3話 魔法のアレを作ることにしました
派遣ではありますが、安定した仕事に就けたので、久々に更新を再開してみようかと思います。
かくして、魔王軍に迎え入れられた僕を待っていたのは、一言で表すならワイルド。そんな食事だった。
メインとなるエディブルドラゴンの丸焼きは岩塩を削り、それで調味しただけのもの。とはいえ、それだけでも食べ始めれば止まらなくなる程、旨味に溢れた素晴らしい逸品だったのだが。
付け合わせに添えられたグリーンサラダは、お酢とサラダ油で作られたフレンチドレッシングに近い味付けがされている。
主食となるパンは全粒粉、無発酵のフラットブレッド。
このことから察して、元いた地球の文化レベルに当てはめると、魔王軍の食文化レベルは約15世紀あたりのヨーロッパのものに近いことが伺える。
あいつらとの旅路ではオートミール(ポリッジ)が主食の場合がほとんどだったので、人間社会の食文化レベルは15世紀以前のもの。
実際、魔王軍のみんなを相手取り、戦っていた頃はこちらが剣で攻撃しても致命打を与えられることは稀だったことから、魔王軍の文化レベルは人間社会と比べてやや先を行っているのは間違いないだろう。
そんな文化考察を頭の中で終わらせ、ごちそうさま、と両手を合わせて挨拶をすると、
「人間社会のものですか?」
とシルヴィアさんに訊かれたので、
「僕がこの世界に渡る前の文化です。」
と返すと、魔王軍の幹部のみんなもそれを取り入れ、
『ごちそうさま』
と、食堂にユニゾンが響き渡った。
食事のあとで自己紹介をすると、僕が旅立って最初に相見えた魔王軍の幹部の一角、鬼面武者のゴウエンに声を掛けられた。
「セッカと言ったか。その節は世話になったな。」
この世界の仕組みを知らなかった僕が、あいつらの口車に乗せられ、膨大な魔力に物を言わせて彼を瀕死にまで追い込んだことは今でも覚えている。
リースがマジックミラーを使って射出点を変え続けることで翻弄し、彼の弱点属性の水魔法と光魔法を丸1日休みなく撃ち込み続け、虫の息になるまで弱らせたところで仮面をつけた魔族(今思うと、あの魔族こそがシルヴィアさんだったのだろう)が転移魔法で彼を連れて逃げたことを想起する。
彼はそんなことは気にしていない、とでも言いたげに僕へと話しかける。
「貴殿とリース殿のコンビネーション、次こそは打ち破ろうとずっと修行に明け暮れていたのだ。だが、貴殿が裏切られてしまい、我らが魔王軍に身を寄せたこと、こうなっては貴殿をこう呼ぶのも野暮というもの。セッカ、これからよろしく頼む。」
そう言って手を差し伸べた彼は本物の武人だな、と心から思う。
解散の合図を出されたので、食堂を出ようとするとメリルが魔王城を案内してくれると言う。有り難くその申し出を受けて厨房に案内してもらい、お礼を言いに行くと、シルヴィアさんがちょうど僕のことを話しているところだった。
「と、まあ、こんな事を話すより、ちょうどその本人が来たようですし、実例を見せていただきましょうか?セッカ様?どうぞこちらへ。」
唐突すぎる呼び出しに驚きながら調理台の前に立つと、そこにはサラダのドレッシングの試作品が所狭しと並べられていた。
「新しい味のドレッシングを作りたかったんだが、いかんせんこれくらいしか食料がない。私も工夫したのだが……。」
と頭を抱えるシェフのドワーフ族の魔物。
これはアレを作るしかないな、と僕は調理台に立ち、3つの材料を手に取り、この世界では久々となる笑顔をこぼすのだった。
もしこの作品を読んでくれている人がいましたら感謝に堪えません。
これから、なるべくエタらないように頑張っていきたいです。