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出会いと旅立ちです!!

 琉璃りゅうりは、光来琉璃こうらいりゅうりと言う。

 8才の少女である。




 母は生まれてすぐ事故で亡くなり、父は琉璃を育てることなく施設に預けた。

 それを知った母の親友の瑠璃るりが、度々施設に来てくれては可愛がってくれていたが、


「本当はね?お家に連れて帰りたいのだけど……あの子がね……」


と柳眉を寄せた。


 あの子……それは何度か名前を聞いた、琉璃の一つ上の瑠璃の娘で驪珠りしゅのこと。

 詳しくは知らないが、瑠璃の夫はとある企業の専務らしく、社長とは兄弟のように仲が良いらしい。

 その為か、子供のいない社長に可愛がられ、母親譲りの美貌もあってちやほやされて、ワガママお嬢様であるらしい。




 その日、瑠璃が連れてきた時には、母親と同じ石の名を持つ琉璃が気に食わないと言いたげに、髪を引っ張り、泥団子を投げられた。


「何よ!!こんなの!!可愛くないじゃない!!ふんっ!!黄色の髪に青い目!!不細工!!」


と言われ、髪をわしづかんだ驪珠に、琉璃は泣きじゃくった。


 痛みだけではなく、コンプレックスの髪と瞳の事を言われたからである。

 泣き声に気がついた瑠璃と施設の園長が、何があったのと問うと、その前にささっと手を離していた驪珠が、


「何も。急に泣いちゃったの。私のせいじゃないもん!!」


と言うが、瑠璃は即座にパーンと娘の頬を叩く。


「嘘をつくものじゃないわ!!驪珠!!その手に絡まっている髪は何?貴方……琉璃の髪を引っ張ったのね!!」

「御母様!!何で……何で、信じてくれないの?私は……」

「信じる信じないもないわ!!琉璃の髪はぐちゃぐちゃ、さっきは綺麗にウサギさんみたいに可愛く縛っていたのに、それがここまでなるには……嫌がる琉璃を苛めたからでしょう!!」


 瑠璃は続ける。


「琉璃に謝りなさい!!いじめは駄目だと、何度言ったら理解するの!!」

「……お、御母様の馬鹿ぁ!!大嫌い!!そんな子ばっかり可愛がって!!御父様と伯父様に言いつけてやる!!」


  泣きながら逃げ出した少女の恐ろしさを思い知ったのは、その日の夜……。




 施設の園長が、


「御免なさいね?貴方がここにいると、寄付を止めると言われたの。申し訳ないけれど……」


と、別の施設に移ったが、そこでもすぐ同様になり、最後には追い出されたのだった。




 雨の日……そして、叔母がくれた馬のぬいぐるみを抱き、傘もなくさ迷っていると、


「どうしたの?」


 かなり上から声をかけられ、雨が頬を打たなくなる。

 傘をさしかけてくれたと分かったけれど、ビクッと怯えていると、


「あぁ、ゴメンね?お兄ちゃん大きいから怖いね?」


と言いながら、しゃがみこむのは痩せた男の人。

 眼鏡をかけて、膝の上に大事なものらしいバッグを乗せ微笑む。


「どうしたの?迷子?」

「……お家が……ないのれしゅ……」


 俯くと、ボロボロと涙が零れた。


「い、苛められたのれしゅ…死んじゃったお母しゃんのお友達の瑠璃叔母しゃんの子供に」

「えぇ!?苛められた!?なのに何で!!」

「叔母しゃんがらめれしょって叱ったら、仕返ししてやるって……しょ、しょの日の夜に、ししぇちゅの園長しぇんしぇいが、寄付金を止められるから、出ていってって……他に移っても一緒れ……今日、他に受け入れしゃきはにゃいから、しょ、しょのまま……」


 しゃくりあげる琉璃に、お兄ちゃんは、


「じゃぁ、お兄ちゃんの下宿先にいこう。そこなら大丈夫だよ?」

「れ、れも……しょの、しぇき家の……」

「しぇ……関家せきけ?あぁ、あの。平気平気。お兄ちゃんの下宿先の伯父さんはもっとすごいから。ほら。お兄ちゃんと行こう」


大きな手が差し出される。

 恐る恐る手を乗せると、優しく握ってくれた。

 ゆっくりと歩きながら、


「お兄ちゃんは、諸岡亮もろおかりょう。君は?」

「琉璃……名字は知らない。教えてくれにゃかったの……」

「ふーん……でも。琉璃……いい名前だね?ラピスラズリの石の日本名。その古称だね」


見上げる。


「あにょね……琉璃は、死んだお母しゃんとしょっくりなんだって。れもね、お母しゃんのお友だちの瑠璃叔母しゃんのおにゃまえを貰ったの」

「あぁ、瑠璃。うんうん。お母さんは、琉璃の瞳の色とそのお友達の瑠璃さんの名前を貰って付けたんだね。素敵だね」

「れも……こんにゃ髪と瞳……変らって皆言うし……しょ、しょの驪珠って言う子は二ちゅにね、こうやって結んでたのを引っ張って、こうやってガシッて……痛くて……にゃいたの」


 眼鏡の中の黒い目が細くなる。


「酷いことをするね!!その子!!お仕置きしなきゃ!!」

「れも、瑠璃叔母しゃんが、パーンってほっぺた叩いたや、仕返ししてやるって……もうやら…叔母しゃんもいない……お父しゃんは、育てられないって……行くとこよないんらもん……だりぇもいないんらもん!!琉璃にはいないにょ……」


 号泣する琉璃を抱き上げた亮は、急いで歩いていった。




 いつのまにか寝てしまったのか、目が覚めると、見たこともない豪華な部屋のフカフカのベッドに寝かされていた。


「ここ……どこ?」


 目を何度もこすり、キョロキョロするものの、さっきのお兄さんもいない……その上……。


光華こうか!!」


 大事なぬいぐるみもない……顔を歪め、泣き出しかけた琉璃の右手の扉から何かの箱と、ぬいぐるみを抱いた先程の亮と言う名のお兄さん。


「あれ?起きたの?あ、ごめんごめん!!」


 近づいてきた亮は、目を潤ませている琉璃に近づき、


「ゴメンね?あのね?この子、濡れてたから乾かしてたの。そうしたら、ほら、こことここ」


琉璃に近づけ示す。


「ほつれてるでしょう?だからね、綺麗に直そうと思って裁縫道具持ってきたんだよ。それと……」


 トントンっと先程の扉が開き、わぁっと4人がなだれ込む。


「亮よ!!その子が……」


 近づいてきたのは、白髪混じりだが、スーツ姿がさまになっているダンディーな伯父様(と言うようにと後で教えられた)と、金髪に緑色の瞳の美人なお姉さんと、物静かな印象のお兄さんと、亮お兄さんよりも年下のお兄さん。

 琉璃が怖がったら困ると思ったのか、少し離れて立ち、微笑む。


「琉璃かい?」


 叔父さんの声に、頷く。


「あ、あい。琉璃れしゅ」

「良かった……探しておったのだよ!!私は光来承彦こうらいしょうげん。お前のお母さんの遠縁に当たる。正確には私の亡くなった妻の縁戚……。お前のお母さんは、名前を聞いてるかな?」

「れ、れいげちゅ……れ、麗月れいげつれしゅ。れも、これは本名じゃにゃくて、本当はフェリシアって言いましゅ」

「やっぱり!!」


 金髪の美女が少し低めの、でも綺麗な声で呟く。


「フェリシア姉さん!!姉さんは私の母の従姉妹よ。貴方は姉さんに似てるわね!!私は母だけど」

「お姉しゃん?琉璃の……かじょく?」

「そうよ。私は月英げつえい。月の花びらって言う意味だけれど、ちょっとねぇ……」


 顔をしかめる月英の横から顔を出した少年が、


「じゃぁ、英国名のジェ……」

「言うんじゃないの!!きん!!」

「ヤッホー。琉璃。僕は均。均等の均。亮兄さんの4才下の弟だよ。大学生」


 手をヒラヒラさせた彼は、愛嬌のある少年に見えるのだが……。


「あ、あにょ……琉璃のお歳は8しゃいれしゅが、お、お兄ちゃんは……幾ちゅれしゅか?」

「8才!?えぇぇ!?ちっちゃい!!舌ったらずでしゃべり方も顔も全部可愛い!!」

「やめろ、均!!」


 慌てて抱きつこうとした弟を引き剥がし、


「琉璃。均は16。飛び級で大学生だ。因みに英国の名門大学に通っている。今は長期休暇だよ。で、この人が」

「はじめまして、琉璃」


甘い声が響く。


「私は庄井元直しょういげんちょく。歳は22歳。教員免許を取得したのだけど、教員は過剰だって……で、承彦さんのお手伝いをしてるんだ」

「謙遜してるけど秘書だよ、秘書。元直兄さん、有能なんだよ」


 均は示す。


「それに、兄さんはもっと凄いんだよ!!小さい頃から神童って呼ばれてたんだよ?兄さんは世界の研究所から、大学の研究室あらゆる所から引き抜き話があるんだよ。今度は米国?仏国?独国?アジアはほぼ制覇だよね?印国とか韓国、中国……」


 指を折り数えるのを呆然と見る。


「しゅごい……れしゅ、ね」

「……いや、兄弟が皆突出した才能があって……兄が諸岡瑾瑜もろおかきんゆ。姉が紅瑩こうえい・バーナード、もう一人の姉が北条晶瑩ほうじょうしょうえい、妹が諸岡珠樹もろおかしゅじゅ

「し、しってましゅ!!おにいしゃんは有名にゃ文学者れ、紅瑩しゃまは有名にゃアーチェリーと弓道の……しょえと、晶瑩しゃまは柔道と空手に女性でしょ、しょう、総合格闘技の……珠樹しゃまは有名にゃハープしょうしゃれしゅよね?琴とか琵琶とかも……」


 いくら世間に疎くとも解る。

 その凄さを……。

と、均は兄を示し、


「兄さんは兄と姉にあれこれ叩き込まれたの。それに、元々楽器全般得意なの兄さんで、兄さんは声楽からヴァイオリンとチェロ、ピアノにハープや琵琶に琴も上手いんだよ?最初の留学先、音楽の都の合唱団だったし」

「しょ、しょうにゃにょれしゅか?しゅごいれしゅ!!」

「そんなに凄くは」


 淡々と一人黙々と縫い物をしていた亮は、糸を結び、結び目が邪魔にならないように中に入れ切ると、


「はい、できあがり。琉璃。このお馬さん可愛いね?」


差し出されたぬいぐるみをぎゅっと抱き締め、


「おにいしゃん、あいがとう」

「どういたしまして。ところで、叔父さん……」

「私の娘にこのようなことするとは……あの馬鹿ども懲りんと見える!!今日こそは許さん!!徹底的に潰してくれる!!元直!!」


承彦の声に、


「すでに。ご安心を。進めております。役所にも通告。琉璃を追い出した施設の者が、金品を受け取っていることは明白、そして備産業そなえさんぎょうが、娘のワガママを許した上、琉璃に嫌がらせをしたことや、金品をちらつかせ、寄付を止めると脅すなど言語道断!!許さないと曹操業にも通告しております」

「他には……琉璃や?」

「あ、あいっ!!」


返事をする。


 すると、承彦は優しく目を細め微笑むと、


「琉璃?伯父さんは琉璃の伯母さんの夫。本当の血の繋がった伯父さんではないが、伯父さんの娘にならんかのぉ?そして、この街ではおりたくなかろう?伯父さんは貿易会社を経営しておって、各地を転々としている。しばらく休暇をと思っておったが、急に仕事が入り、月英と均と元直と英国に行くことになったのじゃが……琉璃や?伯父さん……お父さんと、お兄ちゃんたちと一緒に行かぬか?」

「英国!?」

「そうじゃ。そして、お父さんの田舎の小さな屋敷ではあるが、半年勉強して英語が出来るようになったら、学校に編入して、新しい友達と遊ぶといい。どうかな?お父さんと一緒は……」


目を大きく開けた琉璃は、頷く。


「あ、あい!!琉璃はおとうしゃまといきましゅ。お勉強して、お友だちと仲良くします!!」

「良かった……では、大きなものは向こうで揃えるとして……数日ゆっくりしなさい。お父さんがあれこれ準備しておこう」

「お父様!!私も!!」


 手を上げる月英に、苦笑しつつ、


「お前は全く昔から、言い出したら聞かんの……よしよし。そのぬいぐるみも一人じゃ寂しかろう……友達や家族も探そうな?」


と承彦は微笑んだのだ。

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