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お姫様と教育係兼婚約者の関係です。

 ふえっ、ふえっ……


 しゃくりあげる声に、りょうは、慌てて部屋に飛び込む。


「大丈夫?琉璃りゅうり?」

「ふわわわぁぁん!!おにいしゃま!!」


 身を起こそうとするのを、慌てて寝かそうとするきん珠樹しゅじゅに、


「いやぁぁん!!おにいしゃま!!怖いにょぉぉ」

「はい、待って!!琉璃、まずはお兄ちゃんが行くから良い子にしてて。子明しめい先輩。これを持っていて下さい」


琉璃用の簡易食を手渡して近づくと、傷に障らないようにだっこする。


「琉璃?怖くないよ?起きたばかりだから、ビックリしたんだね?ほら?均と珠樹。お兄ちゃんの弟と妹だよ?」

「おにいしゃま……痛い。痛いにょ~」


 ふえふえ泣きじゃくる少女が包帯の巻かれた手で、涙をぬぐおうとするのを、均はサッとハンドタオルを出して、


「琉璃?ほらほら、くまさんのハンドタオルだよ~?可愛いでしょ?珠樹と選んできたんだ。これでお顔拭こうね?」

「あ、ほら、琉璃ちゃん。ここのベッドのシーツや枕の柄はくまさん模様よ?それに、ほら。子明が持ってきてくれたくまさんは、全部あそこに並んでいるの。可愛いわよね」

「く、くましゃん……?」

「そう。はい、くまさんのタオル。お兄ちゃんがふいてあげる」


均にふいて貰い、子明がささっと取ってきた光華こうかと、一番お気に入りの大きなテディベアを持ってくる。


「ほら、琉璃?心配するなよ。お兄ちゃんがちゃんと持ってきたぞ」

「あ、あいがとう……ふえっ、怖がってごめなしゃいっ」


 泣き出しかけた琉璃に、珠樹は、


「謝らなくて良いのよ。怖かったんだもの、私達とも余り会ったことがないし、ビックリするわ。だから、心配しないで。それよりも、本当に大丈夫?痛くない?」

「だ、大丈夫れしゅ……ちょっとだけ……痛いれしゅ」

「大丈夫じゃありません。泣いちゃったから、又熱が出てる。これを食べてから、お薬飲んでお休みしようね?」


亮は受け取った器を見せる。


「ほら、琉璃?甘いオートミールだよ。食べにくいかもしれないけれど、栄養があるから食べてみようね?」


 トロリ……と、甘さよりも深みを増すはちみつをたらし、


「はーい。お口あけて?」

「あーん……お粥しゃんより、変なあじ……」


首を傾げる琉璃に、亮は微笑む。


「でも、コトコト煮込んでいるから美味しいでしょう?」

「うん」


 ぺろりと食べた琉璃は薬を飲ませて貰うと、すやすやと眠り始める。




「よかった。薬も飲んだし、長距離移動だから心配したけど……あ、すみません。えっと……」


 姿を見せたのは、優しげな丸い目の女性。


「こんにちは、皆様。私はヴァーセルの妻のメリアナと申します。こちらのお屋敷の女官長になりますの」

「じょ、女官長!?ヴァーセルさまの奥方が、働いているのですか?」


 はっきりいって、珍しく表情を変えた亮に、コロコロと笑うメリアナ。


「元々宮廷の女官見習いでしたの。ヴァーセルは仕事人間で全く家に戻らないと言うことで、そのまま働いていたのですわ。すると、殿下からのご命令で私が姫様付きの女官長になりましたので、ヴァーセルもこちらに執務室を移したのですわ」

「移した……って、ここに!?良いんですか!?」

「良いも何も、ヴァーセルは実家以外、家がありませんし、リフォーン一人には任せておけませんもの。大丈夫ですわ。私達の子供も遊び回れるお庭がありますの。姫様も仲良くできるかと思いますわ」


 にこにこと微笑みながら、お茶を勧める。


「どうぞ。クッキーですわ」

「……まぁ!!美味しい」


 珠樹は笑顔になる。


「素敵。こんなに美味しいクッキー、作られましたの?」

「公主殿下の趣味ですわ。自分のティータイムは、自分がと言われる方なんですわ。作って保存していたものですわ」

「美味しいです!!ねぇ?」

「うんっ。これは有名なお店のお菓子よりも、美味しい!!」


 珠樹と子明が頷く。


「大丈夫ですか?」


 メリアナは亮を見つめる。


「あ、はい……大丈夫と言うか、琉璃が……辛かっただろうと思って。守れずに……」


 俯く亮に、メリアナは、


「話は伺っておりますわ。でもあれは事故と言うよりも、愚かな親子の暴走です。それに、亮さまは最善の行動を起こそうと思ってましたわよね?」

「最善……だったのか、今では良く解らないです」

「それが普通ですわ。解ってたらしませんもの」

「は……はぁ!?」


顔をあげると、メリアナは頬に手を当てて、


「ヴァーセルに似てますわねぇ。人は何もかも出来る訳はありませんのよ?出来れば神です。必死に努力するのが人の役目です。そしてもう二度としないぞと思うことも出来ますのよ?そう考えるようになって下さいませ。でなければ、姫様をお任せ出来ませんわ」

「そ、そうですね!!頑張ります」

「そうなさって下さいませ。後日お越しになられる旦那さま、奥様、姫様のお兄様のお部屋も準備が出来ております。そして、別棟にお兄様方のご準備も出来ておりますので、ご安心下さいませ」


微笑むメリアナに、ふと思い出したように均が、


「僕達は別棟……兄様はどこですか?」

「このお隣です。ここは、姫様のお屋敷ですので主寝室となっておりますの。お隣に、諸岡もろおかさまのお部屋を。又、こちらとは反対側に、第二主寝室がありますの。そちらにお父様方が」

「と、隣ですか!?」


想像もしていなかった場所が自分の部屋と聞き、ぎょっとする。


「先程の姫様の様子をご覧になられましたでしょう?諸岡さまがおられないと、姫様は泣かれますわ」

「そうだね、絶対に泣く。兄様は隣だよ。頑張ってね」

「均!?」

「それに、琉璃の勉強は自分がするって言ってたじゃない。頑張れ、兄様」


 均の言葉に、自分がそういったことを思いだし、成長を見守ることを再び思い出したのだった。

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