第22話 二日酔いの朝
久し振りに晴々とした気持ちになれた僕は、許容量を超えたお酒を飲む。
記憶を失い、朝起きると二日酔いに見舞われていた。
雨が一頻り降った後、汚れていた大気が綺麗に流され晴々とした景色になるのと同じ様に、大粒の涙をボロボロと流した後の僕の心はスッキリとしていた。
心だけでなく、背負い続けていた肩の荷も全て無くなったのかもしれない。
馬鹿みたいに何でもかんでも全て一人で背負い込んで、それでいて勝手にパンク寸前になっていた僕。
本当に救われた自分がそこに居た。
ようやく笑顔になれたね
少しは晴れたかな?
そうそう
笑っていなきゃ駄目だよ
佐伯さんはそう言うと、今まで以上の優しい笑顔を見せてくれた。
そしてその笑顔を共にもっと飲もうと言わんばかりにビールを差し出してくる。
僕は、僕はこの時ばかりはお酒が弱いとかそんな事を気にせずに飲もうと思った。
カーテンの隙間から差し込んでくるすがすがしい光と、少しうるさく感じられる小鳥のさえずりと、そして少しばかりの頭痛とで僕は目が覚めた。
左手に付けっぱなしのオメガに目をやると針は8時丁度を表示している。
飲めないお酒を無理矢理に飲んだせいか、昨晩の記憶が途切れ途切れになっていて、どうやって寝たのかわからない。
記憶を辿ろうとして色々思い出してみようとしていると、味噌汁のいい香りと共に台所から佐伯さんの声がする。
おはよう
よく眠れたかい?
僕ははい、とだけ答えた。
真新しい客用と思われる布団を部屋の片隅にたたんで昨日と同じ位置にテーブルをセットした。
すると既に出来上がっていた朝食を次々に運んでくる佐伯さんに僕は問い掛けてみた。
すみません
調子に乗って飲んだみたいで
途中からあんまり記憶無くて
ご迷惑かけてすみません
大丈夫だよ
迷惑なんてかかってないよ
自分から布団に入ってたしね
笑いながらそう言ってくれた事に少しばかりの安心感を覚え、と同時に大きく深呼吸をした。
昨日の晩ゴハン同様、朝食も二人では食べ尽くせない程の量がテーブルに並ぶ。
二日酔いなせいもあって、少しだけ苦笑いをしながら両手を合わせ大きな、いただきます、の声と共に食べ始めた。
二日酔いであまり食が進まない気がしていたのだが、思いの外食べれる自分がいた。
佐伯さんに勧められたおかわりこそ断ったが、それでも十二分に食べた気がする。
対抗する気など毛頭ないだろうが意外にも佐伯さんも食べていて、あれほどあった量が殆ど消えて無くなっていた。
僕は心から感謝の意を込めて深々と頭を下げ、ご馳走様と言った。