第4話 引きこもり
君との死別に立ち直れず、暫くの間、部屋に引きこもる自分。
やっとの思いで外出した矢先、君の母親から電話がかかってきたのだった。
君の告別式から数日間、僕は何もする気が全く起きず、俗に言う引きこもり状態になっていた。
どちらかと言えばアウトドア派で、新しいモノ好きな僕は、以前なら2日間も外出しないと、身体がむず痒くなってきて、何かしら名目を付けては外出していた。
それなのに今の自分は、情けない程精神的に落ちていて、僕が最も嫌いな僕になっていた。
煙草の本数だけが増えていたせいか、お気に入りのステンレス灰皿がまるで、食傷気味だと言わんばかりにテーブルの上に淋しく佇んでいた。
そのせいもあって、いつも小綺麗にしている8畳程の部屋には、むせかえる様な煙草の香りが充満していた。
耐えきれなくなったのか、外の新鮮な空気を欲して、ようやく窓を開け換気をした。
少し熱目のシャワーをいつもより長く浴びた後、今にも溢れ出しそうな吸殻を片付け、勿論その灰皿も流しで綺麗に洗い、定位置であるテーブルの真ん中に置いた。 そして本当に久し振りに外に出たのだった。
雲一つなく、文句の付けようがない程のいい天気だったが、数日の間、引きこもりをしていた自分にとっては贅沢な話だが、少し迷惑に感じられた。
外出したのはいいけれど、何の宛も無く、それでいて何かしらをしたい訳でもなかった。
ふとお腹の虫が鳴いている事に気付いた僕は、とりあえず駅前のたまに顔を出す、小洒落たカフェに向かう事にした。
店内はアイドルタイムだった事もあって、明らかに空席が目立っていた。
奥にある大きなガラスに仕切られた喫煙席に座り、考える間もなく僕はカルボナーラとカフェラテを小声で注文した。
煙草に火を付けたまではよかったが、空腹だったせいか、一口で気持ち悪く感じ、すぐに手入れの行き届いたガラスの灰皿に押し付けた。
程なくして注文していたカルボナーラが目の前に到着した。
僕の好物であり、かつ空腹も手伝ってか、ものの4、5分であっさりと完食した。
やっと空腹感が消え、気持ち悪さも無くなった僕は、少し満足気に食後に届いた冷たいカフェラテを一口飲んだ。
また煙草を吸おうかと思ったが、意味はないけれど、ただ何となく吸うのを止めた。
その代わりという訳ではないが、もう一口カフェラテを飲もうとした瞬間、デニムの右ポケットに窮屈そうにしまわれていた携帯がバイブレーションと共に、控え目な音量で鳴った。
ディスプレイには見知らぬ番号が表示されていて、一瞬躊躇ったが、小さな勇気を出して電話に出てみた。
か細く、それでいて透き通った声の女性は、そう、君の母親だった。