植物のこと
「ああ、今年も綺麗に咲いたわね。素敵な花をありがとう」
優しく話しかけながら植物達の世話をする母の姿を、子供の頃からずっと見てきた。
世話される植物達は、母の優しい手を喜んで受け入れて、いつも母に向かってキラキラと白金色の光を放出していた。
植物との親和性が高い母にとって、自分の手で育てている植物達は物言わぬ友人だ。長年ミニ温室で手がけている品種改良中の薔薇達は、きっと子供みたいに思っていただろう。
それら全てが、一瞬で全滅した。
たぶん植物達は、あの這い寄ってくる黒い人型のものから母を守ろうとしてくれたんじゃないかと思う。
その命の全てを燃やし尽くして光を放出し、あの黒い人型のものを消し去ってくれたのだ。
私がなにも言わずとも、母にもそれがわかっているようだった。
一瞬で枯れてぱりぱりになってしまった葉に触れるその顔は今まで見たことがないほどに悲しげだ。
「……お母さん」
「大丈夫よ。わかってる。この子達は私達を守ろうとしてくれたのよね……。悲しむよりも、まず感謝しなくちゃ」
ふうっと長い溜め息をついた母は、気持ちを入れ替えるように微笑んで顔を上げ、私達を見た。
「今日は三人……いえ、ぴーちゃんも入れて、四人で一緒に寝ましょうか」
「それなら、私の部屋を使おう。たぶん、今一番安全な場所だから」
あの黒い人型のものが這いずった後には、私の目にしか見えない澱みがなめくじの這った跡のように残っていた。
だが白金の光が充満した私の部屋には一切痕跡が残っていない。綺麗なものだ。
いや、むしろ植物たちの光によって浄化されて、清浄な空間になっていた。
その後、私は廊下やリビングに残った澱みに除菌消臭スプレーを吹き付けまくった。その間に母と都子ちゃんは、私の部屋で寝る準備を整えてくれている。
ぴーちゃんは、すっかりいつも通りだ。私に抱っこされたのが不本意だったのだと言わんばかりに、ベッドの上で私の手が触れた所を、んべんべと舐めまくっている。
そんな中、父から母の携帯に連絡が入った。
祖父の意識が無事戻ったそうで、今後の介護等のことについて叔父さん達と話し合って、たぶん明後日には帰って来るとのこと。
母はさっき起こった恐ろしい出来事を、父にはなにも話さなかった。通話だけじゃなく、トークアプリでもずっと父とやりとりをしていたようだが、この件に関しては触れずにいるらしい。
教えれば、父はなにを置いても帰って来ようとする。
それがわかりきっていたから、帰って来てから話すことにしたようだ。
「植物を育てる力?」
「そう。お母さんは緑の指の持ち主なの」
母がお風呂に入っている間、説明下手な私は、実例を挙げて母の能力について都子ちゃんに説明した。
話を聞いている間、何故か都子ちゃんはなにかが腑に落ちたかのように何度も頷いていた。
「じゃあ、芽生ちゃんの力は遺伝なのね」
「え?」
思いがけないことを言われて、私はぷるぷると首を横に振った。
「私には植物を育てる力なんてないよ。光や澱みが見えるだけ」
「うん。わかってる。でも、やっぱりその力って遺伝だと思う」
都子ちゃんが不思議な力を持った人に出会ったのは、私がはじめてだったのだと言う。そして、母が二人目だと。
たぶん普通の人にとって出会うことが稀だろう不思議な力を持った者が、この家の中にはふたりいる。
これはただの偶然ではないだろうと都子ちゃんは断言した。
「夕香さんから、家系的な事情とか、聞いてないの?」
「うん。……お母さん、実家とは疎遠だから、そっちの親戚には会ったこともないよ」
でも、母が実家と疎遠なのは、持って生まれた緑の指の力を疎まれたせいだ。
もしもこの力が家系に関わるものだったら、不思議な力を持って生まれたからといって、疎まれることはないような気がするのだが……。
落ち着いたら、母は昔の話をしてくれると言っていた。
母にとって、きっと過去の話は楽しいものではないような気がする。
だから今は無理に聞かずに、話してくれるその日を待とうと思った。
「……今日は遊ぶ気力もないみたいね」
昼休み、もそもそとお弁当を食べていると、トランプを手に咲希ちゃんがやってきた。
「見るからに、しょんぼりしちゃって……。――もしかして具合悪いの?」
咲希ちゃんは、私ではなくなぜか都子ちゃんにそう聞いた。
「体調は悪くないと思う。ただ昨日、芽生ちゃんのお祖父さんが倒れて、お父さんが実家に行っちゃったのよ。心配なのと寂しいのとで元気がないみたい」
「そう」
咲希ちゃんは納得してくれたようだが、これは半分以上嘘だ。事情をうまく話せない私の代わりに、都子ちゃんが適当に言い繕ってくれているだけ。
実を言うと私は、母のことを心配するあまりしょんぼりしていたのだ。
今こうしている間も、きっと母はひとりで枯れた植物達の後始末……いや、埋葬をしていることだろう。
その気持ちを思うと、いてもたってもいられなくなる。
本当は学校にだって来たくなかった。枯れた植物だらけの家に母をひとりにしておきたくない。学校を休んで、私も母の手伝いをしていたかった。
『それは駄目。お母さんなら大丈夫だから、しっかり勉強してらっしゃい。――都子ちゃん、よろしくね』
母に拒否された私は、都子ちゃんに手を引かれて渋々学校にやって来たというわけだ。
「ん~? でも、芽生ちゃんのお父さんって、漫画家の清風界太よね? 実家とは絶縁してるんじゃなかったっけ?」
「絶縁は祖父とだけ。他の親戚とは縁を切ってないよ。たぶん父は、祖母のことを心配して田舎に戻ったんだと思う」
父の実家は田舎の地方都市で総合病院を経営している。
父は医者になって跡を継ぐことを切望されていたらしい。
それが漫画家として大学生デビューを果たしてしまったものだから、二度と家の敷居をまたぐなと祖父が大激怒して絶縁……というのが、父が雑誌のインタビュー等で世間に言いふらしている実家との関係だ。
だが、現実は違う。
絶縁までには、もう一段階踏んでいた。
「お祖父ちゃん、お父さんが漫画家になることは許してくれたの。その代わりに、漫画ならどこでも書けるだろうから、田舎に戻ってきて医師の女性と結婚して、名だけでも経営に関われって言われたんだって……」
祖父は長子相続に拘る古いタイプの人間だったようだ。
だが、すでにその時には、運命の女神の導きで(と、父が
言っていた)父は母と出会っていた。そして母のお腹には私も宿っていた。
その事実を告げて、祖父の命令に逆らったら、祖父は言ったのだそうだ。
『どうせ財産狙いだ。その素性の怪しい女とは別れろ。腹の子供は堕ろせばいい』
「そんな酷いことを言われて、お父さん切れちゃったんだって。で、お祖父ちゃんと大げんかして、これまで出してもらった学費や養育費なんかを借金してまで全額返却して、完全に絶縁することになったの」
そして、父の実家の病院は、父の弟である次晴叔父さんが後継者となった。
帰りのバスの中、私は世間には公表していない我が家の事情を都子ちゃんに説明した。
「ああ、それで……。昨日、お祖父さんが倒れたって聞いても、芽生ちゃんがあまり狼狽えないから、ちょっと違和感を覚えてたのよね」
「うん。一度も会ったことないから、実感も沸かなくて……。あ、でもね。お祖母ちゃんや叔父さん一家とは本当に仲良くしてるんだよ。毎年夏にはお祖父ちゃんに内緒で、旅行を兼ねてお墓参りにも行ってるし……。だからね、実を言うと、お祖父ちゃんよりお祖母ちゃんのほうが心配なんだ」
父に拒絶されてからも、祖父はなかなか父に跡を継がせるのを諦め切れなかったらしい。
そのせいか、実際に跡を継ぐことになった次晴叔父さんに対しても当たりが強いようで、ここの親子仲も微妙らしい。
その結果、距離を置いたほうがいいと次晴叔父さんは家族を連れて別に家を持つようになり、祖父母は現在広い家にふたり暮らしだ。
もしもこのまま祖父が入院することになったら、祖母がひとりになってしまう。退院できたとしても、祖母ひとりで祖父の介護は難しいだろう。
きっと父は、そこら辺の対応を考える為に向こうに残っているのだと思う。
昔から次晴叔父さんは医者になる気満々だったそうだから、祖父が父に跡を継がせることに拘らずにいてくれたら、全て丸く収まっていたのかもしれないのに……。
なかなかうまくいかないものだ。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
家に帰るとすぐ、私は母の姿を捜して家の中に駆け込んでいった。
出迎えに来たぴーちゃんは、例の如く私の脛に頭突きをしようと狙っていたが、走る私にぶつかるとダメージを受けるのは自分だと気づいたのか、途中で方向転換して都子ちゃんに甘えるようにすり寄っていった。
「ただいま、ぴーちゃん。今日も可愛いわね」
ぴーちゃんが都子ちゃんにすんなり抱き上げられるのを横目で見て、私は心にちょっとだけダメージを負った。
「お母さん、帰ったよ」
「はい、おかえりなさい」
バルコニーで空になった植木鉢を洗って干していた母に声をかけると、母は日焼け防止の麦わら帽子の下で穏やかに微笑んだ。
「大丈夫?」
「ええ。――見て。少しだけど、生き残ってる子達がいたのよ」
バルコニーの日陰になっている場所に小さな植木鉢やプランターがいくつか並べてあった。
枯れる前に落ちていた葉や、まだ微かに生気が残っている根を見つけては、もう一度芽吹くようにと祈りながら植え替えたようだ。
母からは今も、ぽぽぽんとライムグリーンの光達が飛び出してきて、植木鉢の上でくるくるっと踊っている。
「うまく根付けばいいんだけど……」
「大丈夫、生きてるよ。お母さんの光に応えるみたいに、小さな白金の光が出てきてるから……」
その光は、まだ弱々しい。
でも、母の緑の指にかかれば、きっと生きのびるはずだ。
「さて、じゃあお母さんも休憩にしようかしら。ふたりとも着替えてらっしゃい。――今日はお父さんの仕事場で、翠さんと一緒にお茶にしましょう」
父が不在の間も、アシスタントの翠さんはひとりで働いてくれているようだ。
私達は、母と一緒に父の仕事場に向かった。
今日のおやつは、もらい物のクッキーの詰め合わせ。
有り難いことに、人気者の父のお蔭で我が家は美味しい物に事欠かない。
「あ、夕香さん。ちょっとこれ見てください」
父の仕事場に着くとすぐ、翠さんに手招きされた。
招かれるまま仕事場に行くと、父の作業スペースのすぐ側に置いてある大きなパキラが完全に枯れていた。
「他のはなんともないんですけど、朝来たら、この子だけ急に枯れちゃってて……。病気でしょうか?」
「ううん。違うわ。この子も私達を守ってくれたんだわ。――助けてくれて、ありがとう」
母の言葉の意味がわからず首を傾げる翠さんに、私は昨夜の話をした。
長いつき合いの翠さんは我が家の特殊事情に通じているから、隠すことはなにもない。
「ああ、そっかぁ。ずっと界太先生の側で、夕香さんや芽生ちゃんの話を聞かされていたから、きっとこの子も心配して助けに行っちゃったんだね」
よしよし偉いぞ。良くやったと、翠さんが、母と一緒に枯れたパキラの幹を撫でる。
子供の頃からよく構ってくれたこの人の、こういうところが私は大好きだ。
「孝俊さんが帰って来るまでに、新しい子をお迎えしなくちゃね」
「この鉢、移動させますか? 玄関? ベランダ?」
「玄関にしましょう。今日の夜、水原さんが新しい子達を届けてくれるそうだから、その時に回収してもらうわ」
「よし、じゃあ運ぶか」
「あ、手伝います」
張り切る翠さんに、都子ちゃんが声をかける。
私も慌てて声をかけた。
「駄目。翠さんはそっちに座ってて。私と都子ちゃんで運ぶから」
「おやぁ? ひょろひょろな芽生ちゃんに運べるかな? これ重いよ~」
「運べるもん。……都子ちゃんとお母さんと三人でなら。――だから翠さんは、そっちで座ってて」
「なんで私だけハブるの?」
「だって重い物持ったりしたら、お腹の赤ちゃんに悪いでしょ」
私の言葉に、翠さんが固まった。
「……赤ちゃん?」
「あれ? もしかしてまだ気づいてなかった?」
「え、嘘。マジで?」
「マジマジ。いるよ。翠さんのお腹から、翠さんのとは違う光が出てくるのが見えてるよ」
ちなみに、今まで色々見てきてわかったことだが、胎児や生まれたばかりの赤ちゃんの光は透明だ。
少し育って、自我が出てくる頃からじわじわと光にも色がついてくる。
「うわ~、びっくりだ。年齢的にも自然妊娠は難しいかなって思ってたのに……。できてたんだ。うわ~、嬉しいけど、どうしよう」
思いがけない妊娠に翠さんはなんだかオロオロしている。
母は宥めるように、そんな翠さんの腕を軽く叩いた。
「はい、落ち着いて。仕事がそんなに押してないなら、とりあえずお医者さんに行って確認してきたら?」
「そ、そうですよね。とりあえず、その美味しそうなクッキー食べてから、お医者さんに行ってみます」
翠さんは、ちゃっかり旦那さんの分のクッキーのお土産も確保して帰って行った。
その夜、夕食を終えてしばらくした頃に来客があった。
来たのは、母が高校時代にアルバイトしていた花屋さんを営む水原さん夫妻だ。
ひとり暮らしで苦労していた母を、ずっと守り続けてくれた人達でもある。
「夕ちゃん、もう大丈夫よ。色々持ってきたからね」
「大変な目に遭ったんだってな。元気そうなのを沢山見つくろってきたぞ。――おお、芽生ちゃん。元気か?」
「うん。元気!」
「そっちのべっぴんさんが、芽生ちゃんのはじめての友達か」
「そう。都子ちゃん。都子ちゃん、水原さんだよ。お母さんの親代わりなの」
「田宮都子です。はじめまして」
「はい、よろしくね」
「芽生ちゃんを頼むな」
水原さん夫妻は、そろそろ初老に差し掛かろうという年齢だが、常日頃から重い荷物を運んでいるからか、二人ともがっちりした体つきをしていてとても元気だ。
ふたりは大きな代車を使って何度も駐車場と家とを往復して、我が家に大量の鉢植えや苗を運び入れた。
「おじさん、注文したより多いような気がするんですけど……」
「細かいことは気にすんな」
「そうよ。増やしたぶん、それなりに割引もしてるからね」
サービスじゃないんだ。ちゃっかりしてるなと、私はこっそり笑う。
「その怖いものが、また来るかもしれないでしょう? その時の為にも、多めに緑を用意しておいたほうがいいわ」
あらかじめ母から電話で事情を聞いていたのだろう。
おばさんは母にそう言うが、母は複雑そうだ。
「でも、また枯らしてしまったら……」
私には言わない弱音を零す母の背中を、おばさんがバンバン叩く。
「そしたら、またあたし達が新しい鉢植えを持ってくるよ」
「そうだ。夕ちゃんは個別に愛情を注いでるがなぁ。こいつらは全体でひとつの命みたいなもんだ。いっくらでも甦るんだから気にすんな」
「そうよ。ろくに手入れもせずに枯らすような人の元に行くより、夕ちゃんみたいな人の元にいたほうがこの子達だってきっと幸せよ。夕ちゃんの緑の指は、植物全体にとっての恩恵なんだから、素直に守られてなさい」
「……それでいいんでしょうか」
「いいに決まってるじゃない。枯れた子達のお蔭で、芽生ちゃん達だって無事だったんでしょう? 頑張った甲斐もあるってもんよ。誉めてやんなきゃ」
表面上は元気に見えていても、やっぱり大事にしていた植物達が枯れてしまったことで、母は弱気になっていたようだ。
そのせいか、母から発生する光の量もいつもより少なかった。
でも、水原さん夫婦に元気な声をかけられる度に、ポン、ポポンと光が次々に飛び出てきて、通常ペースに近付いていく。
私はそれを見ながら、心からほっとしていた。
ちなみに水原さん夫婦の光の色は、ふたりとも濃淡がほんの少し違うミントグリーンに似た色をしている。
母のライムグリーンの光とは相性が良く、入り混じって飛んでいるととても爽やかで梅雨時にはぴったりだ。
「よりによって、孝俊が居ない時にそういう変なのが来るとはなぁ」
作業を終えた後でみんなでまったりお茶を飲んでいると、自然と話が昨夜の怖い出来事に向かった。
「夕ちゃんを守るとか言ってた癖に、肝心な時にいないなんて……」
「おばさん、それは言わないでやってよ。お父さん、泣いちゃうから」
自分の不在中に妻子がこんな怖い目に遭っていたと知ったら、父はショックを受けて、きっと大騒ぎするだろう。
想像するだけで、今からちょっとだけ鬱陶しい。
「しっかし、いったいなんだったんだろうなぁ。幽霊みたいなものとは違ったんだろう?」
「幽霊見たことないからわかんない」
「芽生ちゃん、見えないの?」
「見えないよ。そんなの見えたら怖いもん」
意外そうな都子ちゃんに、私はぶーっと唇を尖らせた。
「お母さんは見たことあるんだよね?」
「ええ。何度かあるわね。でも、昨夜のとは全然違ってたわ。生前の面影がちゃんとあったもの」
母が見たことがあるのは、もっと姿も佇まいも人間らしい幽霊だったそうだ。
澱みまみれじゃないし、その表情から感情を読み取ることさえできた。
「……昨夜のは、幽霊と言うより、妖怪みたいでしたよね」
「うん、そんな感じだった」
都子ちゃんの言葉に、なるほどと私も頷いた。
思い出すだけでも怖くて、思わずぶるっと身震いしてしまう。
「正体がわからないのが怖いねぇ。消えてそれでお終いなのか、それともまた出てくるのかもわからないし……」
「夕ちゃん、孝俊に言って、ちゃんと調べてもらった方が良いぞ。なんだったら、俺の知り合いの坊さんにお経あげてもらうか?」
「とりあえず、孝俊さんに相談してみます」
「お父さんなら、原因がはっきりするまできっと調べまくるだろうね」
「……どうやって調べるのかな?」
都子ちゃんの呟きに、思わずみんなで顔を見合わせてしまった。
「おじさん、そのお坊さんはどうなの?」
「あー、お経上げるぐらいしかできないな。ちゃんと調べるとなると、霊能者か拝み屋か……。素性の怪しい奴が多そうな商売だよなぁ。孝俊は有名人だ。下手な手を打つと大金をむしり取られかねないぞ」
「そこら辺は大丈夫ですよ。孝俊さんはしっかりしてますから」
にっこりと微笑んだ母が得意気に断言する。
父が無条件で母を女神扱いするように、母もまた父を無条件で信頼しきっているのだ。
子供の立場としては、両親の仲が良いのは嬉しい。
ちょっと、照れ臭くもあるけれど……。
「だと良いんだけどな」
「夕ちゃんは、孝俊さんに甘いからねぇ」
水原さん夫妻は、母の惚気にも似た発言に苦笑する。
私は、自分の不在中に起きた怖い出来事を聞いて死ぬほど落ち込むだろう父に、母のこの発言を教えて元気づけてあげなければと使命感に燃えていた。
月曜と木曜の更新を目標に頑張ってます。
次話は、つるぺたが繋ぐ縁。




