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旅は道連れ。

私はとりあえず手始めに、国を出てはるか前方に小さく見える少し青みがかった不気味な森を目指すことにした。



「いやぁ、これを歩くとなるとなぁ...。」



道は真っ直ぐ開けた草原。

前後左右敵の姿なし。人影もなし。



うん、歩くか。歩くしか交通手段ないもんな。



うちの高校がスニーカーありでよかったよ。

こんな道ローファーなんぞじゃ足痛くなってた。



戻れないことをなんとなく実感しつつ、先へ先へと歩みを進めた。



〇〇〇〇〇〇



もう3時間くらい歩いたかな。

はるか前方に小さく見えていた森はもうだいぶ大きく見えるようになってきた。


その森の木々は松の木のようにみんな背が高いっぽい。下の方に枝がない分歩きやすいし、タイツが破れる心配もなさそうで何より。



と、まぁさすがに3時間ぶっ通しで歩き続けたせいか運動不足の私にとってはきついものである。

ということで休憩しつつリュックの中身の確認。



「えっと、...」



リュックに入ってたのは、教科書×3にノート×3、スマホに筆箱と財布、お昼に食べなかったメロンパンと飲みかけのペットボトルの緑茶一本、そして無造作に突っ込まれた黒のパーカーに先程貰った金貨の入った麻袋。



割と一日くらいなら何とかなりそう。

明らかに教科書ノートは使い道なさそうに見えるけど。枕くらいにはなるよね。


スマホは電源つかないからただの黒い長方形の物体と化してるけど。



とりあえず、食料も分ければ2日3日は何とかなりそう。希望は見えないけど。



「雲行き怪しい。...少し急ぐかな。」



私は気持ち早めに歩くことにした。




〇〇〇〇〇〇



そう言えば。


異世界ときたらステータスとやらがあると聞いた。



「ステータス。」



無難に、そして間違っていても恥ずかしくないように小声で唱えた。


しかし何も起きなくて虚無感しか残らなかった。


そんなこんなしてるうちにやっと森の入口に到着。


何が待ってるか知らないけど、全部なんとかなるってか、何とかするしかないのよね。



決意新たに前へ前へ足を進める。




〇〇〇〇〇〇


森は鬱蒼としひんやりと不気味な雰囲気だった。


写真やテレビで見てたジャングルほど鬱陶しくはないけど虫も飛んでる。

もちろん見た事ない。



大体が大きい。小さくても手のひらサイズ。


前世の生物の知識が全く通用しない。



これは蜘蛛やら蜂やらに出会ったら逃げに徹するしかないわね。



目的もなく方角もわからずただ前へ進んでるうちに

雨が降ってきてしまった。



最初はポツポツと、今となってはザーザーと最悪だ。



視界の悪い中森を走り回り、やっとで見つけた洞窟らしきもの。



「雨宿り、出来そうね。」



茂みをいくつかこえて、洞窟に到着。



「あら、先客?」



ぽたぽたと髪から雫を垂らしながら、思わぬ先客に少し驚く。



それも怪我をした先客。

加えて言うなら人じゃないし、なんか薄く光ってる。



「幽霊?」



その声にその先客は反応し、顔をむける。



「あら、龍。」



その龍はかなり弱っていると見る。

白くつやつやな鱗に赤い少し固まって黒くなった血が見えた。



大型犬のラブラドールくらいの大きさで、龍にしては小型なのかな?それとも子供なのかしら?

まぁなんだっていいけど。



「あんた、怪我してるのね。...少し待ってね。」




威嚇する気力もないのかただ黙ってこちらを見つめる龍。

そんな見られてもなんも出ないんだけど。


はて、どうしたものか。

こっちの世界なら薬草とかそういうのあるといいんだけど。そもそも薬草なんぞ知らないからなぁ。



そういうのを見極められるスキルかなんかあればいいんだけどね。



ズシンっ...



考えていた時、小さくだがかすかに振動と生物の動く音が聞こえた。



何かいる。



洞窟の奥の方に意識と目線を集中させる。



頭は別のことを考える。



「(魔法も使えない、剣もない、防具もないって...いやほんとどうしよう。何とかなんのこれ。)」



とりあえず動物愛護の精神で、弱った龍を庇うように前にしゃがむ。



「(魔力あっても使えないんじゃなんの意味もない...)」



お?そう言えば、魔法はイメージとか散々言ってたな。


でも闇魔法って何が出来るの?

ブラックホール的なもの?消滅させちゃうじゃん。



あの子の話、もっと聞いとくべきだった...。

右から左へ聞き流しすぎた。



もうなんとでもなれ。



ズシンっ...



私は意識を自分の体内へと向けた。

血が流れるのをイメージし、心臓の音も聞こえる。


あぁ、生きてる。



死ねない、.....死ねない。こんな所で、死んでなるも

のか。



ズシンっ...



かすかに腕の血管を熱いものが流れるのを感じる。



目を閉じて、今度はイメージする。


叩き潰す。誰が...何が来ようと、生きるために。



ズシンっ...



右手になにか掴める感覚がし、それを強く握った。



必ず、勝つ。



目を開けた。私が握ってたのは大剣だった。

それもかなりの重量がありそうな代物。



しかし思ったよりも軽い。

この身体が熱くなる感覚のせいなのかな。



今はなんでもいいや。




重たい足音がどんどん近づいてくる。

覚悟を決めて、両手でその大剣を強く握りしめる。




「ねぇ、動ける?」



私は龍に話しかける。



ズシンっ...



足音は確実にこっちに向かって来ている。




「動けるなら、逃げてよ。動かないと、そこで私と同じ運命を辿ることになるよ。」




ズシンっ...


足が震える。怖い。



「龍、動きなさいっ!!」



その一声で、白い龍は動いた。

音がした。気配が遠のく。



あんたはそれでいいの。

必死で逃げなさい。




「あらやだ、足が震える。.....あんたの足音が大きいからよ、トロール。」




見えた姿は、妖精とされるトロールだった。

3メートルはあると見た。片手に木の棍棒。

あれに触れたら終わりね。



こんなに集中したのは、いつぶりかしらね。





トロールは私の頭めがけて右から左へ棍棒を野球バッドのように振り切った。


集中してたおかげで、なんとか見切れたけど。

あんなの連発されちゃ死ぬのは確実。

避けられたのはまぐれと言える。



そして心は恐怖に支配される。


意志を持つ者は一度恐怖にとらわれたらなかなか抜け出せやしない。



怖い。



トロールは次の攻撃へと行動を移す。


上からの攻撃。

棍棒を大きく振り上げ、両手で思いっきり叩く。



少し動いて、なんとか避けたが衝撃が強く吹っ飛ばされた。

おかげさまで地面に背中から着地。



痛い。



動かなきゃ。殺される。


痛くて固まった体を無理やり起こし、大剣を杖に見立て立ち上がる。



頭から温かいものが伝った。

飛んできた石で頭を打ち、怪我をしたらしい。



あぁ、生きてる。

生きてるなら、諦めたらダメだよね。




足掻け。

悪足掻き?何が悪い。



「うあああああああああああっっっっ!!!!」



柄にもない。

大きな声なんか出しちゃって。



大剣構えて、走り出して。



斜め上から振り下ろされた棍棒をギリギリで避け、懐へと突っ込む。


そして下から斜めに切り上げる。

途中硬いものに当たったが、ありったけの力を込めてぶった切った。



トロールの返り血をたくさん浴びて、血塗れになった。

トロールは力なく後ろに倒れ動かなくなった。



勝った。



安心感から力が抜け、私は座り込んだ。



大剣は消えていた。



よかった。生きてる。




「はあああああ.......疲れたぁぁぁ...」



思わずそのまま寝そべった。

安心して、思わず笑を零してしまった。



あ、忘れてた



「あの龍は人間の言葉理解してるのね。」




どこに行ったのだろうか。



疲れたのか、私はそのまま眠りについてしまった。




〇〇〇〇〇〇



目を覚ますと、周りが騒がしかった。


音の方に視線を向けると、視界いっぱいに白いものが。



意味がわからず、体を起こす。



そこにはミニトロール四体と私を庇うように戦っている先程の白い龍だった。



傷だらけの体にムチを打ち私を庇っていたのだ。



翼や尻尾を使って大きく見せ、吠えて威嚇していた。



「もう大丈夫よ。あとは私がやるわ。」



同じように大剣を作り出し、思いっきり踏み込んで飛んで頭を飛ばした。その勢い殺さず、流れ作業のように首と胴体を切り離して行った。



私は思った以上に大剣の適正があるらしい。





ミニトロールが動かなくなったのを確認して、白い龍のとこに向かう。



もう威嚇はしておらず、翼をたたんでおすわりしていた。



「あんた、逃げたんじゃなかったの?」



『助けてくれたから、僕も助けたかった。』



頭に響いた声は誰?


『僕だよ。きみの前にいるドラゴン。』



「あんた話せるの。」



思わぬ事実に眼を見開いちゃったわ。



「まぁ、いいわ。怪我は?大丈夫なの?」



『うん。雨で血は洗って、木の実食べたから大丈夫だよ。』



私の目を見つめて、尻尾振ってる。

かわいい。



「ならよかった。雨やんだら私は行くよ。それまでは一緒にいさせてね。」


『それなんだけど』



白い龍は私の足元へ来て足に顔をスリスリさせている。

尊い。



『僕も連れてってよ。僕強くなりたいんだ。』


こんなに可愛く尊い生物からのおねだりを断る術を私は知らない。


「そう。どこまで着いてくるの?」



『君の一生分はついて行きたい。僕が大きくなれば、君の足にも剣にも盾にもなれるよ。』


透き通った美しい目をキラキラさせて見つめないで欲しい。

可愛くて仕方ない。



「仕方ないわね。なら私はあんたの道しるべになり、剣にも盾にもなるわ。一緒に強くなろうか。」



おでことおでこを重ねた。

従魔の魔方陣がお互いの胸元に現れた。



「これであんたと一緒だ。」



『名前、つけてよ』



「...ラク。あんたの名前はラクよ。

私はリーゲル。好きに呼んでいいわよ。」



そう言って私は名前に文句言われるのが嫌で背を向けた。



『リル。リルって呼ぶね。ラク...気に入ったよ。素敵な名前、ありがとう。』



様子を見てみるとラクは尻尾がちぎれるんじゃないかってくらい勢いよく振っていた。



旅の仲間ができた。



小さな白いドラゴンのラク。




まぁ旅は道連れって言うしね。





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