第21話 肩の荷が下りた瞬間
苦手なお酒を飲みながら、自分の思いを佐伯さんにぶつける。
黙って聞いてくれていた彼が発した何気ない言葉。
その言葉に涙を堪える事が出来なくなっていた。
久方ぶりのビールはほろ苦くそれ程美味しいとは感じなかったが、よく冷えていた事もあり口当たり良く飲む事が出来た。
もう1杯と言わんばかりに差し出してきた瓶ビールを微笑みながら奪い、佐伯さんの空になったグラスに注ぐ。
それでも注ぎたそうな佐伯さんの表情を察し仕方なく自分のグラスに注いで貰う。
それを一口だけ飲み、酔いが回らぬ様にとテーブルの上に並んでいる煮物やら炒め物などを一気に口の中に押し込んだ。
しばらくの間ビールを飲み、料理を食べ、そして他愛のない話をしていた矢先、不意に佐伯さんは優しく問い掛けてきた。
温泉から上がって涼んでいた時は随分と難しい顔をしていたね
こんな山奥に一人で来るなんて何か訳でもあったのかい?
良かったら幾らでも聞くよ
涙こそ流れ落ちなかったが、複雑な気持ちの中に嬉しさやら何やらが入り混じって込み上げてくるものがあった。
やはりこの佐伯という男性には嘘や見栄は通用しなく、そして自分が不思議と正直になれる。
大きく深呼吸を一度して、僕は話し始めた。
人付き合いが不得意な事。
人を信じる事が苦手な事。
偶然君と出会った事。
君と恋に落ちた事。
僕のワガママで君との恋が終わった事。
そして
そして君が亡くなった事。
1時間か、それとも2時間か。
僕の頭や心にあるその全てを言葉として表現出来るだけ、僕は佐伯さんに話した。
その間反論も批判も、そして何の叱咤もなく佐伯さんはただ聞いてくれていた。
僕は、僕は本当に嬉しかった。
すがすがしい程に肩の力が抜け、胸につかえていた何かが取れた気がした。
今まで全てを抱え込んでいた僕にとって、本当に身体が軽くなった様な感覚。
僕のその肩の荷が下りた事による安堵の表情を見て、佐伯さんは今まで真一文字に閉じていた口を開いた。
少しは楽になったかい?
大きく、そして噛み締める様に頷く僕。
それを確認した佐伯さんは、続けて語り出した。
生きていれば辛い事ばかりさ
でもね
それを乗り切るのが男だよ
苦しんで泣いて
のたうち回って
それでも前を向く
いつか光が差し込んだ時に
胸を張って歩ける様にね
止める事の出来ない大粒の涙をボロボロと流し、骨身に染みるその優しく、そして大きな言葉をただただ素直に聞いている自分がいるのであった。