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引っ越し先は春の国です。

 琉璃りゅうりは容態が安定するのとほぼ同時に、そのまま公国の用意した特別機で公国に旅だった。

 残務処理を放置して琉璃に付き添ったりょうきん、妹の珠樹しゅじゅと婚約者の子明しめいもである。

 本当なら瑠璃るりも行きたかったのだが、その前に挨拶をと言うことで、義兄になるロウディーンと婚約者の承彦しょうげん、義理の息子になる月英げつえいと、若いながらに公国の大学の学長となる瑾瑜きんゆ達兄弟が会見を開く。

 穏やかそうな仮面を被りロウディーン公主が微笑む横で、清楚なドレス姿の瑠璃の横の承彦は口を開く。


「本日は、お集まり頂きありがとうございます。本日は私的ではありますが、お伝えしたいと思っております」


 世界中のメディアの前でも怯まず、微笑む承彦は、瑠璃と視線を合わせた。

 瑠璃は頬を赤く染めつつ、そっと左手を見せる。

 ブルーサファイア程深い青でもなく、アクアマリンよりも淡い、しかしブルーの大きな石のついた指輪に、周囲はざわめく。


「そ、それは……」

「ブルーダイアモンドの婚約指輪です。承彦さまに戴きましたの」


 頬にもう片方の手を添えて、照れて見せる。


「このようなものは必要ないとお伝えしたのですが……」

「気持ちは形にして、貴方のように美しい人に身に付けて戴ける程、美しさが増すものですよ」

「まぁ!!恥ずかしいですわ」


 婚約者を見つめ微笑むと、


「あら、承彦さま……貴方。少し、宜しいですか?」

「ん?どうしたのかな?」


承彦のネクタイを直しつつ、ネクタイピンを見えやすい位置にずらす。

 すると、同じような青い石の収まったピンが、姿を表す。


「あぁ、ありがとう。直してくれるとは助かるよ。瑠璃」

「いいえ、構いませんわ。承彦さま」

「いい加減、さま付けは辛いものがあるね」


 その言葉にしばし考え、


「旦那さまがよろしいですか?それとも……」


楽しげな瞳の瑠璃に承彦は、


「ダーリン、ハニーにしようかな?」

「まぁ!!」


頬を赤らめるが、すぐに、


「じゃぁ、ダーリン?私、月英さんと琉璃のお洋服についてお話をしたいですわ。お願いですわ。琉璃は可愛いものを、素敵な夢を与えてあげたいのですわ」

「そうだねぇ。琉璃には可愛いものを与えてあげたい。それは、美しいドレスだけではなく、最高の教育にマナー、そしてハニーと同じ声楽の道を」


甘々オーラを放つ義妹を放置して、ロウディーンは微笑む。


「先日、ご報告させて戴いたのですが、私の義妹である瑠璃と申します。そして瑠璃が育てていた、私のもう一人の妹、麗月れいげつの娘が琉璃と申します。琉璃は私と同じ金色の髪と青い瞳の8才の娘です。我が公国の唯一の後継者が琉璃です」


 ざわざわとざわめく。


「琉璃さまは……こちらには?」


 ロウディーンはうっすらと微笑む。


「一昨日、この国の少女に襲われて、十数ヵ所切りつけられ、100針程縫いました。傷の痛みとショックで泣き続けておりましたので、落ち着き医師に納得確認させ、先程国に帰らせました。婚約者の諸岡亮もろおかりょう君達と共に。とても怯えていて、亮君にしがみついて、少し離れただけでも号泣、ばたんです。亮君自身が連れていきますと言ってくれました」

「少女に!?襲われたと言うのは!!」

「誰です!?こ、国際問題に発展する重大事件ですが!!」


 静かに姿を見せたのは、ロウディーンの親友と言う有能な外交政務官、瓊樹けいじゅとその夫で、警察庁のエリートの夏侯元譲かこうげんじょう


「取り調べさせて戴いた。備産業株式会社の副社長、関雲長かんうんちょうとその娘が、公国の唯一の後継者である琉璃姫を暴行し、顔は奇跡的に傷はないが、手のひら、腕には十数ヵ所、腹部にも一ヶ所の傷があった。全治二月はかかるだろうと診断書はあった」


 淡々と答え、腕を組む。


「捜査の為に向かった凶行が行われた福祉施設は、血が飛び散り子供達が怯えていた。令嬢を止血する青年、凶行を行った少女は暴れまわり取り押さえられ、その父である関雲長は狼狽えていた。『私は悪くない!!私は悪くない!!悪いのは嫁と、嫁が育てたこの愚か者!!私は悪くない!!』としか言わないので、保護責任者遺棄容疑で連行。その娘は保護している。で、黒河くろかわどの?どうしてこちらに?」


 元譲の視線をたどり、ロウディーンも瑠璃、承彦も嫌悪の表情を浮かべる。

 元をたどればこの男が、麗月を殺したようなものであり、琉璃を苦しめる元凶である。

 黒河は人懐っこい表情で微笑み、


「実は、うちの副社長の娘が傷つけたのではなく、そちらのお嬢さんが刃物を持っていたと聞きましたので」

「嘘をつくな!!琉璃には亮以外にもしっかりと守る者がいた。そんなものを持たせる意味はない!!」

「その娘は素行が悪いと、福祉施設を転々としていて、最後には面倒を見る気はないと放り出されたのではないですか?」


 一瞬激昂しそうになった承彦に、そっと手を置いた瑠璃は微笑む。

 大丈夫ですよと言いたげに微笑んだ瑠璃は、とどめの一撃を告げる。


「黒河様?」

「何でしょう?貂蝉ちょうせん殿」

「知っていまして?貴方の片腕である雲長殿は、貴方に内緒で株を売ってお金にして豪遊しておりましたのよ?その株はこちらにございますの。ご本人と貴方様の株は合計50%でしたが、その半分以上は売却され夫が購入しましたの。残りは張田さまが持っておられる分と私の分と、麗月が琉璃に残した株と合わせて40%持っていましたが、夫の分を合わせると……如何でしょうか?65%以上ありますわ」


 元直げんちょくと共に、月英は株を見せる。


「そして……気になることがある」


 元譲が口を開く。


「詳しく、先日の会見の状況を確認すると、福祉施設は、とある会社の社長の命令で令嬢を追い出すことになったと言っていた。躊躇いがちに会社名を伝えると口を揃え、同じ会社名を名乗った。どこかお分かりか?」

「さぁて……私には」


 微笑む黒河に瓊樹が、


「備産業株式会社。黒河殿。貴方のやり方には礼儀も何もありません!!他国の公女を傷つける、外交問題にまで発展させるずさんな経営。法を持って処罰致します!!」

「連れていけ」


元譲の一言に、部下が捕らえ連れていった。


「では、大事な会見の途中に失礼した。後で、謝罪の……お嬢さんの好きそうなお菓子を送ります」

「じゃぁ、私は、可愛いお人形を!!」

「瓊樹……いや、政務官殿、公私混同は……」

「いいんですのよ!!瑠璃は親友ですもの!!それに、亡くなった麗月もそうですわ!!許せませんわ!!」


 プンプン怒っている瓊樹の可愛らしさに苦笑する。


「分かった。友人の子供さんにあげるお人形を作らせよう。では、ロウディーン公主、皆さん、失礼を」

「瑠璃!!連絡先教えてね!!それと琉璃ちゃんにも宜しくね!!」

「ありがとう、瓊樹」


 ちなみに、瓊樹も昔、モデルをしていたのだが、それよりも仕事を選びモデルを辞めたのである。

 しかし、夫である元譲とは学生結婚であり、今でも新婚夫婦のように仲がいい。


 去っていった二人に、


「では、話ですが……」


と話し始めたのだった。

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