4話 食文化に革命を齎しました
調子に乗って本日2話目の投稿です!
3つの材料。
それは卵とお酢と食用油。
「卵を使うものなら作っただろう?」
そういうドワーフのシェフは確かにアレの原型を見せる。
「確かにそうですね。でも、この方法では完成しないんです。この卵を使ったドレッシングの真の姿、ご覧に入れましょう。」
そう言うと僕はボウルへお酢と卵を入れてかき混ぜ始める。電動泡立て器があれば手っ取り早いが、そんなものはないので基本の風魔法を使って急場しのぎだがこれで代用だ。
本来の人力では到底出せないスピードで撹拌されていくお酢と卵。そこに少しずつサラダ油を加えていくと僕が望んだ、そしてシェフの彼にとっては未知の変化が起きる。
「どういうことだ?白く、クリーム状になっていく……?」
しばらく撹拌すること10分。
完全にクリーム状になり、黄色がかった乳白色のそれは、僕にとってはとても懐かしく、同時にこの場にいる全員には真新しいものとしてこの場をどよめかせた。
「ふぅ……できた。食べてみてください。」
ドワーフのシェフの彼に一さじを掬って渡す。
「こ、これは……!!なんて美味しさだ……!いくらでも食べたくなってしまう……!!!」
彼の探求してきた味の世界に、突如として300年近い未来の味を刻むこととなった。
そうなれば当然、シルヴィアさんやメリルちゃんも食べたい、となるわけで。
「これは……クリーミーで今までにない味です……!美味しい……!」
「美味しい!!お兄ちゃんすごい!!」
気が付くと厨房には長蛇の列が。
裏切られた異世界人が作り出した全く新しいドレッシングの味を求めて魔王城に残っていた魔物がこぞって集まり、そして城中のほぼ全ての魔物がこの味に舌鼓を打ったあと。
「この卵のドレッシング、どうやって作ったのだ?」
ドワーフのシェフ、名前をレギュムというそうで、奇遇にもフランス語で野菜と言う意味を持つ彼は、きっとこの仕事に就くために生まれたのだろうな、と頭の中でそう思った。
「従来のドレッシングのようにやるのではなく、油を少しずつ入れながらひたすらにかき混ぜるんです。そうすると乳化という現象が起こり、こうやってクリーム状になるんです。お酢、つまりは水、そして油、この2つは本来混ざらないんですが、卵、特に卵黄はこの2つを繋げることができるんです。」
仕組みを改めて実践しながら説明し、レギュムさん自身の手で作らせる。こうして現代の調味料がこの魔王軍に齎された。
「これはマヨネーズといって、僕の元いた世界ではとても一般的なドレッシングとして親しまれていました。本来ならこれが生まれるのは、この魔王軍の文化のレベルが僕の元いた世界と同じペースで発展していく、と考えると300年以上後に生まれるものです。」
ここで一度話を切り、シルヴィアさんに視線を向ける。
「シルヴィアさんはこの魔王軍に何を齎せるか、と聞きましたよね?僕が齎せるものは、こうして、本来ならばまだ生まれることのない文化レベルの物品を作り出すための知識です。」
真っ直ぐに彼女を見つめ、改めて答える。
「どうか、僕をこの魔王軍に置いていただけますか?」
出会った直後は懐疑的だった彼女は、答えを聞き届け…
「はい。これからよろしくお願いします。セッカ様、いえ、セッカ。」
深く、僕の手に握手をした後、額へとキスをした。
額へのキス。それは家族や大切な友人へする友愛のキス。
こうして、僕は正式に魔王軍に迎え入れられた。
これからも不定期更新でやっていきます。