1話 裏切られました
「お前の首を取りに来たぞ!まお……う?」
「セッカ、威勢がいいのね。これで本命の魔王がいれば締まりもいいのにね。」
魔王城の最深部。そこはもぬけの殻だった。
皇帝魔導隊の特務隊長であるリースは探知魔法を切ると、帝国の皇太子であり、槍聖の異名を取るマルクに一声かけて、入り口付近を見張らせていた使い魔(サーヴァントシャドウのサーシャというらしい。)を送還した。
「セッカ。俺達は帝都に戻り、皇帝にこの事を伝えてくる。お前には一つ頼みがあるのだが、聞いてくれるか?」
「いまさら何の遠慮もいらないよ。どういう要件かな?」
「リースの話だと、ここの魔力量は確かにこの部屋に魔王がいる事を証明しているらしいんだ。もしかしたら俺達を討つ機を伺っているのかも知れない。だから、お前には皇帝陛下に知らせて、ここに戻るまでの間、囮役を務めて欲しいんだ。次の煌月(満月)、まぁ2週間経つまでには戻って来られる。それまでに何かあればこれで俺を呼んでくれ。」
そう言って渡されたのは1枚の召喚符。
これを使うと転移魔法を使える、レターゴーレムという魔物が呼び出せるらしい。
「僕一人で倒してしまっても別に構わんのだろう?」
「セッカ。それは確か君のいた世界では"シボウフラグ"と呼ばれているんじゃないかい?」
「大丈夫、こんな冗談も言えなくなったらそれこそ魔王の思う壺だよ、こんな時こそリラックスリラックス。」
「はは、いつでもブレないね、セッカは。じゃあ、任せたよ!」
そう言ってマルクは部屋の入り口で待っていたリースに声を掛け、脱出用のエスケイプジェムで城の外へ脱出したようだった。
二人が去り、囮役を務めるべく深呼吸をした矢先、
部屋を揺るがさんばかりの魔力の波動を感じた。
早速、レターゴーレムを呼びだそうと、魔力を込めた、その時だった。
その召喚符から呼ばれたものはレターゴーレムなどではなく、一枚の手紙だった。
『この手紙を読んでいるということは素直に僕の言うことを聞いてくれた、ということだろう。
一緒に旅をしていたよしみで明かしてあげるけど、俺達は君のことを仲間だと思ったことなんてない。
俺が次代の皇帝となる時の箔をつけてくれる便利な道具、くらいにしか思っていなかったんだ。
ごめんね。
ちなみに、この手紙が読まれた時点で、世界は君のことを魔王と結託して帝国を滅ぼそうとした裏切り者、として見ることを伝えておくよ。
裏切り者という予期せぬ障害を物ともせず、魔王を討ち滅ぼした英雄、なんて栄誉は君という異世界人無くしては成り立たなかったから。
そこは感謝しておくよ。
じゃあ、俺が本当の仲間とともに君、そして魔王の首を取りに行く日を楽しみにしていてね。
次代皇帝 マルク・B・レイ』
ここで僕は裏切られたことを初めて知るのであった。
魔王と結託して世界を滅ぼそうとした?
ならその通りになってあげよう。
僕の現代知識を武器に、皇太子ご一行に、いや。世界に復讐の刃をお見舞いしてあげようではないか。
ところが、心ではそう思っていても、目から流れる涙は止められなくて。魔王城の最深部、謁見の間であろう部屋で声を上げて泣きじゃくる僕が、魔族に見つからないはずはなかったのだ。
「如何されましたか?侵入者さん?」
背筋が凍るような思いを堪えて振り返ると、銀髪紫眼、いや、オッドアイ?左目は黄金色、右目が紫色をした人型の魔物が、僕の首筋にレイピアを突きつけていた。