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光のこと

新連載はじめます。よろしくお願いします。



 私には光が見える。


 物心がついた時には見えていた。

 両親の話では、赤ん坊の頃からなにもないはずの空間をきょろきょろ見たり、手を伸ばしてなにかを掴む仕草をみせていたようなので、たぶん目が見えるようになるのと同時に光も見えていたんだろうと思う。


 光が見えると言われても、漠然としすぎていてなんのことやら分からないだろう。

 具体的に言えば、私に見えるのは丸い光の固まりだ。

 1ミリにも満たない粒状のものから5センチぐらいのピンポン球サイズのものまでと大きさは様々で、一定の場所に留まることなく、ふわふわくるくると楽しげに宙を舞っている。

 存在できる時間は光の大きさに拠っているようで、粒状のものは発生しても数十秒で消えてしまうが、ピンポン球ぐらいのものは長時間くるくる宙を舞い続けていられるようだ。

 消滅する際、光はパチンと弾ける。

 粒状の小さなものならキラキラして綺麗だが、ピンポン球状の大きなものはピカッと眩しく光るのでちょっと迷惑だ。

 どれぐらい存在していられるんだろうかと大きな光をずっと目で追っていたことがあるが、途中で他の光と入り交じって見失ってしまった。光に目印なんてつけられないので、それ以降確認するのは諦めている。


 ちなみに、光の発生源は、主に人間だ。

 動物や植物からも発生するが、人間のものと比べると小ぶりで動きが鈍い。昆虫からは発生したところを見たことはないが、たぶん小さすぎて私の目では認識できないだけなんじゃないかと思う。


 人間の身体から次から次へと発生してくる光は、その人の周囲をふわふわ舞っていたり、側にいる人にまとわりついていったりする。

 観察した結果、光を生み出した人が好意や興味を持つ人に対しては楽しげにくるくる周囲を舞い踊ったり、頭や肩にぴとっとくっついたりすることが多い。

 逆に、嫌いだったり不信感を抱いている相手に対しては、おらおらと威嚇するように目の前をびゅんびゅん飛び回ったり、物凄い勢いで突撃していってパチンと弾けて消えてしまったりする。

 どこかコミカルにも思えるこの光の動きは、発生源である人間の感情にある程度左右されるのだ。

 動物や植物から発生する光の動きが鈍いのもそのせいなのかもしれない。


 ちなみに、人それぞれ光の色は違う。

 赤、青、黄色、テールグリーンにラベンダー、鴇色に灰青など、ありとあらゆる色がある。

 同じような色でも濃淡が微妙に違っていて、今まで同じ色の光を持つ人達には会ったことはない。一卵性の双子でも違うのだ。



「ひとつの命にひとつの色か。昔流行った歌に似たような歌詞があったな」

「ああ、お花の歌ね。世界にひとつしかない色を持って生まれてくるなんて素敵ね」


 ある程度成長して自分の見ているものを説明できるようになった頃、両親がこの話にやたらと食いついて感動していたのを覚えている。

 光を見慣れている私からすれば、色の違いはもはや個人を示す名札のようなものだったので、両親の感動っぷりが違和感ありまくりで印象深かったのだと思う。


「その光の正体って、きっと妖精さんが放つ光なんだと思うわ。ひとりにひとりずつ守護妖精さんがついてくれているのよ」

「う~ん、どうだろう? 人間の身体から出る光といえばオーラだが、それとは違うみたいだし……。形状はオーブっぽいが霊体ではないしなぁ……。ことによると、うちの娘は未知の特殊能力者なのかもしれないぞ」


 自分だけのお花畑を心の中に持っている母と、永遠のマンガ少年を心の中に飼っている父は、私の話に興味津々でそりゃもう楽しげだった。


 私は、このふたりの子供に生まれたことを感謝している。


 ちょっと想像してみて欲しい。

 なにもない空間にきょろきょろと落ち着きなく視線を向けては、きゃっきゃと笑ったり、急に火がついたように泣きわめく赤ん坊を……。

 しかもその赤ん坊は、やはりなにもない空間に手を伸ばし、見えないなにかを掴む仕草をみせては、開いた手の平になにもないことを確認して不思議そうに首を傾げるのだ。

 気持ち悪いと思わないか?


 そうでなくとも、なんらかの障害を疑われるレベルの奇行には違いない。

 実際、幼少時の検診で目か脳に障害があるのではと疑われたこともあったそうで、あちこち検査にいったらしい。

 結果は異常なし。

 両親は、これも私の個性だと根気よく私の奇行につき合い続けてくれた。


 私が光のことを説明できるようになってからは、面白がって一緒にこの現象について考えてくれるようになった。

 当時の私は、自分には当たり前に見えているものが、他の人には見えないものだと知ったばかり。


 この目に映る世界は、他の人が見ているものとは違う。

 自分は()()()()()()のかもしれないと、幼いながらも怯えのような感情を抱いていたように思う。


 だからこそ、両親が自分の話を笑ってすんなり受け入れてくれたことがとても嬉しかった。

 まあ、ふたりともちょっと……というか、かなり夢見がちなところがあるので、不思議な光が見えるだけで至って常識的な私にはついていけないこともあるのだが、それでも身近に理解者がいてくれることはとても心強い。


 高校生になった現在、私には友達がいない。


 他の人には見えないものを見ている私の仕草は、他の子供達にはただただ不気味に見えてしまうからだ。

 大人のように世間体を気にして取り繕ったりすることがない分だけ、子供の態度はあからさまだ。

 小さな頃から奇行を繰り返してきた私は、気が付くと畏怖と恐怖の対象として子供達から避けられるようになっていた。

 祟られるとでも思っているのか、苛められることはほとんどなかった。私の気分を害さないようにと伝達事項などの枠組みから外されることもないし、グループ分けがある時にもどこかの班に紛れ込ませてもらえる。

 それでも友達になってはもらえない。


 自分でも気をつけているのだが、目の前を急に光が横切ったり弾けたりしたらどうしても視線が動いてしまうし、ぶつかってこられるとつい手で払ってしまう。光だから払えないけど、条件反射で身体が動いてしまうのだから仕方ない。


 唯一友達とよべる存在がいたのは幼稚園児の頃、それも二時間だけの短いつき合いだった。


「ねえ、いつもなにを見ているの?」


 勇気ある女の子にそう聞かれた私は、「妖精さんの光」と答えた。

 もちろんこれは母からの受け売りだ。このぐらいの年齢の子供にとって、母親の言うことは絶対だから。


「妖精さんが見えるなんてステキ。お友達になって?」


 もちろん喜んでうなづいて、その後、母が迎えに来るまで彼女と仲良く一緒に遊んだ。

 そして翌日、顔を合わせるなり絶交された。


「嘘つき! ママが言ってたわ。妖精なんていないのよ」


 その子にとっても、母親の言うことは絶対だったのだ。

 悲しかったが仕方ない。


「大丈夫。芽生ちゃんと友達になってくれる人が、いつかきっと現れるわ」

「美味しいものでも食べて元気だせ」


 しょんぼり落ち込む私を母が慰めてくれて、父は慌ててケーキやフルーツを買いにいってくれた。

 あれから十年、なにがあっても優しく受けとめてくれる場所があるからこそ、私はひとりでもなんとか学校生活を送れている。


 私、こと、藤麻(とうま)芽生(めい)

 高校生になって立てた目標は、友達をひとり作ること。


 だが、その目標も入学して半月で儚く消えた。


 その日、私は教室の窓辺に立って、雨が降りそうだなぁと暗い空を見上げていた。

 ちょうどその時、窓に面した駐輪場辺りから、なにかがぶつかる音と女の子達の悲鳴が聞こえてきた。

 慌てて窓から身を乗り出して下を見ると、出入りの清掃業者のワゴン車と自転車通学の生徒が事故を起こしていた。後に分かったことだが、原因はスマホで通話していた清掃業者のながら運転だったようだ。

 ワゴン車にぶつかった女の子は、大腿骨を折る重傷で休学を余儀なくされた。


 私は事故直後から救急車が来るまでずっと窓から見ていたのだが、それが悪かった。

 その後、うっかり耳に入ってしまった噂話に耳を疑った。


『あの事故の時、B組の藤麻芽生が窓からずっと見てたんだって』

『え、まじで。怖~い』


 なにが怖いのか、さっぱり分からない。

 というか、あの時、他のクラスメイト達だってずっと窓から事故処理の様子を見ていたはずなのに、なぜ私だけが注目されるのだ?


『怪我した子って、藤麻芽生と同じクラスだって。あの子の昔の怖い噂を知って、そんな変な子と同じクラスなんて嫌だって陰で文句を言ってたみたいよ』

『もしかして、それで呪われちゃったの?』

『たぶんね。窓から、じいっとあの目で睨みつけてたって話だし」

『やだ。怖い』


 昔の怖い話ってなに? あの目って、どの目?

 そもそも睨んでない。

 あの時は、ただ心配してただけだ。心配して、ちょっと眉根が寄ってしまっていただけだ。

 それで呪ったと言われるなんて酷い。



――あたし、メイちゃん。あなたをじいっと見つめているの。



 いつの間にか私は、怪談話の登場人物になっていたらしい。

 そんな恐ろしい人物と誰が友達になりたがるものか。


 そんなこんなで、高校生になって環境も変わったことだし今度こそはと張り切って立てた目標は、あっという間に手の届かないものになってしまった。


 それでも、私は諦めない。

 高校生のうちに友達を作るのだ。


 これは、目標ではなく夢である。

 地平線の向こうに揺らぐ蜃気楼のように、遠く、儚い夢である。

のんびりペースでいこうと思ってます。目標は週二回更新。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



そしてお知らせです。

第六回ネット小説大賞を受賞した「縁側でひとやすみ」が、タイトルを「猫付き平屋でひとやすみ 田舎で人生やり直します」に変えて、宝島社さまより発売されることになりました。

発売日は8月6日、イラストレーターはLaruhaさま、ペンネームはクロッチカから黒田ちかに変更しています。

ほぼ全編、手を入れました……というか、ほぼ書き直しました。そこら辺のあれこれについては活動報告にて。

とにもかくにも、ネット版よりも大さん成分(ついでに祖母ちゃん成分もw)大幅増量して、ほのぼの増しになっています。

よろしくお願いします。

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