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テーマパーク行きたいな~。

 琉璃りゅうりは、正式に光来こうらい家の娘となり、数日間はゆったりと過ごす筈だったが……。


「こら!!月英げつえい!!何をしておる!!」

「着せ替えですよ!!着せ替え!!ほら、いらっしゃい。お姉さんがしてあげるから」


 琉璃は半泣きになる。


 昨日まで解らなかったのだが、月英はデザイナーや、機械工学、そう言ったもの作りの天才で、琉璃の全身のサイズを見ただけで理解し、確認のためにとベタベタと触った。

 嫌いではないが、余り人に慣れていない琉璃には怖いのだ。


「月英兄さん!!やめてあげて。それ以上すると琉璃が泣くし……」

りょうに殺されるぞ?」


 きん元直げんちょくの一言に、ピタッと動くのをやめる。


「……まだ死にたくないし、止める」

「何を止めるんです?」


 現れた亮に、てててっと駆け寄るとしがみつく。


「お、おにいしゃま、お帰りなしゃい!!」

「ただ今、琉璃」


 腰を屈め微笑むと、涙目の琉璃に気がつく。


「どうしたの?誰かに苛められた?」

「ううん……」


 本当のいじめを知っている琉璃は、首を振る。


「じゃぁ……」

「月英兄さんが、服のサイズを図るってベタベタと触ってました!!」


 はーいと手を上げ、均は答え、元直も、


「もう少し、お嬢様に気を使えるようになって欲しいものだ。兄なのだから……」


と、苦言を呈する。


「月英?」

「だってな!?琉璃は可愛いじゃないか!!しかも私の妹!!妹には可愛いドレスを着せたい!!全身コーデは、可愛い可憐なピンクのフリフリワンピース!!ヘッドドレス!!革靴に、腕を隠す長めのレースの手袋に、靴下は膝丈!!あぁ、何て似合うんだ!!本当は、黒か紺のワンピースでエプロンドレスで……メイドを……」

「月英?」


 亮の声に、


「す、すまん!!でも究極の夢なんだ!!」

「そんなアホな夢を琉璃に押し付けないように!!」

「いーだろー!!お前が兄貴じゃないんだ!!兄である俺が、遊んで何が悪い!!」


自慢げに言い放った月英を元直が、ぱしんと頭を叩く。


「兄だからこそ、そういう妄想を妹に反映させるんじゃない!!」

「おい、元直。お前、私よりも年下なのに、年上の頭を殴るな!!」

「主の息子だろうが、年上だろうが、常識外の行動をする者をたしなめるのが仕事!!私は仕事に忠実!!」


 美声の持ち主の発言に、その後ろで均は、


「とかいって、元直兄さんだって、さっき伯父さんに怒られてたでしょ?」

「うっ……」

「何をしたんです!?元直兄」

「いや、変なものは教えてない。お嬢様が無造作に虫を掴みかけて……咄嗟に厳しく……」


元直の声に、


「全く……お前たちは、困ったの……おいでおいで」


承彦の呆れた口調に、月英は、


「父上こそ、琉璃りゅうりが可愛いからって、家の秘蔵のエメラルドやサファイア、ダイヤモンドで幾つも装飾を作るんだ!!とかいって、琉璃に『どれが良い?』って、ざらざらと石を広げてたじゃないか。元直が、ピンクサファイアで、無難に小さなピアスにプチネックレス、ブレスレットを選ばなかったら、ルビーにトパーズその他もろもろで、全身コーデしようとした癖に!!」

「いやぁ……可愛いから」


真顔でのろける義父に、


「あにょ……おとうしゃま。琉璃は、きらきらより、おとうしゃまにもやったワンワンのぬいぐゆみでいいでしゅ……んと、んと……お洋服も一杯で、琉璃は着られなかったら……」

「良い良い。あれは、月英の会社のデザイナーたちの試作品……と言うよりも、琉璃のように可愛い娘が着るからこそ、デザイナーは、色々とデザインを考えていくようになる。琉璃は、月英の会社専属のモデルのようなものだよ。あれこれ楽しんでご覧。琉璃が選ぶものを皆は注目する。で、自分勝手に作ってきたデザイナーほど、自分のものが選ばれなかった理由を考えるようになる」


琉璃は首をかしげる。


「んと…琉璃がえりゃぶお洋服で、琉璃は、可愛いお洋服がきやえて、お洋服を考えるおにいしゃんたちは、もっとがんばゆ…でしゅか?」

「そうそう。琉璃は賢いの。いった通りじゃ。そうすることで、お兄さんたちは今回のお洋服のどこがおかしいのか、琉璃に聞いてきただろう?」

「あい。あにょ、重いにょよりも、うごきやしゅいのがいいでしゅ」


 琉璃は自分を束縛する鎧のような服は嫌いらしく、月英は、必死で訴える妹のつたない説明を聞き取り、それを自分でデザインしたり、会社のデザイナーと作り手と共に相談しつつ幾つか作らせている。

 今日は、王道のセーラー服に、膝より少し下の7分丈のパンツルック。

 帽子も、靴も揃っていてマリンコーデである。


 昨日は、窮屈そうだったフリフリヒラヒラで、固い生地のもので、わがままなどは言うはずはないが、少々窮屈そうだったものよりも、シンプルさが余計に可愛らしい。


 少年風だが、所々リボンが付いていたり、胸元のフェイクのポケットの縁のロゴもいつの間にか『LIULI』と言うブランドロゴが付いている。

 可愛がるだけでなく、この可愛い娘を、モデルとしてニューブランドを展開させるらしい。


 まぁ、それが似合うほど、琉璃は美少女である。


 CMなどよりも、色々な仕事関係のパーティに連れていったりする方が、ブランドの価値は上がる。

 まぁまだ、琉璃は家に慣れていないし、じっくり勉強もあるが、息抜きとしてテーマパーク等につれていき、貸し切りにして思いっきり遊ばせてやりたい……これが本心である。


と、そういえば……と振り返ると、


「あ、そうじゃ!!琉璃?明日、ある遊園地を借りきって、亮の兄弟たちや親族、そして家の会社の社員の家族とで、パーティを開くつもりでの?ジェットコースターとか観覧車にメリーゴーラウンドや、沢山の遊具で遊んだり、お菓子を食べたりしようと思っておるのだが……どうかの?」

「遊園地!!」


琉璃は目を輝かせる。

 施設で育った為、時々出掛けても遊具のある緑地公園が精一杯で、テレビで見ていた施設は夢だった。


「そこは、家が株をほとんど所有しているのでな?明日のは前から決まっていた上に、パーティ形式となっているので、少しは窮屈かもしれないが、亮と均がおるから……どうかの?」

「えっと……い、行きたいでしゅ!!んっと、お人形……いましゅか?」

「お人形……あぁ、テーマパークのキャラクターかの?おるぞ?」


 着ぐるみらしい。


 すると父親に抱きつき、


「おとうしゃま!!ありがとうでしゅ!!琉璃は、すごく、しゅごーく嬉しいでしゅ!!」

「私も、大好きだよ。じゃぁ、琉璃?少し遊んでおいで」

「あい!!いってきましゅ!!」


ちゃんと頭を下げると、守役になった均が、


「待って。お兄ちゃんと行こう。庭に、ブランコがある。遊ぼうよ!!」

「あ、あい」

「あ、でも、しんどくなったら止めるんだよ?いい?」


二人は手を繋ぎ歩き去っていった。




 音もしなくなったのを確認すると、亮が口を開く。


「調べてきました。琉璃は黒河備くろかわそなえの前妻の生んだ娘で、黒河が仕事関係のことで借金をする時、借りたかん株式会社が娘を嫁にするならと言われ、身ごもっていた奥方を追い出したようで……で、生まれた後、母親は事故死……不審死ですが、裏で手を回し揉み消したとか……」

「むぅ……」


 声は平坦だが、かなりこれは怒っている。


「で、琉璃が瑠璃るりおばさんと呼んでいる方は、備産業の副社長である関雲長かんうんちょうの妻で、瑠璃殿。琉璃の母親の親友だそうです」

「瑠璃……って、どこかで聞いたことがある……」


 呟いた月英に、元直が、


「モデルの貂蝉ちょうせんどのですね。年齢を越えた美貌の主……ミスユニバースに優勝したり、家庭のこともおろそかにせず、私生活は極秘……と言うか、ご本人は公表しても良いと思っているらしいですが……夫の浮気問題や、娘の教育問題で夫との仲は険悪なようですよ」

「よく調べられたな、お前……そこまで……」

「人脈がありますし」


元直が澄まし顔になる。


「そうか……瑠璃どのにも、来て貰おう!!」


 そそくさと携帯電話を操作し、電話を掛ける。

 するとさほど時間もなく、


『はい。瑠璃ですが……?お久しぶりですわ。光来会長』

「あぁ、久しぶりだ。今は時間はあるかの?」

『はい。大丈夫ですわ』


落ち着いた風を装っているものの、声が震えている。


「……何かあったのか?瑠璃どの。心配事や相談があれば、聞くが?それとも、家の執事をそちらに送ろうか?」

『……お願いできますか……?』


 震える声に、尋常ではないと承彦は、


「元直、亮。これから住所を言う、そちらに向かって車を……」

「かしこまりました」

「いって参ります」


二人は姿を消す。


「今、そちらに秘書と、諸岡亮もろおかりょうを送ったので、しばらく待ってほしい……大丈夫か?」

『ありがとうございます……大丈夫ですわ……』


 泣いているのか声も濡れてくる。


「大丈夫。待っておいてくれ」


と告げると、


『はい。本当に……お電話……ありがとうございます……心が、折れそうで……でも、承彦さまの声で……ほっとしましたわ……』

「それは何より。ん?到着したようだの。一人は長身の亮。もう一人が、秘書の元直だ」


騒々しい物音や罵声が響いていたものの、やがて、


『失礼します。任務完了しました。瑠璃様をお連れいたします』


と言う声に、


「そうか。こちらで、手を回し、その屋敷にあるあらゆるもの、貴重品は全て差し押さえの連絡済みとお伝えして、こちらにお連れしなさい」

『かしこまりました。では……ありがとうございます。お貸しいただき感謝いたします。では、参りましょうか?』




 琉璃は大事なぬいぐるみの光華こうかを抱き、均と一緒にブランコで揺れていた。

 ベンチ風の揺ったりとしたブランコで……眠くなりうとうとし始めるのを、均は支えると微笑む。


「良かった。今日は探検と月英兄さんのおもちゃで疲れたでしょ。休めばいいよ」


 すると、


 親馬鹿な承彦が、特別に業者に作らせた遊具がよく見える回廊を、兄が腕に女性を抱き上げ、元直の後ろをついて歩いている。


「兄さん?どうしたの?」

「お客様。調子を崩されているから……。均。琉璃も本調子じゃないから気を付けて……」

「はーい。もうすぐ寝ちゃうから、つれていくよ」


 均は、ウニウニぐずる少女を抱き上げ、琉璃の部屋に連れていったのだった。

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