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その後、文佳は警察に行く予定を変更して、八王子のクリーニング店に急いだ。
文佳の職場がある新宿には歌舞伎町という日本最大級の歓楽街が存在するが、さすがに会社の人間に出くわす可能性が高いためそこで勤めるわけには行かない。色々と考慮した末に、八王子の店を選択したとのことだった。幸いにもまだ知り合いには遭遇していないらしい。
店で着るドレスはナナに見つかることを考えると持って帰るわけには行かず、八王子のクリーニング店に出すついでに預けていたとのことだった。夜の仕事用に夜でも受け付ける店があるらしい。
昨夜は酔っ払っていたために、ドレスと一緒にノートパソコンも出してしまった。運の悪いことにバタバタしている時間だったらしく、店側も気がつかず、落ち着いてからノートパソコンがあるこちに気がついた。
しかしどの客の物かは分からず、また文佳が店に教えていた電話番号はでたらめだった為に、連絡もなかったのだ。
名刺の傷はゲームの跡らしいが、どんなゲームなのかは最後まで口を割らなかった。
「あーあ、午前中が潰れちゃったわね。お昼は何にしようかしら。夜はお寿司だから……」
ナナはパソコンを発見した報酬として文佳に寿司を買ってくることを要求していた。ルリは知らない店名だったが、文佳の渋い表情を考えれば高級店なのだろう。
「簡単にパスタとサラダで良いわよね」
簡単とは言っているが、色々と食材を取り出しているところを見るとパスタソースを使うのではなく、自分で作るのだろう。
「任せる」
「カッチンはさっさと勉強を始めなさい。化学のテキスト、百八十三ページからよ」
ルリはナナの部屋からテキストを取ってきて開く。しかしなかなか読み進められない。
手際よく料理を進めるナナの背中の動きをじっと目で追う。
気配を察したのか、ナナの動きがぴたりと止まる。
「補習とか、単位を落とすとか、許さないからね」
「……怖いな」
ルリは本気で青ざめながら単調な文字に目を向け、ナナはそれを確認してから料理を再開した。
了
初出:2013/2/3 comitia103
長々とお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。
今回の話でこのシリーズのストックが切れました。
私はミステリー物があまり好きではないのですが、好きではないものをあえて書こうというのがこのシリーズのテーマでした。
好きでないことの反抗が、推理するんだけどいつもその推理が外れている、というところだったわけです。
ナナとルリに関してはまだ書き足りないことはあるのですが、なんにせよ推理を考えるのに疲れました。コナンの住む町では毎日2~3人殺人事件で人が死んでいるそうですが、そうそうそんなに事件は起きないですよね、ということで様々な事件を考えてきたのですがネタ切れしてしまいました。
また、事件ネタを思いついたときには新作を書きたいと思います。
それではあらためて、ありがとうございました。