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現代では周囲の関係が、まるっきり違っているようです。

 席についた月英げつえいは微笑むと、口を開く。


「先日、りょうがボロボロのぬいぐるみを抱き締めて、グッタリしているあの子を抱き締めて、戻ってきましたの」

諸岡もろおか亮さんがですか!?」


 記者の一人が声をかける間に、他の者がメモを取りつつ、機械を操作し録音を始める。


「はい。そうです。びしょびしょになったあの子……琉璃りゅうりに上着をかけて、顔色を変えて戻ってきました」


 きんが声をかける。


「顔色を……?」

「はい。兄は狼狽えて、気を失った、どうしよう!?どうすれば良い?とオロオロしてました」

「私達が、お手伝いの女性に頼んで着替えをさせて貰い、亮がぬいぐるみを繕い戻ってみると、しくしく泣きながら『光華こうかどこ』と必死に探し回っていたそうです。ぬいぐるみしか荷物すら、お金も渡されず、傘も持たされず追い出されたんです!!この方々のせいで!!」


 月英は指を突きつけるのは、関雲長かんうんちょう親子。


「亮がぬいぐるみを渡し、抱き締めて慰めると、ようやく落ち着いて……様子を見た私達が入っていくと、初対面も同然で怖がっていたものの挨拶をして微笑むとようやく微笑み、そしてその後ぐったり倒れて……」


 キッと睨み付ける。


「伯父上が言ってました。顔立ちが恋人だった人と瓜二つなんだと。で、別室で月英兄さんが『どうして、ちゃんと探さなかったんだ』と怒り、責めて、理由を説明して納得したものの……納得できなかったのは、どうしてこの町が、あの子をそんな目に遭わせるのか!?です!!あの、小さな、まだ8才の女の子を、父親を探すなり、他の街の施設に預けることもせず、追い出す!!傘も荷物もお金も持たせず!!それが許せない!!」

「そ、それは……で、ですが……」


 市の担当者らしき者が、汗をぬぐいながらかき分け現れる。


「それは、施設の……」

「管理はそちらの役目でしょう?」


 冷ややかに瑾瑜きんゆが言い放ち、紅瑩こうえいも嫌悪感を露にして、


「許せないわね!!あんなに可愛い子に、その仕打ち!!何考えてるの!?あの、琉璃ちゃんは、怒ってたの!?」

「いいえ」


 月英は首を振り、均が、


「あのね?姉さん達。琉璃に伯父上や月英兄さんが、沢山おもちゃやぬいぐるみに、服とかを選んであげるんだけど、いらないって」

「どうして!?」


 晶瑩しょうえいの声に、


「『本当はね?皆優しいの。お友達もいたし、先生も優しかったの。でもね、ご免なさい』って、『寄付を打ち切られたら、他の皆が辛い目に』って、泣いてたの。『だから、悪くないの。だからね?お父様。この沢山のおもちゃやぬいぐるみちゃん、お洋服はお友だちにあげて下さい。お願いします』って、必死に訴えてた」


均の言葉に、お友達になった珠樹しゅじゅは涙ぐむ。


「酷い……!!琉璃ちゃんはあんなに良い子なのに!!あの兄様に甘えて笑顔だったのに、そんな目に遭ってたなんて!!」

「本気で腹が立つな!!その上、そこの!!お前が苛めてたんだろう!?それなのに、その犯人がその態度って何だよ!!」


 子明しめいの声に、


「何であんな子に!!あんな子、捨て子なんだから!!」

「ふーん…ここに、戸籍があるんだけど?」


 均は持っていた封筒を開けて、戸籍謄本を取り出す。


「あの子の容姿から見て、当然外国の戸籍があったの。お母さんのだけど。で、琉璃の祖父母様は亡くなっていたけれど、伯父上が生きてらっしゃって、その方が戸籍を送ってくれたの。で、父親である伯父上が琉璃のことを伝えて、生年月日等を確認して、自分が父親だと、戸籍を変更したいと伝えると、渋い顔をされたよ。あの子の伯父上、とある公国の公主様だから」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 望遠カメラで見ていたカメラマンが叫ぶ。


「その公国は、宝玉宮の国と呼ばれる…」

「そうです。公主様直筆の証書もありますよ?」


 隣の兄に証書を渡すと、中身を広げ、


「あぁ、ロウディーン公主か。厳しい方だし、家族を大変愛されているから、怒るのも無理はないね。でも、大変だ。幾ら小国とはいえ、世界にも強い発言力を持つ国を敵に回すとは、この街もずいぶんとお偉くなったらしい」


冷めた声で言い放つ兄の手から3人の姉妹と子明が、渡された書面を見て……溜め息をつく。


「これは無理ね。街とかの単位じゃないわ、国にも文句を言いたいらしいわね。大変ね。琉璃ちゃん、おじさまがとても怒ってるわ」

「でもいいんじゃない?私は夫がこの国出てるし、姉様は結婚でしょ?月英さん。亮はどうしたいのかしら?」


 その声に均が、


「う~ん。伯父上がここを引き払うって。このテーマパークは残して琉璃のものにしておくって言ってた。琉璃、ここに来るのすごく楽しみにしていたんだよ。着ぐるみのキャラクターと写真とりたいんだとか、メリーゴーランドに乗りたいって、あんなに楽しみにしていたのに……」


「……ふんっ、そんな小さい子供を見捨てる国か……俺も居たくねぇな」


 鼻でせせら笑う士元しげんに、碧樹へきじゅもにっこりと、


「そうねぇ?兄様。それは、良いと思うわ」

「だよな。それより、あのちびっこい子犬は?」

「ちゃんと戸籍を整えて、父の正式に籍に入ってるわ。それが?」


 月英は友人を見る。


「ん?亮が嫁にするのかと思ってな」

「えぇ!?それは……良いけど。私は弟ができて嬉しいけれど、瑾瑜兄様は良いけれど、瑶樹ようじゅ様はどうかしら?」


「あらぁ。私は嬉しいわ。亮さんが、あんなに優しい顔で微笑んでいる姿が何時でも見られるなら。お父様が承彦しょうげん様だからというよりも、亮さんが幸せになってくれるのなら。あぁ、そうだわ。琉璃ちゃんのお洋服を整える、お手伝いにいってくるわね!?」

「あ、お母様!!私も!!」

「待て!!俺も行く!!」


 珠樹と子明が、追いかけて去っていく。


「で、どうして、関雲長どの?こちらに来られましたの?私達は、今日の招待状をお送りしましたかしら?」


 月英は微笑む。


「確か当主どのに、張田はりた様にはお送りしましたけれど……あら、張田様」


 報道陣をかき分けるようにして現れたのは、張田こと現場監督の益徳えきとくである。


「おい、兄貴!!」


 周囲を無視して雲長に食って掛かる。


「おい!!何で、俺が兄ぃに預かった招待状を、勝手に取っていったんだ!!俺は美玲みれいと遊びに来るつもりだったのに!!美玲が折角楽しみにしてたのに!!」


 美玲とは彼の恋人である。


「親切だから、どうぞと入れて貰えたがな!!」

「と言うか、前もってあちらから、張田様ともうお一方のレディがこられると連絡がありましたので。良かったですわ。張田様。前もって、連絡を頂けて」

「あ、あぁ!?お前は…月英じゃねぇか。まだやってるのか!?女装」


 学校の後輩である月英を、疲れたように見る益徳。


「あぁ、今日は、私の妹のお披露目でしたの…あら?」


 何かにはしゃいでいる声が響き、


「わぁぁい……うきゃぁぁ、おひめしゃま!!」

「琉璃。暴れたら痛くなるよ!?」

「写真とゆの!!とゆの」


 おねだりを言う少女に、


「良いよ?じゃぁ撮ろうね?」

「お母様も撮りたいわ、ね?」

「うん、おかあしゃまだいしゅき~!!」


 パシャと音がする。


「あっ!おーい、亮。琉璃ちゃん……琉璃で良いかな?にーちゃんは子明。亮の友人で珠樹のこ、恋人なんだが……仲良くしてくれるか?」


 子明がにっこりと笑っている姿に、にこっと、


「あい、しめいおにーちゃま。だいしゅき!!」

「……うわぁ……俺はこんな可愛い妹ほしい!!」

「何だ?あれ」


 人々をかき分け現れた女性……と言っても、亮とさほど年の変わらぬ……。


「御姉様!!」


 周囲を無視して駆け寄ってきた女性に、少女をかばうように前に立った夫婦らしい男女は、目を丸くする。


「あら、美玲ちゃん。こんにちは。久しぶりね?」

「御姉様!!お話を、伯父様から聞きましたわ!!大丈夫でしたの!?」


 美玲は、夏侯美玲かこうみれい……アイドル兼モデルである。

 くりくりとした目はキリッとしているが、物事をはっきりと言うしっかりものである。

 そして、瑠璃を姉のように慕っていて……。


「行方不明になったと、益徳さんから聞きましたの!!どうしたのですか!?何があったのです!!」

「美玲ちゃん……」


 口ごもると、突然、


「ふぁぁぁぁん!!いや、いやいやいやぁぁん」


激しく泣き出す琉璃の傍に近づいていた驪珠を、子明が捕まえ、益徳が雲長を引き寄せる。


「おい、兄貴!!俺の話を聞かずに、無視か?いいご身分になったんだな!!」

「おい、益徳!!私は、瑠璃に…」

「姉貴に話し?ねえだろう!?あんた、姉貴が仕事で世界中飛び回っている間に浮気三昧だっただろうが!!その上、その浮気相手に子供が出来たって、何考えてんだ!?姉貴のヒモだったのに、いいご身分だよな。姉貴がいない間に宝石やら何かを売っ払って、相手と世界一周クルーズ旅行だったんだろう!?」


 自分の子供の事について認め、謝罪し、きちんと戸籍を整え、引き取るといった承彦以上のスキャンダルに取材陣はざわめく。


「そ、それは…」

「で?姉貴に何を言うんだ?戻ってこい?ねえだろう!?馬鹿じゃん」


 益徳は振り払うと、瑠璃を見る。


「姉貴。行ってこいよ。姉貴はこんな男にはもったいねぇいい女だ。こんなの捨てろ」

「益徳さん……」

「姉貴は…?」


 益徳は瑠璃の後ろで泣いていた少女に気がつくと、目を見開く。


「あの……こは……」

「益徳さん!!」

「分かってらぁ。余計に、姉貴。行ってこいよ。……頼む!!」


 親指を突きつけウインクをする。


「と言う訳だ。姉貴から預かっていた離婚届、出しといたぞ。そして財産は……」

「こちらで手配をしようと思っている。しかし、もしよろしければ、頼まれてくれませんかな?」


 承彦の一言に、再び目を丸くした益徳は真剣な眼差しで頷く。


「解りました。と言うよりもご安心を。月英の先輩として、瑠璃姉貴の弟として、出来うる限りやらせて戴きましょう」

「で、おっさん。悪いが、自分の娘のしつけ位しろよ!!」


 子明が、驪珠を掴んだまま近づき、押し付ける。


「何考えてんだ!?子供のしつけもできねぇ上に、浮気して、嫁さんの金をとって豪遊?最低野郎だな!!こんな野郎が会社のお偉いさんかよ!!しかも、こっちの大企業の!?うわっ嫌だな。絶対にこの会社信用したくねぇ!!」

「なっ!!」

「さっさと帰れよ!!その娘連れて!!ここは琉璃の国だ!!琉璃の為の場所だ!!琉璃に攻撃を加えるなら、それ相応の対処をさせて貰うからな!!」


 去れ!!と言いたげに、手を振り払った子明は、無視し去っていく。


「益徳さんも美玲ちゃんも楽しみましょう?琉璃が喜ぶわ」


 瑠璃は微笑む。


「えっ、良いのか!?姉貴。迷惑じゃぁ……」


 躊躇う益徳の腕に腕を回し、


「良いじゃないの。御姉様が良いって言って下さっているし、承彦様も嫌がってらっしゃらないわ!!」

「えっと……武骨ですが……遊んでも大丈夫ですか?」

「構わぬよ。益徳どのには一度お話を伺って見たかった。今日は楽しんでくだされ。では、その、呼んでいない客人と、この町の皆さん。お帰り下さい」


 承彦の声に、SPが近づく。


「ではごきげんよう。夢の世界には入り込めぬ方々。現実の重みを思い知るがよい」





 警備員も加わり、殆どの者は追い出される。

 一応、瑠璃達の取材を主に担当すると言うファッション誌や、旅行会社関係の取材人のみは残されたのだった。

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