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う~ん……やっぱり宝塚ネタに近いかもしれません。

 その日から琉璃りゅうりは礼儀作法、歌のレッスンと基礎的な勉強まで叩き込まれた。


 琉璃は8才にしては賢い子供だったが、英語に、歌の歌詞であるイタリア語、ドイツ語と言った言葉が難しくべそをかく。

 特に、ドイツ語は不規則であり難しい。


 しかし、言語はりょうが担当し、簡単な子守唄や愛唱歌のような楽譜を出すと一度歌って見せ、その後意味を説明していく。

 そして、一緒に歌おうと誘い歌いつつ、覚えるようにすると、琉璃はするすると覚えていく。

 無理に叩き込むよりも、テンポや歌詞を教えることにより、覚えていく方法を選んだのである。


「ここは、こういう意味だから、もう少し優しく歌おうね。焦ったら、折角の曲が走ってしまうよ」

「はい」

「でも、ここは大丈夫。琉璃は上手だよ」


 頭を撫でると、


「じゃぁ、もう一回頑張ろうね?次にお母さんと一緒に、小さいものの慈善コンサートに出るんだよね?」

「あ、あい……えっ、ちやう、は、はいでしゅ……で、でで……」


緊張したり焦ると舌ったらずになる琉璃が、べそをかきそうになるのを安心させるように、もう一度頭を撫でて微笑む。


「大丈夫。緊張しないで。大丈夫だよ?琉璃はちゃんとお話しできるでしょう?焦るとなっちゃうだけ。今回のコンサートはお父さんやお母さんのお友達を招いた小さい行事だから、大丈夫だよ」

「本当……でしゅか?」


 瞳を潤ませる琉璃に微笑む。


「お兄ちゃんは嘘をつかないよ?琉璃はこんなに頑張っているんだから、大丈夫」

「……あいっ!!がんばりましゅ!!」


 舌足らずに戻ってはいるものの、愛らしい顔ににこっと微笑む。


「無理はダメだよ?緊張したら、お兄ちゃんと一緒に歌った時の事を思い出してね?」

「あいっ!!」




 練習を繰り返す間に、琉璃は衣装の着こなしや身のこなし、姿勢、歩き方からレッスンを受ける事になった。

 自分に自信のない俯きがちの琉璃を、兄の月英げつえいはびしばし……ではないものの、


「琉璃。俯くと声が出ないんだよ?」


月英は言い聞かせる。


「俯くと声が潰れるんだよ?兄様と元直げんちょくきんに父上は、琉璃が俯くと残念がるよ?可愛い琉璃の笑顔が見たいのにって」

「じゃんねんがゆ……でしゅか?」

「そう。琉璃がこの間、にこにこ笑って歌ってくれた顔……兄様はもう一度見たいなぁ……?琉璃の笑顔があると、兄様も父上ももっとにっこり笑うし、特に父上はもう嬉しいと思うよ。琉璃が今度歌う歌は、父上が一番好きな歌なんだ」

「おとうしゃまが!」

「そうなんだ。『歌の翼に』だよね?日本語訳は大体分かるけど、ドイツ語では本当の曲の意味が歌われている。兄様は余り楽曲を知らないけれど、前に亮に聞いたんだよ。日本語は一つの音に一つの音……意味分かるかな?」


 琉璃は首を傾げる。

 それを見た月英は、琉璃の楽譜を広げると、


「兄様が歌うのは、日本で歌われている『歌の翼に』だよ。違いを聞いていてね?」


と指で示しつつ歌う。

 亮程上手くはないが、テノールの柔らかい声である。


「『歌の翼を 借りてかな

 さちあふるる 夢の国へ

 日の差すそのに 花は香り

 見渡す池に はちす匂う

 見渡す池に 蓮匂う』


【歌の翼を借りていこう。幸福に溢れた夢の国へ、日が降り注ぐ花園は花の香りで一杯だ。でも、見渡す池には、美しい蓮の花が咲いている。その匂いの中はまるで夢のようだ(刹那 玻璃注釈)】」


 歌い終えた月英に、琉璃は、


「この音符に『は』だけ?」


首を傾げる妹に笑いかける。


「そう。日本語は一つの音で一つの意味をなす場合もある。だから、かなりギリギリまで、文章の意味を略す……関係ない歌詞になる事も多いんだよ?」

「んと、じゃぁ……おとうしゃまと亮おにいしゃまは」


「琉璃には、両方の良い所を知って欲しいと思っている。でも、日本語は意味分かったかな?」


 琉璃は素直に首を振る。


「わかりましぇんでした」

「日本語の古い言葉が多いからね。はちすはすの花だよ……ほらあそこ」


 月英は示す。


 この屋敷には小さすぎない池があり、そこには……美しい白い花が咲いている。


「はちす……はしゅのお花でしゅか?しゅごい……」

「花の中央部分……そこが、蜂の巣のように見えるから、そう呼ばれていたみたいだね。と、一つ一つ教えないと分からない。それよりも原曲……元の歌詞を理解してから、歌って欲しいと思っているんだよ。だから頑張って。兄様がちゃんと、琉璃に似合う可愛いドレスを作るからね」

「あい!!ありがとう。だいしゅきでしゅ!!おにいしゃま!!」


 琉璃にぎゅっと抱きつかれた月英は、微笑んで抱き上げる。

 月英は華奢な方だが、琉璃は8才には見えない程小さく華奢である。


「兄様も大好きだよ。琉璃が兄様の妹で嬉しいよ」


 ぎゅっと抱き合う兄弟に、


「うえぇぇ、きもっ。又やってんのか!?おい、碧樹へきじゅ何か思わねえのか!?」


ワイン瓶を肩にかついだ士元しげんと碧樹が姿を見せる。

 ちなみに碧樹が月英の婚約者である……のだが……。


「いやぁぁぁ!!可愛い~( 〃▽〃)琉璃ちゃん。月英さんとにっこりして~!!そう、そして、きゃぁぁ可愛いわ、可愛いわ!!こんなに素敵な兄妹いないわ~!!月英さんの着崩れた格好もいいわぁ……ふふふ……これを週刊誌に……」

「いやいや……今回は売るなよ!!亮にやれ!!……あいつの表情が変わるのも楽しみだ」


 こちらも兄妹だが、逆に守銭奴と嫌がらせのダブル攻撃に、月英はため息をつく。


「碧樹。悪いが、私生活の琉璃の写真は絶対に外に出すな!!じゃないと、婚約は取り消す」


  まだ人馴れしていない幼い妹の耳を押さえ、続ける。


「それに士元。お前にも言っておく。亮に突っかかるなり何なりは勝手にしろ。だが、亮の婚約者に内定したとはいえ、琉璃は8才だ。まだ世間知らずで、人見知りが酷く、怖がっている!!琉璃を利用する……そのつもりなら、お前の伯父上に直接言うぞ!!琉璃は光来こうらい家の娘であり私の妹。手を出すならそちらの家と対立も辞さないと!!」


 珍しく険しい顔で言い放つ月英の気迫に、士元もへらへらした顔を真顔にする。


「ふーん……うちのおおとり家とやりあうのか?」


 その顔に、今度はにやっと唇を歪めた月英は、


「あぁ、家は亮の家の諸岡もろおかだけでなく、中国の財閥、家とも繋がりが深いからな……お前が琉璃に何かをしたら、球琳きゅうりんに告げ口するぞ!?」

「なっ!!球琳……」

「何だ?馬鹿士元」


こちらは、清潔そうなシャツに細身のパンツルックの少年……いや、


「きゃぁぁ!!球琳さまぁ!!」


写真を撮り始める碧樹に、苦笑する。


「碧樹。いい加減会う度に、それは止めないか?」

「何を言っているの!?世界の美形俳優ランキング、トップを維持している球琳様を撮らずして、何を撮るの!!」


 髪をかきあげ微笑んだ球琳に、琉璃はキョトンとする。


「おにいしゃま……おきゃくしゃまでしゅか?」

「あぁ、そうだ。球琳」

「何でしょう?月英兄上」


 近づいてきた球琳を見つめ、琉璃は、


「ふわぁぁ~!!あの、おねえしゃまだ~!!あの、あの映画の!!んと、んっと……『花木蘭かもくらん』の!!わぁぁ~!!おねえしゃまだ!!琉璃、おねえしゃまの映画見て、しゅごくしゅきになったの!!おねえしゃま!!あにょ、あにょ、ぎゅー、ダメでしゅか?」


目をキラキラさせる、幼い少女の紅潮した顔に、球琳も微笑んで、


「構わないよ。お姫様?お名前は?お伺いしても構わないかな?」

「りゅ、琉璃!」


大好きな映画の主役の前で、緊張の余り上ずった声で叫んでしまい、口を押さえると涙目になる。


「ご、ごめんなしゃい。おねえしゃま。琉璃は、光来琉璃でしゅ。お年は8しゃいでしゅ……」


 言葉も舌ったらずになり、俯こうとした琉璃を、球琳ががばっと抱き締める。


「可愛い!!月英兄上の妹は本当に可愛いですね!!琉璃?泣かないで。私は球琳。国籍は中国。向こうでは馬球琳マ チィウリン。球琳と呼んで欲しいな?琉璃。お友達になろう」

「お友達……琉璃の!?」

「もしかして嫌かな?」


 少し寂しそうな表情をする球琳に、琉璃は首を振り、


「ううん!!お友達!!おねえしゃまとお友達!!琉璃、嬉しい!!おねえしゃま、だいしゅきでしゅ!!」

「私も、大好きだよ!!琉璃!!」


ぎゅっと抱きつく琉璃に、球琳も抱き締め返す。


「おーい。球琳?私に聞きたいことがあると呼び出しておいて、どう言うこと?」


「あぁ、亮兄上!!私の可愛くて大切な親友を抱っこしてます。可愛いなぁ……本当にお嫁さんに欲しいです。会長、許してくれませんかねぇ?どうでしょう?月英兄上」


 真顔の問いかけに、月英は顔をひきつらせる。


「おい、球琳!!お前は女性だろうが!!お前にはそこのアホがいるだろう!!」

「勝てもしないのに亮兄上に喧嘩を売って、ぼっこぼこにされる阿呆なんか、婚約者とも、知人とも思っておりませんので。そうだ。琉璃?私と点心を……あぁ、中国のおやつを食べないか?碧樹に、亮兄上に月英兄上の分はありますので……どうぞ」

「おい!?俺の分は!?」


 士元の問いに冷たく、


「なぜ、貴様の分を用意する必要がある!!私には両手に花がある。お前は蹴り飛ばすだけだ、ボケ!」


と、本気で婚約者を蹴り飛ばし歩き去っていく。


 一瞬、亮と月英は哀れみの目を向けたものの、プライドが高い士元に余計な手出しはすまいと追いかけていったのだった。

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