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告げ口  作者: atsu
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コバヤシユウセイ

僕と、ミナミと、ユウセイと、カヨ。そしてユイと一緒に遊んだり、飲み会を開いたり、所謂仲良しグループになったのは一年生の秋頃だ。

全員同じ学科だったし、履修する授業も似ていた。なんとなく集まるようになり、なんとなく遊ぶようになり、なんとなくお互いを好きになっていった。友達なんて、そんなもんだろう。でも僕は皆が好きだ。きっかけなんてどうでもいい。彼らといる時間が睡眠と同じくらい好きなのだから。


僕は高校時代いじめにあっていた。高校一年から二年に上がるまでくらいの時期だ。短い期間であったが辛かった。ある日、主犯の男子生徒に僕はキレた。母親が作ってくれた弁当をわざとひっくり返された。僕は泣きながら殴りかかった。その男子生徒の右頬に僕の拳がヒットした瞬間、胸がスーッとした。

殺してやる。

本当にそう思った。格闘技、ましてや喧嘩なんてしたことのない僕だったが、ここまで人を痛めつけたいと感じたのはあれが最初で最後かもしれない。気づけば僕も口を切っていたし、男子生徒も制服のワイシャツが少し破けていた。

僕らは一週間の謹慎処分を受けた。

自宅では英語と世界史の課題やら、反省文やらを書いて過ごした。

反省?僕が何を反省すればいいのか?謹慎明け、反省文の提出を担任から催促されたが、僕は適当に誤魔化した。三日くらいは催促されまくったが、気づけばもう催促されなくなった。

謹慎明けの僕を見るクラスメイトの目は、まるで犯罪者をみるようだった。事実、殴ったんだし、間違っちゃいない。それでもどうでもいいことだと思いながら三月の日々を過ごしていった。適当に。


二年生になると、僕はクラスを落とされた。僕の高校は私立の進学校だったので偏差値ごとにクラスを分けていた。元々勉強が好きではなかったし、無理して赤門をくぐろうなんで気持ちも微塵もなかった。だから、いくら偏差値の低いクラスにいようとどうでもよかった。

二年生の四月、新しい担任と新しいクラスメイトと顔を合わせた。

健康診断のあと、自己紹介の時間があったので、僕は当たり障りのないような紹介をした。何人かは拍手をして、何人かは興味のなさそうな顔をしていた。


新しいクラスで、何人か話す相手が出来た。愛想の悪い連中だと思っていたが意外に気さくな奴らだった。僕は馴染めたのかどうか分からなかったけど、少なくとも一年生の時のクラスより随分マシだと思った。

ある日の体育の授業中、ある男子生徒がケガをし、体育教師が医務室に連れて行くから適当にチームを組んでバスケでもしていろと言った。

そうなると、高校生は必ず二極化する。やる気のある連中と、そうではない連中。当然、僕は後者だ。

クラスメイトの鮮やかなフリースローを眺めながら数人とだべっていた。サボれるから丁度いいやと思い、僕は体育館の横にある小綺麗なトイレへ用を足しに行った。最中、大便器から声がした。

「あれ?誰かいる?」図太い声がした。

「いますけど」僕は答えた。

「あれ?もしかして、タガワ?タガワだよな、その声?いやー参ったよ。紙なくてさあ。わりーけど、隣から投げてくんない?」

分かったと僕はいい、隣の個室便器にあるトイレットペーパーを上から投げた。

サンキューという声が聞こえると、20秒後くらいに水の流れる音が聞こえた。

中から出てきたのはクラスメイトの

小林悠星だった。

「いやータガワホントサンキューな!」ユウセイは嬉しそうにお礼を言った。

どういたしましてと言うと、体育は?と聞いてきたので、先生がいないので皆勝手にバスケしてると答えた。

「ふーん。で、お前もサボり、と。」

核心を突かれたので、正直にまあなと答えた。

いい加減戻るかと二人で体育館へ戻り出した。これが僕とユウセイとの出会いだった。


その日の帰り道、僕が自転車に乗って帰ろうとすると、ユウセイが声をかけてきた。

「タガワ帰り?」

頷くとユウセイは先ほどのお礼をしたいと言い出した。お礼なんてされるほどの事じゃないよと言ったが、彼はコンビニでなんか奢ると言ってきかない。ユウセイの後を僕が半歩下がり、自転車を押しながら二人で歩いた。今日はサッカー部の練習はオフらしい。

「タガワ、宮野のことぶん殴ったってホント?」ユウセイがニヤニヤしながら聞いてきた。

僕は小さく頷いた。

「なんで?」

「そりゃあ、ムカついたからだよ。」

「お前ヤンキーかよ!」

「違うけど。」

「だよな。そうは見えねーもん。いやな、俺も宮野の事は前から気に食わなかったんだよ。あいつ金返さねーし、サッカー部の奴らかもかなり嫌われてたからさ。お前がぶっ飛ばしてくれて清々したんだよ。」

ユウセイは黒い肌から白い歯を見せてニカッっと笑った。

「俺はタガワのこと好きになれそうだよ。体育の時も助けてくれたしな。」

僕は少し照れて、そう。と言った。

宣言通りユウセイはコンビニでコーラを奢ってくれた。

それから、なんとなくメールアドレスを交換した。その時僕は、彼と大学も同じ学科に進学するような友人になるとは考えてもみなかった。

いじめられていた時の反動か、高校生活の半分はとても楽しかった。楽しい思い出の半分以上は、ユウセイと一緒にいた。

だから、僕は大学でもユウセイと一緒にいるし、これからも一緒にいたいと思う。それは、ミナミにも、カヨにも、もちろんユイにも抱いている感情だ。

僕はミナミが、ユウセイが、カヨが、そして、ユイが好きだ。

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