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悲しい思い出を消し去りたいと思うのは駄目ですか?

 嬉しくて、お父さんのくれた大きな熊のぬいぐるみを片腕に抱き、りょうの手を握ろうとするが、ひょいっと、亮は琉璃りゅうりを抱き上げる。


「大きな熊さんだっこしてたら重いでしょう?お兄ちゃんがだっこしてあげる」

「くましゃんだっこの方がおもくないれしゅよ?」

「お兄ちゃんは、琉璃だっこがいいの。そして、琉璃は熊さんだっこ。良いでしょう?」


 熊と亮を交互に見た琉璃は、


「んっと、んっと……琉璃。おにーしゃんだいしゅき!!」

「お兄ちゃんも大好きだよ?」


 微笑む亮を愕然と見る兄弟達……。


「雨が降る!!」

「雷よ!!」

「槍は!?」


 下の姉の一言に、きんは、


「姉さん達の失速さえなければ大丈夫だよ!!」

「何ですってぇ!?」

「姉様方落ち着いて?デレデレ亮兄様、見られないわ!!」


 珠樹しゅじゅはちなみに、亮よりも二つ上のサッカー選手と交際中である。

 14歳だと言うのに、公然と交際宣言をした妹に、亮は愕然としていた。


「あぁぁ……駄目じゃない!!折角の良い機会だったのに!!」

「何言ってるんです?姉上も兄上も」


 無表情になった亮を見上げ、


「おにーしゃま。琉璃重い?」

「えっ?」

「おにーしゃま、琉璃重いにゃら降りるにょ?お手々繋いで、あゆく?」


首を傾げる愛らしい少女に、亮は微笑む。


「琉璃は全然重くないよ?大丈夫だよ。お兄ちゃんはこれでも鍛えてるからね?」

「しょうにゃの?しゅごーい!!」

「だから、お兄ちゃんといようね?」


 亮の言葉に、大きくうん!!と頷く。


「うん!!琉璃とこの子、良いこしゅゆ!!仲良しなの~。お家に帰ったら、光華こうかと仲良くしてねって言うのよ」

「えっ!?お兄ちゃんは……?」


 本気でショックを受けたらしい亮に、琉璃は、


「おにーしゃまは、琉璃一番好きなおにーしゃまだもん。だいしゅき!!」


ギュッと抱きつかれ、無表情が頬を赤くして照れている……。


「うわぁ……凄いぞ?元直げんちょく!!」

「私も初めて見た」


 元直と月英げつえいは顔を見合わせる。


 えへへ……と、少女はテディベアの頬にチュッとキスをすると、


「おにーしゃまにもチュッ」


と頬に口づける。

 亮は、両頬にキスを返す。


「お兄ちゃんも、倍にお返しのチュッだね」

「わぁーい。だいしゅき!!」


 姉二人は遠い目をして、瑾瑜きんゆは魂を飛ばす。


「何だ!?そのデレ顔!!気味わりぃ」


 その声に振り返った亮は、嫌そうに顔をしかめる。


「何でいるの?士元しげん碧樹へきじゅさんなら兎も角」


 碧樹は均と同じ年で、飛び級をして同じく大学生である。

 兄の士元は亮よりも二つ上だが、何故か亮と張り合いたいらしく、留学に行く度に着いてくる。


「あーもう迷惑!!碧樹さん置いて、帰れ!!」

「うるせー。俺だってこんな格好したいと思うか!?伯父貴の命令なんだよ!!これに出席しねぇと、金出してくれねぇんだ!!」


 士元は両親と仲が悪く、小学校の時に伯父の家に家出して、そのまま滞在している。


「就職しろ!!なら!!」

「面倒くせぇ!!」

「なら、私の見えない所に行って!!邪魔!!」


 言い合いをしていると、


「おい、いい加減にしろ!!そろそろ取材記者が集まってくるぞ!!」


 その声に、二人はにっこりと作った笑顔で歩いていく。

 カメラのフラッシュがたかれ、琉璃は怯えたようにぎゅっとしがみつく。

 よしよしとあやすように背中を撫で、進んでいくと、


諸岡もろおか家の6兄弟がお揃いとは!!」

「何てラッキーなんだ!!」

「特に亮さんは、滅多に表舞台に出ないのに!!」


と、ざわざわするのに、チラッと亮を見上げると、ため息を吐いた亮は呟く。


「人混み苦手だし、兄弟の中で平凡な私がいなくてもいいじゃないか……全くもう……って、発見!!子明しめい先輩!!」


 人混みの中、着なれぬスーツに着られている風情の青年が、やったぁ~!!と言いたげに近づいてくる。


「亮!!久しぶり~!!お前しばらく見ない間に、でかくなったんじゃないのか!?サッカーしてる俺よりでかいって、どうよ!?」

「と言っても、伸びたので……それより……」

「子明兄様!!」


 その声に、やばぃ……と顔に書いた子明が、


「ひ、久しぶりだな!!珠樹!!うん。元気そうで何よりだ!!」

「他には!?」

「えっと、珍しいな。人形持ってる」

「兄様の馬鹿~!!」

「ちょ、ちょっと待て!!珠樹!!お前の手は楽器を弾く手だろうが!!お前の手の方が大事だ!!頼むからやめてくれ!!」


本気で青ざめた子明が、珠樹を抱き締める。


「えっと……怒らせてごめん……か、可愛いから……何て言えばいいのかわからなくて……ごめん」


 囁く姿に、カメラのフラッシュが増える。


 子明はサッカーの試合の時には勇猛果敢だが、普段は穏やかでちょっと難しいことを考えるのが面倒らしく、口下手に照れ屋な所もあって、女性ファンが多いのだが、本人は珠樹一筋である。


「あ、呂選手よ!!」


 声が響き、近づいてくるのは、長身の亮よりも大きな男を引っ張って現れた少女。


「呂選手!!握手して頂戴!!それとサインもお願いね!!」


 その物言いに、穏やかだった子明も表情を険しくする。


「こら!!驪珠りしゅ止めなさい!!礼儀がなっていないぞ!!」

「礼儀?だって、私の方が上だもの!!それにその不細工な恋人の貴女!?自分が釣り合わないのが解らないの?離れなさい!!」


 その言葉に、周囲は強ばる。

 カメラマンですら呆然としている。


「離れなさいと……」

「貴女こそ何者なの?上だ上だと言うけれど、年は私よりも下よね?年上の私に向かってどういう意味かしら?挨拶や名前を名乗る程度も出来ないの?」


 冷たく珠樹は告げる。


 その言葉に、カッときたらしい少女は、


「私は、関雲長かんうんちょうの娘の驪珠よ!!」

「あらそう?でも、聞いたことがないお名前ね?」

「何ですってぇ!?じゃぁあなたは!?」


珠樹は優雅に頭を下げ……ちなみに驪珠ではなく周囲に向けてである。


「初めまして。私は諸岡珠樹と申します。僭越ながら先月世界コンクールに出させて戴きましたの」

「こ、コンクール!?」

「えぇ。ご存知なくて?私は音楽家の卵ですの。ですので、今度は……」


 幾つもの名だたるコンクールに出場するのだと言う声に青ざめる。


「あ、貴女が……!?」

「失礼ですけど貴女は、どんな楽器を演奏なさるの?何でしたら私とこの後ご一緒に」


 にっこりと微笑む珠樹に、父親が、


「も、申し訳ない。娘は怪我をしていて……」

「あら?驪珠は楽器も声楽も全く出来ないではありませんか。嘘とメッキは剥がれるものですわねぇ?」


微笑むのはモデルの貂蝉ちょうせん

 優雅なドレスは、妖精の女王の雰囲気を周囲に見せつける。


瑠璃るり!!」


 夫の声に、瑠璃は優雅に、


「あら?失礼ですけど、他人様に呼び捨てにされたくありませんの。止めていただきたいわ」


先程までぬいぐるみを使って、琉璃や珠樹とコロコロ笑いながらぬいぐるみのお話や、ままごとをしていたように見えない……まさに女神ディーヴァにふさわしい、高貴で冴えざえとした眼差し。


「お別れを致しましたわよね?私のお借りしていた宝石やドレス、靴にバッグを愛人に貢いだり、売り払って豪遊!!その全てをお返しして欲しいとお願いしましたし、屋敷も私のもの。出ていかれまして?」

「わ、私は、承諾していない!!それよりも、お前の方こそ何だそれは!?」

「……ふ、ふふあぁぁぁぁん」


 突然亮の腕の中の琉璃が泣き出す。


「琉璃!?どうしたの!?」


 必死に亮にすがり付き、嫌々と首を振るのに気がつくと、琉璃の足をつねっている少女……。


「何をしている!!」


 その手を振り払い、後ずさると、


「ちょっと見せて……ゴメンね?琉璃」


とつげて、靴下をめくると赤くなり、爪をたてられたのか血がにじんでいる。


「元直兄さん!!月英!!」

「解ったわ。元直、先程までいたあの部屋に。救急箱と、お客さまに何かあったらと医師を呼んでいるの。見て貰って頂戴。琉璃?大丈夫よ?泣かないで」


 かなり我慢していたのだろう。

 腫れ上がっていく足に蒼白になりつつ、元直の先導に着いていく亮。

 そして、迫力のある美貌の月英が腕を組む。


「どう言うことかしら?言って下さる?何故、私の妹にあんなことをしたの!?」

「妹!?違うわよ!!あんな孤児、死んじゃえばよかったのに!!あの子のせいで、私が恥をかいたのよ!!お母様に頬を叩かれたんだから!!当然でしょう!?あの子が悪いの。私の責任じゃないわ!!」

「あぁ、あの事件ね?」


 月英は唇を歪め、周囲に聞こえるように告げる。


「この子が、ある事情で施設にいた私の妹を苛めた上に、叱りつけた瑠璃様のことまでも、嘘八百並べた言葉にそこの関殿は、施設に寄付を取り下げると脅して追い出し、次々に移る琉璃を追いかけ、寄付をするから追い出せと命令して施設は全部、琉璃を追い出したのよ!!」

「な、何だって!?」


 周囲はざわめく。


「雨の日に最後の施設を追い出された琉璃は泣きながら、瑠璃様に会いたいってずぶ濡れのまま歩いていたのを亮が見つけてくれたのよ!!熱を出して弱りきって、怯えるあの子を見てどんな目に遭ったのか……父は自分がきちんとしていれば…自分の娘であるこの子を探しだしていればと!!」


 カメラマン達取材陣が、一斉にスキャンダルになりかねない大富豪の話を聞こうと、一斉に振り返る。


「恥ずかしい話になるが、妻を亡くして落ち込んでいた頃に、一人の女性と知り合い深い仲になった……しかし、私には丁度思春期になっていた月英がおり、彼女は身を引いた……姿を隠したのだよ……」


 眉を潜め告げる。


「申し訳ない。その女性の名は、故人の為伏せておきたいと思う。だが、ようやく見つけ出した娘、取り戻した娘にあの仕打ち!!その上施設でも!!許すつもりはない!!私は劉家との取引を止め、このアミューズメントパーク以外の契約は、全て白紙に戻す!!施設の責任者……そして施設を纏めるのは役所!!そこが娘を、金につられて放り出す!!そのような町に、私は金を出す気はない!!このアミューズメントパークは、娘がとても気に入っている。娘名義にするが、ここ以外からは一切てを引く!!それを伝える為にこのイベントを企画した!!」

「もう手続きに入っておりますわ!!ですので、今日が最後とお思いになられて下さい」


 月英は微笑み、そして瑠璃も、


「私もこの国から出ていくつもりです。私は、貂蝉の名を捨て瑠璃の名に戻ります。ありがとうございます」


深々と頭を下げる。


「私の娘のような存在ですの、あの子は……妖精王陛下、行って参りますわ」

「私も行こう。瑾瑜達、月英も頼んだ」


 承彦しょうげんの言葉に周囲は頷く。


「では。失礼する」


 二人は去っていき、そして、取材陣が殺到する。


「順番にお話しします。申し訳ありませんが、レディを立たせたままというのは、失礼かと思いますの」


 その言葉に道が開き、歩き出すと、席につく。


「諸岡の方は、均以外は解らないお話ですの。そして、呂選手にも話すつもりでしたけれど、昨日まで海外でしたので、伝えておりませんの」

「あ、でも俺は、あの子可愛くて妹になって欲しいな。で、妹を苛めた相手は嫌いだ!!」


 子明は言い切る。


「では、お話ししますわね……」

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