苦悩のスキルリーダー
「どうしてこうなった……」
酒場の隅の席でBランク冒険者のミストは呟く。
まだ、20代後半と言うのにの疲れきった顔をしており、別になにかに失敗したわけではないが、愚痴がこぼれてしまう。
「またかよ……」
ここ一月程、パーティを組んでいた少女を思いだし、また愚痴が1つ……
「旦那、なにかやらかしたのかい?」
見かねたのか、酒場のマスターが声をかけてくる。
「ちょっと、相方のユニークスキルがね……」
「あの娘にスキルがあったのかい!?」
ミストの何気ない一言にマスターが食いつく。スキルが発現せずに誰ともパーティを組めなかったのはこの町では有名な話なので無理もないのかもしれないが。
そこに、よそから来たベテランのBランクが面倒を見ていると言う話も最近なにかと話題に上がる。
「あるに決まってんだろう?むしろなんでないと思ってたよ?」
「そ、そうかい」
スキルには先天的技能と後天的技能があり先天的技能は基本的に10~12歳辺りに発現する。
もちもん、例外もあるが……
「で、どんなスキルだったんだ?」
「『大賢者』」
「は?」
「だから『大賢者』」
『大賢者』伝説になりかけてるほど貴重な魔導師が得られる最上級スキル、全ての属性魔法や回復魔法が付属されるとさえ言われている。
どうでもいいがミストの先天的技能のアクアエレメントの完全上位互換でもある。
「ほ、本当に?」
「嘘をつく意味がないだろう?」
「だったら、何で浮かない顔をしてるんだ?仲間が凄いスキルに目覚めたんだろ?」
「いや、探してるスキルホルダーじゃなかったってのもあるが……」
「?」
マスターはミストの言ってることの意味が解らずに疑問符をうかべる。
「周りのやっかみが酷そうでな……」
「ああ……」
面倒そうにそう吐き出すミストをみてマスターは納得した。
最上級スキルを得た今まで見下していた少女に対する嫉妬。
下位互換のスキルを持ちながらも、いきなり最上級スキルの仲間を得た男に対する嫉妬。
確かに、誰も手を差し伸べなかったスキル無しの少女に声を掛けたのはミストだけだったが、結果だけ見れば最も有能な人材をかっさらって行ったと言いがかりをつけられても不思議ではない。
「何でいつもこうなるんだよ……」
ミストは十年近く冒険者をやっていたなかでパーティを組んだ者達を思い出す。
『大騎士』ジャック
『竜騎士』レーナ
『獣神の魂』ハイン
『武聖』シルフィ
『大将軍』ランドス
『神聖』セシリア
極めつけは『勇者』アルメア
いずれも、スキルが発現せずにパーティを追い出されたり、そもそもパーティを組めなかったりしてた所に声を掛けたところ何故か数ヶ月で最上級スキルが発現したのである。
(なんか、アルメアのスキル発現したときに後天的技能『技巧の導き手』とか取得しやがったしな……)
因みにアルメアは3人目にパーティを組み、別れ際にも無理やり着いてこようとしたが、スキルも目覚めて一人前になり、免許皆伝と無理矢理言い含めて一時別れ中。
他にもスキルが発現せずに王族を追われかけた、大国の第一王女を保護したら『万有王権』が発現した事もあった。
「俺が何をしたって言うんだよ……」
「まあまあ……」
だが、ミストはめげない。
勇者や世界に8人しかいないSランク冒険者のうち5人に追いかけられたり、大国の将軍から捜索をかけられていても、同じく大国の王族から五体満足限定とはいえ、賞金をかけられていても。
求めているスキル『万能家事』を持つ者を探しだし同居するまで。
(冒険者始めた頃は、『万能家事』持ちの嫁さん希望してたけど、年齢的に雇うだけになりそうだし、性別は気にしなくてもいいし……)
妥協はしたけど諦めたりしない。
例え、現在、勇者に押し付けようしてる少女が色々拗らせた勇者達と意気投合して、追いかけっこに参加しようとも…
某大国の王城に勝手に私室が作られていても……
ぶっちゃけ、コネを使うだけでそれよりいい暮らしを出来ることに気付いていなくてもミストは諦めない。