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頭を打つとかなり痛いですが、瓦が落ちるよりましかも……。

 救急車で運ばれた琉璃りゅうりは、止血などのある程度の手当てを医師免許を持つりょうに受けていた為、すぐに腹部の浅い傷と、両腕、両手の切り傷を合計11ヶ所を縫う手当てを受けた。

 良かったことに神経や筋などには影響がなく、習い始めていたピアノも回復すれば再開しても良いと言われたのだが、


「ふぁぁぁ~ん。おにーちゃま、おにーちゃまぁぁ」

「ごめんね?ごめんね!!私が離れたりしなければ……」


怯え泣きじゃくる琉璃を抱き締め、あやしながら後悔する。

 あの時傍にいれば……。


「琉璃……琉璃」

「おかあしゃまぁぁ!!痛いのぉ、わぁぁん」


 義母を見上げ包帯を巻かれた手を伸ばす。


「ごめんね……ごめんね!!琉璃!!私が!!」


 涙をボロボロとこぼす瑠璃るりに、月英げつえいが、


「瑠璃母上のせいじゃないですよ!!悪いのは、あっちです!!琉璃?目を離してごめん。本当にお兄ちゃん失格だ」

「おにーちゃま!!」


3人で何とか落ち着かせ、薬を飲ませるとすぐに寝入る。

 痛み止めとショックと疲れのせいだろう。

 ベッドに寝かせようとするが、亮の裾を必死に掴んでいる為、無理である。


「……で、どうなりましたか?元直げんちょくさん」


 瑠璃の声に元直は、


「即座に警察を呼び引き渡しましたが、その時にロウディーン公主殿下から『適正な法を順守できないようなら、国際警察を呼ぶ。大怪我を負った子供は私の姪……次期公主継承権を持った公女……この国で、公女に怪我を負わせたと情報が漏れれば困るのは……』とお言葉を。公主はにっこり微笑まれておりました」


月英は、ひきつり笑いをする。

 あの人は外見は穏やかだが、裏は黒い……その上強い!!


「そうですか……では私も……」

「そうすると、きっと琉璃泣きますよ?『おかあしゃまぁぁ……!!』って」


 月英は真似て見せる。


「琉璃にとってお母さんは、今、瑠璃母上なんですよ。いなくなったらお母さんに置き去りにされたって大泣きですよ」

「で、でも……」


 憂いを帯びた眼差しに、月英は一瞬動揺しつつも、


「琉璃のお母さんは母上です。母上が琉璃から離れたら、今度こそ捨てられたと思うでしょう。母上。琉璃を哀しませないであげて下さい。こんなに傷だらけなのに、心に又傷をつけたりしないで欲しいんです……」

「瑠璃さま。私からもお願いします」


元直は訴える。


 琉璃が来る前は、少々どころかぎくしゃくとした家族とも呼べない、共同生活同然だった屋敷が華やかに、笑い声や歌声に、生き生きとした表情をして、使用人たちも働くようになった。

 瑠璃のお陰でもっと笑顔が増えた……失いたくないのは……。


「琉璃は本当に光来こうらい家の宝物なんです。あの子は天性の歌の才能だけではなく、あの幼さで人を和ませる、人の心を繋ぐ本当に優しい子です。瑠璃さまがいなくなれば、琉璃は哀しむでしょう。屋敷の中でも琉璃は、本当に使用人からも慕われています。挨拶をきちんとして、さん付けで皆を呼んで、必ず何かをして貰うと『ありがとうございます』と丁寧に頭を下げる。出来たお嬢様です。私達の自慢のお嬢様をお願いします。哀しませないで……傍にいてあげて下さい」

「……はい。そうしますわ」


 奇跡的に傷のない顔の頬をそっと撫でる。


「琉璃……私の可愛い娘。そうね。私は琉璃の母だもの……!!」

「では、瑠璃どの。私の妻として、琉璃と月英を子供として共に育て、共に生きてくれまいか?」


 姿を見せた月英の父、承彦しょうげんは、ゆっくりと告げる。


「年の離れた男で大きな息子もいる私だが、共に、幼い琉璃を育てて欲しい。寂しがりの甘えることの苦手な琉璃を可愛がりつつ、レディとして大舞台でも怯まない負けない子に……笑顔の愛らしいリトルレディに」


 目を見開き振り返った瑠璃は、


「わ、私は……まだ正式に離婚した訳でもなく……さ、再婚する為には月日が……」

「それなら大丈夫ですよ」


 承彦の横から顔を覗かせたのはロウディーン公主。


「貴方はすでに私の妹として、公国の公女となっています。こちらの法律に縛られることはありません。ついでに私は、光来家と繋がりを深めたいですし、琉璃を幸せにしたい。そして次の公主妃としたいので、手っ取り早く、貴方を利用させて戴きます。貴方は私の義妹であり、琉璃の母。光来家に早急に嫁いで下さいね。そうすれば、琉璃をちゃんと育てられますよ」

「公女と公主妃……?」


 亮の呟きに、ロウディーン公主は示す。


「義母がこの私の妹の公国の公女の瑠璃。瑠璃の娘の婿養子が君。諸岡もろおかの者は皆、賛成して頂いたし、国に来てくれることになっている。琉璃は本当にお買得……じゃなかった、運が良い子です」

「腹黒丸出しは、止めろ」

「良いんですよ~公式じゃ、優れた穏和な公主を演じているでしょう?」


 部下をいなし、瑠璃を見つめる。


「どうされます?琉璃をこの国に置いておくメリットは完全にないと思いますよ。解ります?今日のように、突然何が起こるか解らないのです。琉璃は私の姪であり、公国の後継者です。もう二度と、このような目に遇わせる訳にはいかないんですよ」


 ロウディーン公主の目の先には、衝撃で頭を打ち包帯を巻いている琉璃が、亮にすがって眠っている。

 両手腕に、腹部にも切り傷があり、しばらく入院することになっている。

 しかし……。


「解りましたわ、御兄様。私は御兄様のおっしゃる通り、琉璃の母として生きることを選んだ者です。その立場を確固たるものにする為にも、国の為ではなく琉璃の為に、その助言を受け入れますわ。ありがとうございます。御兄様」

「賢い妹で嬉しいよ。瑠璃」

「では、御兄様。お願いがありますわ」


 真剣な眼差しで告げる瑠璃に、


「何だい?」

「……備産業そなえさんぎょうを徹底的に潰して下さいませ」

「……解ったよ。そうしよう」


公国と光来家が手を組んだらどうなるか、後日痛い目を見た者がいたのだった。

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