2話 いっそ、本当に結託してやることにしました
「如何されましたか、侵入者さん?」
レイピアを突きつける彼女へ、僕はありったけの感情を込めて叫んだ。
「僕は!道具でしかなかったんだ!帝国の犬でしかなかった!いや!それ以下だ!次期皇帝の箔押し道具だった!突然異世界に呼び出されて!知識欲だけは無駄にあるだけのそんな僕が!呼ばれる理由なんてそれしかなかったんだ!貴方だって僕を裏切り者として見て殺すんだろ!なら早く殺してくれよ!存在価値ゼロのゴミを!掃除でもするように殺せばいいだろ!」
そんな慟哭を軽くいなして、彼女はこう続けた。
「ワケありのようですね。とりあえず、応接間へお越し下さい。紅茶は飲めます?オランジェ=ペコでも淹れて参りますから。」
「あっ。はい……。」
「あっ、シルヴィア!メリルにもお願い!」
!?
突如聞こえた幼い声に振り返ると、黒髪赤眼、身長140cmくらい……見た目だけで考えれば10歳前後の女の子が、シルヴィアと呼ばれた先ほどのオッドアイの女性に紅茶を催促していた。
名前をメリルというらしい。
「畏まりました、メリル様。」
お手本のような最敬礼で、応接間の奥の部屋へ向かい、紅茶の準備を始めたシルヴィアを待っていると、
突然、メリルと名乗った少女は僕へ話しかけた。
「お兄ちゃんはメリルと戦いにきたの?」
「いや、違うよ。僕は裏切られてここにいるんだ。」
「裏切られたの?どうして?」
「次期皇帝になるらしい人を英雄に仕立てるための駒にされていた、って言えばいいのかな?
とにかく、いいように利用されていたんだ。君は魔王なのかな?本来なら僕は君を倒さなきゃいけないんだろうけど、裏切られた今、そんなことをする意味はないから。だったらこっちから裏切り返してあげたい。メリルちゃん、って言ったかな?」
「そうだよ!お兄ちゃん。」
「メリルちゃん。僕を君達の仲間に入れて貰いたいんだけれど、いいかな?」
そこで割って入ったのはシルヴィアだった。
「お待ち下さい。メリル様。
貴方は、我ら魔王軍に何を齎せますか?」
どう答えるべきだろう。
僕には力と呼べるものはあまりにも少ない。
膨大な魔力?
いや、違う。
ただ、唯一魔王軍の利益になりうるもの。
それは。
「元いた世界の知識で魔王軍全体をサポートできます。」
「と、言いますと?」
「例えば、魔物は人と比べ強靭な体を持っていますが、病気にかかることも考えられます。その病気の治療法を教えることが出来ます。それにより、死を待つのみであった魔物の命を救い、戦力の低下を最低限に抑えることが出来ます。
例えば、元いた世界の料理の作り方を教えることで、戦いを好まない魔物に仕事を与え、雇用機会を増やし、前線に出る魔物の士気高揚を図ることが出来ます。
例えば、銃器の作り方を教え、量産することで、非力な魔物に強力な遠距離攻撃手段を与え、戦力の増大を図ることが出来ます。
例えば、輪作式農業を伝え、広めることで、食料が枯渇しがちな冬の時期の食糧難を危なげなく乗り越えることが出来ます。」
「なるほど。私としてはその元いた世界の知識とやらがどこまで役に立つか疑問に思いますが。魔王メリル様、この者を魔王軍に迎え入れますか?」
「うん!メリルは大歓迎だよ!お兄ちゃん、お名前を教えて欲しいな!」
「ありがとう。魔王様。僕の名前は霜月 刹華。よろしくね。」
「魔王様って呼ばれるの、まだ慣れてないから。メリル、って呼んで!」
「うん、了解。よろしくね、メリル。」
「わーい!よろしくね、セッカお兄ちゃん!」
ポフッ
喜びを全身で表して、僕の胸元へ飛び込んでくるメリルを両手で受け止め、滑らかな黒髪を梳くように撫でてあげると、
「ふわぁ……」
と、幸せそうな声を漏らす魔王様。
心の底からリラックスする、至上の安らぎを享受しながら、地上を照らす光は次第に月明かりに変わっていくのであった。
こうして、少し予想外な姿をした魔王様によって、僕は魔王軍に迎え入れられた。
次回・飯テロ注意報発令w