服は預かるから。着てみて」
私は咲希ちゃんと一緒に都子ちゃんが持っていた服を取り上げて、都子ちゃんの背中を押して試着室に押し込んだ。
読んでくださってありがとうございます。
台風被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
今回は短めです。
次話こそ、買い物します。




