第18話 言われるがままに
男性を待つこと小一時間。
軽自動車に付いていき、その男性の家に到着する。
するとそこは想像していたモノとはかけ離れた古びた家だった。
普段なら見知らぬ人からの優しさには有無を言わず疑ってかかる節がある僕。
ただ、この時の僕は何かが違っていたのかもしれない。
自分自身を見詰め直すという名目の小旅行がそうさせたのかもしれなかった。
あと1時間で終わるからさ
ちょっと待ってて貰えるかな
僕は男性の優しくそして温かみのある言葉に黙って頷いた。
暇を持て余していたが、周辺には時間潰しをする様な場所など皆無で、別に何かをしたかった訳でもない僕は先程の古びたベンチに再び座る事にした。
まだ半分近く残っている烏龍茶を一口飲み、再び煙草に火を付ける。
くわえ煙草で目の前に止まっている愛車に行き、助手席に無造作に転がっていた携帯電話を取ってベンチに戻った。
相変わらず着信もメールも入っていなくて少し寂しい気もしたが、いつも通りな事もあって別段気にする事もなかった。
手持ち無沙汰に彼是いじってはみたのだが正直面白くない。
すぐにいじるのを止めて座っているベンチの横にそっと置いた。
気が付くと既に3本目の煙草に火を付けている事に気付く。
小腹が空いていたからか、立て続けに吸った煙草のせいで少しだけ気持ちが悪くなっていた。
それを誤魔化す為に残りの烏龍茶を一気に口の中に流し込む。
それでも直らず、入口の中にある冷蔵庫にもう一本何かを買いに行こうとした時、男性が微笑みながら入口から出てきた。
待たせたね
遅番の人間と引き継ぎが終わったから、さぁウチに行こうか
僕は微笑み返して、はい、とだけ言った。
男性は建物の裏側に止めてあった白い軽自動車に乗り、駐車場の一番端にある僕の愛車の前まできた。
後ろ付いてきなよ
駐車場の一番端に止めた愛車のエンジンを掛け、普段なら必ずする暖気もせずにその軽自動車に付いて行く事にした。
時間にして5分くらいか、少しだけ山道を登って男性の家に着いた。
御世話にも新しいとか広いとかは言えない家で、古く、築50年近くは経っていると思える。
家の前にある庭とも何とも言えない砂利の敷地に男性は車を止めた。
その横に有り余る程のスペースがあり、僕はそこに車を止めた。
狭くて汚いところだけど、さぁ、上がってよ
車にロックを掛け、言われるがままに僕は男性に付いて行った。