表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

報告(d)

「しかし和也氏は、そんな事情を知るよしもない。


ここからは憶測でしかないのだが……、彼は奥様と倉永氏の"関係"に、もとから気づいていた。

そして最後の引き金となったのは、やはりあの絵画だろう。


額縁を苦手とする奥様が、やむをえず和也氏の部屋に絵画を飾ったことが、

和也氏にとっては無言の当てつけに感じられたのではないだろうか?


結局、和也氏はその"妻の恋人から妻へ贈られた絵画"を隠し、自殺した。

あの絵画こそが、奥様のこころが和也氏から離れたという、……いわば"不幸せ"の、なによりの象徴だったのだから」


どこからか、なにかの物音が聞こえた。

あいかわらず倉永は、うわの空の様子だった。


「もしくは……、自分の死後、だれかが真実を暴いてくれるかもしれないと、

……奥様に一矢報いたいと、和也氏はほのかに期待していたのかもしれない」


千代は顔をゆがめた。

千代から見れば、故人の最後のあがきに、まんまとはめられたというわけだ。


「依頼内容にもどります」


深神は帽子の影から千代を見すえて、わずかに笑った。


「絵画なら、和也氏の書斎の本棚の裏側に、巧妙に隠されていますよ。

それと……こちらは探偵の業務外だが、和也氏を自殺に追いこんだのは……


間違いなくあなたがた、おふたりです」


その時、空気を裂くような短い悲鳴が聞こえた。


深神が階段のほうへ目を向ける。

今の悲鳴はたしかに二階のほうからだった。


「まさか」


深神が小声でつぶやき、そのあとすぐに、階段を駆け上っていった。


「萌乃ちゃん!」


深神は萌乃の部屋の扉を開けた。

そこでまず目に入ったのは、足元の床に広がる髪の束だった。


その髪をたどればなんてことない、

……小さな少女の身体が、うつぶせで倒れているだけだった。



倒れていたのは、宮下緋色。



助けを求めるかのようにこちらにのばされた小さな手に、動きはない。

床には赤黒い血だまりが広がっている。


そんな緋色の身体を冷ややかに見下ろしているのは、もうひとりの少女。


手元には赤い血がべったりとついている。

……葵萌乃の手には、カッターナイフが固くにぎられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ