第3話 苦い煙草
君の死に直面した僕は、脱力感と虚無感に襲われる。
何も出来ない自分を情けなく思い、そして欲を失っていく
帰りの地下鉄の車内は沢山の人々で込み合っていて、往きとは異なり、空席などある筈も無かった。
切に座りたいと思ったが、見知らぬ乗客に、席を譲ってくれ、なんて言う勇気なんか微塵も持ち合わせておらず、かといって床に直接腰を下ろす訳にもいかないので、僕はグッタリと往きの車内同様に、扉の隅っこにもたれかかって我慢した。
ようやく駅に到着し、寄り道もせずに帰ろうと思ったけれど、散々涙を流したせいか、少し空腹感を覚えた僕は、駅前のコンビニで幾つかのサンドウィッチと少しだけ高いカフェラテを買った。
相変わらず水溜まりが彼方此方に出来ていたが、僕は気にする事無く、ゆっくりとした足取りで家に向かった。
部屋に入るや否や僕はベッドに大の字になって寝転び、暫くの間、僅かに黄ばんだ天井を眺めていた。
気付けばまた、大粒の涙が溢れていた。
声を出しておもいっきり泣いていた。
恥も外聞も無く、ましてや見栄なんてモノも全く関係なしに泣き続けた。
涙が渇れたのか、ようやく泣き止んだ僕は、さっきコンビニで買ったカフェラテと、テーブルの上に無造作に置かれたクールマイルドを手に取り、窓を開け、狭く、そして少し小綺麗なベランダに足を投げ出しながら、煙草に火を付けた。
いつもと違う味に思え、2、3口で灰皿に押し付け、カフェラテをゆっくりと飲んだ。
もう一度新しい煙草に火を付け、今度はいつもと同じ香りと、メンソール独特の味を感じる事が出来て、少し安心した。
残り半分くらいになったカフェラテを一気に飲み干し、続けて煙草をまた同じ灰皿に押し付けて消し、窓を閉めた。
さっきは空腹だった筈なのに、何故か食欲が湧いてこなかった。
買ってきたサンドウィッチを小さな冷蔵庫に入れ、そして部屋の隅で壁に寄り掛かり、何をする訳でもなく、時計が奏でる秒針の無感情な音色を、ただ聞いていた。
食べる事も、寝る事も、何もする気が起きなかった。
余計に付け足すなら、人間の三大欲で言うところのあと一つ、性欲に至っては、長さにするなら1ミリも無かった。
ただ頭の中では、昔誰かに言われた当たり前の言葉が浮かび上がり、そしてゆっくりとしたテンポで駆け巡っていた。
人はいつか死ぬ。
そんな事十分過ぎる程わかっていた。
頭ではわかっているけれど、何故それが今、君だったのか、何故こんなにも早く、それが君の元に訪れる事になったのか。
そう考えると、僕は胸が張り裂けそうな気持ちになった。
辛い時こそ笑っていなければ君は悲しみ、そして怒るだろうけれど、僕一人しか居ないこの空間では、やはり笑う事など出来る訳もなく、ただ時間だけが静かに過ぎていくだけだった。