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負け続ける男の話

作者: 蚊家津


 自慢じゃないが俺は人生の中で勝った事は一度も無い。


 弟との喧嘩も殴り合い口論問わず負け続け、小中学校の席替え……そのくじ引きでは、教壇の真ん前で固定される。

 アイスの当たりも引いた事は無いし、何故かあまり付き合いたくは無いのに、柄の悪い友人に気に入られ、良く町を連れまわされていた……


 それが大なり小なり……事、俺が勝ちだと思う事象は起こらず、むしろその逆……負けとも言える様な事象が自身には起き続けるのだ……


 どうにも俺は神様に嫌われているらしい……無信教なのがいけないのだろうか?……ともかく、中学の半ば……いわゆる中二病を発症した俺は、全力でそれに抗う事にしたのだ。

 まず手に付けたのは学力、幾ら俺が負け続けるとしても、俺の頭にまで干渉する事は出来ないはずだ。

 苦手だった英語や理系の科目を重点的に、尚且つ他の科目も手を抜かずに勉強し続ける。

 結果……ガリベンとのあだ名と共に、中より上程度の学力を手に入れた……まぁ、俺の頭の出来自体があまり良くは無いのだ、これ以上を望むのも無謀だろう。


 ある程度の学力が付き始めたら、次は体力の増強に着手した。

 今まで勉強につぎ込んでいた時間を少し減らし、それを筋トレに当てたのだ。

 早朝のジョギングから始まり、腕立て伏せや腹筋などの流れを経て、最終的には親に頼み込んで、ジムにまで通わせてもらった。

 結果……インテリマッチョのあだ名と共に、自分でも見惚れる程の引き締まった筋肉を手に入れたのだ。


 それが中学生の頃の話だ……その結果は見事に悲惨な物ではあったが……


 まず学力……何故か高校受験の第一志望と第二志望の高校に落ちたのだ……まず間違いなく受かるはずなのにである。

 何とか第三志望に受かったから良かったが……ここでも俺は負けてしまったのだ。

 次に喧嘩だが……何故か事あるごとに理不尽な邪魔が入るのだ。何もない所で滑り、盛大に頭を地面にぶつけたりするのは当たり前。殴りかかられたのは俺の方なのに、通りかかった警察は俺だけを補導する……何故なのか?

 いくら自身を鍛えても負けるのだ……どうしろと言うのか……


 悩み続ける俺に、転機が訪れたのは高1の夏。とある考えが俺の頭によぎったのだ。

 その内容は……周りの勝ちに対する認識を変えるという物だ。

 酷く簡単に説明すると、周りが負けだと思う事を、俺にとっての勝ちにしてしまえばいいのだ。……解り辛いだろうがそう説明するしかない。


 例を挙げるのなら……じゃんけんにおいて、グーがパーに勝ち、パーがチョキに、チョキがグーに勝つように周りを変えるという事である。


 簡単な話では無いが……このままでは負け続ける状況が続く様に思えた。なら、無駄に終わるとしても相応の努力をしてみようと思った。

 ただ……その発想を得たのはいいが、実際にどうすればいいのだろうか……少し悩んだが、案外その答えはすぐに出る事になった。


 この学校の男子と女子の価値観を崩そうと思ったのだ。


 俺には彼女がいない……というのも、俺が誰かを好きになっても断られるのが目に見えていたからだ。

 それが美人だろうがブスだろうが……俺から告白した時点で、強制的に負けるのである。……10回に渡る失敗でそれを痛感した。

 なら、女性の方から告白させるしかないだろう……その告白には負けが絡まないのだ。

 つまりは、男子から女子に告白するのではなく、女子から男子に告白する……という価値観を作ればいいと思ったのだ。

 だがそれと共に注意するべき点がある、幾らその価値観を作れたとしても、告白する女子には負けが絡むのだ……いわゆるブスに分類される存在だ。


 それを解消するには男子の方の価値観を壊す。


 ブスと付き合うのが勝利だと思わせるのだ……一見不可能である様に思えるが、男性の女性に対する価値観なんぞ、時代と共に移ろい行く物だから問題ないだろう。

 昔には太った女性が好まれていた事もあるらしいのだ……それを現代に、この高校内にだけでも作れればそれでいい。

 その二つを成し遂げた暁には、俺には顔とスタイルの良い彼女が出来ているはず……だった。


 ……うん、だった……過去形だ。


 俺の洗脳作戦自体はうまく行った……女子たちには肉食女性を題材にした漫画や小説やドラマを布教しまくり。一時的な告白ブームを作り出す事が出来た。

 男子の価値観も、運よくこの高校内では、美人に分類される女子が、地味目の女子を虐めている現場に出くわしたため、その動画をとり、それを元に……それ以外にも色々あったが、美人は性格が悪いという風潮を作り出せた。

 結果、周りの男子達の彼女は、少し太った女性が多い結果となった。此方も問題は無かったのだ……


 だが最大の誤算があった……女子が俺に好意を持たなければ意味が無いのだ……


 本末転倒とはまさにこの事か。初めから俺には勝ちなど無かったのだ。

 告白ブームも一時的な物……結果俺には美人でスタイルのいい彼女は出来なかった。


 いっそ、告白を受ける事を負けだという風潮を女子につくれれば……



 「ねぇねぇ、何を書いているの?」


 「……何でもないっての。人の落書きを覗き見する、卑しい趣味がお前にはあるのか?」


 「むー、何よその言い方!!幾ら私から告白したからって、関白主義はいけないと思います!!」


 「はいはい、貴方の意見はよ~く解りました。改善出来るように善処します。」


 「……私は別れてもいいのよ?」


 「すみませんでした!!調子に乗りました!!お許しください!!」


 「ふふっ、解ればよろしい。っと、もうそろそろ授業が始まる!!後でその紙見せてよね。」


 

 ……嵐の様に俺の彼女は去って行く、その可もなく不可も無くの地味な背中を眺めながら思う。せめて彼女が美人だったらな……と。

 彼女が告白してきたのはつい先日、彼女の告白を断ったら、もしかしたら一生独身かもしれないと思い速攻で首を縦に振ったのだ。

 結果俺に彼女が出来たのだが……何故彼女は俺を好きになったのだろう?それが不思議でならない。

 ……まぁ、それはいつか時が来れば教えてくれるだろう。彼女は知らないだろうが、虐められている現場を取らせて貰ったりもしたし、お世話になってばっかりだ。


 ……話は戻すが、やはり今回も負けてしまった。いくら彼女が出来たとしても、それが美人じゃないと敗北なのだ。神という存在がいるのなら、今回もそいつに辛酸を舐めさせられた事になる。


 ……今後も俺は負け続けるのだろう……それはこれまでの経験から予測できる。

 しかしいつの日か絶対に勝ってやる!!その固い決意と共に、俺の人生……その一部を書いたこの落書きを一端終わりにしよう。

 

 今日も変わらず始業の鐘がなる。いつもと変わらぬ負け続けの日常は、今日も勝つ事が出来ずに続いていた。


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