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イタリア語とドイツ語がオペラなどの歌には多いです。難しいです。

 琉璃りゅうり瑠璃るりと共にドレスに着替え、出番を待つ。


「おかあしゃま。この間歌ったお歌って、歌詞はこれで良いの?」


 琉璃は、フリガナをふった楽譜を手に、小声で歌う。


「……!?りょうさんに習ったの?」

「ううん。辞書で調べたの」


 よく見ると、琉璃のちまちまっとした文字が並んでいる。

 必死に書き込んだのか、消しゴムで消せなかった部分もある。


「ここまで……」

「琉璃、おかあしゃまみたいになるの。おかあしゃまと一緒にオペラハウスでお歌歌うのよ。あのね、月英げつえいおにいしゃまとおやくしょくしたの。ドレスをね、作ってもらうの!!」


 えへへ……


笑う琉璃に、瑠璃は目に涙をため、抱き締める。


「そうね。お母様も頑張らないといけないわね」

「おかあしゃまは、一杯頑張ってるから良いのよ?おかあしゃまは、琉璃のおかあしゃまだもん。琉璃はおかあしゃまみたいになるのよ」

「お母様みたいに!?」


 目を見開く瑠璃に、琉璃は、


「うん。琉璃は一杯頑張るの。だからね?おかあしゃま、琉璃のおかあしゃまでいてね?だいしゅきな、琉璃のおかあしゃまでいてね?」

「琉璃……」


均がひょいっと顔を覗かせる。


「そろそろお時間ですよ~!!って、何してるの?琉璃」

「おかあしゃまが歌ったお歌」


 楽譜を示す。


「訳したの?自分で?歌い方も!?」

「うん。琉璃、ラララだったら、本当の歌い手しゃんじゃないの。だから、ちゃんと歌うにょ!!」

「……うん、珠樹しゅじゅに伝えておくから、一曲増えること。順番は『歌の翼に』そして、瑠璃さまの後が兄様、その後に入れよう。伝えてくるよ」


 均は出ていく。


「大丈夫?一人で歌える?」

「大丈夫なの。琉璃はおかあしゃまとおとうしゃまと、おにいしゃまとおじしゃま、一杯いるの!!がんばゆ!!」




「は?今から変更?」


 元直げんちょくが目を丸くする。


「うん。琉璃が、もう一曲歌いたいって。楽譜は持って出るみたいだけど、相当一人で勉強したみたいだから。だから、叔父上には内緒にしておいて。珠樹と兄様に話してくるよ」

「解った」


 均は、兄と珠樹の控え室に移動する。

 兄弟であり、着替えは一応仕切りを設けてしたのだが、それ以外は亮が珠樹のハープの音を簡単に指導している。


「もう少しゆっくり。焦っては音が汚いよ。ハープの良さはそのしなる時の響き……それを生かせないようでは、ハープが可哀想だよ」

「はい、兄様」


 練習嫌いで裏では知られている珠樹だが、一番尊敬し大好きな兄の指導には熱心に繰り返す。


「……うん、良くできた。綺麗な音の響き……その音を覚えておきなさい。珠樹は出来るのに怠るんだから……ちゃんとレッスンを受けること。プロでも練習を怠っては、ただの張りぼてのものと同じ。もっと高みを目指しなさい」

「はい、お兄様」

「ほーい、兄様、珠樹。変更伝えに来たよ」


 現れた均に、


「変更?急に何を……」

「琉璃がどうしても一曲歌いたいって、覚えてはないみたいだけど、楽譜を持っていたよ。自分で辞書を引いて訳したり、音を確認してた」

「何を歌うの?」


妹の問いかけに均は曲名を告げ、二人は愕然とする。


「む、無理だ!!あの曲は難曲だぞ!?歌詞をつけて歌うなんて無茶もいい所だ!!新人には歌わせない!!止めさせないと!!」


 亮が出ていこうとするのを、均は止める。


「琉璃がどうしても歌いたいっていってるんだから、失敗しても、それでも琉璃が納得するまでさせてあげるべきだよ。兄様」

「でも!!琉璃が傷ついたら!!」

「琉璃ちゃんはそこまで弱くないと思うわ。お兄様が婚約者を心配するのは分かるけれど、琉璃ちゃんは兄様が思う程子供じゃないのよ。我儘じゃなく、歌い手として、お母様の瑠璃さまを見ているから自分もって頑張ってるのよ。兄様……甘やかすのが婚約者の務めじゃないわ。見守ることも必要よ」


 珠樹の言葉に、亮は目を丸くする。


「珠樹……」

「じゃぁ、兄様。私はもう一曲の確認をします。兄様は楽譜を探すのでしょう?」

「いや、殆どの曲は記憶だけじゃなく指が覚えているし、大丈夫だよ」


 亮は呟き、溜息をつく。


「琉璃は、可愛いだけの女の子じゃないんだなぁ……甘やかすだけじゃダメだとある程度は、ビシビシ……しすぎたかなぁ……」


 亮の呟きは消えていったのだった。

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