第17話 温もり
初老の男性の優しさ。
その本当に温かい心に、閉ざしていた僕の心が少しづつ開かれていくのがわかる。
そしてまた意外な事を言われた僕は戸惑いながらも素直に答えていく。
君が遠くに旅立って以来、普段無愛想で無感情気味になっていた僕の心に響いた見知らぬ初老の男性の何気ない言葉。
その素朴で温かい言葉に僕は何だか救われた様な気がしていた。
君の旅立ちを現実の事としてどこか受け入れられなくて、これは夢だと自分自身に言い聞かせていた。
またいつか、何処かで偶然に出逢えると思っていた。
でもそれは現実逃避で、そして決して叶わぬ事だというのもわかってる。
だからこそ一人になりたくて、自分自身を見つけたくて旅に出た。
その初老の男性の一言に僕はほんの少しだけ気持ちが楽になったように思った。
でもそれは現実逃避で、そして決して叶わぬ事だというのもわかってる。
だからこそ一人になりたくて、自分自身を見つけたくて旅に出た。
その初老の男性の一言に僕はほんの少しだけ気持ちが楽になったように思った。
拝借していたサンダルを返却して自前のエンジニアブーツに履き替えようとして温泉の入口に戻ると、再びその男性が僕に優しく喋り掛けてきた。
湯冷めしたんじゃない
お代はいらないから、もう一度温まっていきなよ
本当に嬉しかった。
見ず知らずの他人にここまで優しくして貰ったのは初めてかもしれない。
今まで自分勝手に生きてきた僕。
そして君が遠くに旅立って以来、心を完全に閉ざしていた僕。
それ全てが一気に解凍されていく感覚。
何の躊躇いも無く、僕はただその本当に優しく、温かい言葉に甘える事にした。
相変わらず僕以外の客は見当たらない。
気温が大分下がってきたせいか先程よりも露天風呂は適度な温度になっていて、それが心地良く、僕は肩まで浸かり手足をおもいっきり広げた。
そして日が傾きつつある夕空を仰ぎながらただ黄昏ていた。
一度使ったバスタオルは湿り気を帯びていて少し不快感を覚えたが、仕方ないと自分に言い聞かせ濡れた身体を拭く。
拭き終わり、また服を着て最後に忘れずに形見を首に下げてから2往復目の階段を昇った。
カウンターの前まで行き、本当に御世話になった初老の男性に深々と頭を下げ、お礼を言った。
すると男性がまた予想だにしなかった事を言い始める。
これから何か予定あるかい?
一瞬何て言えば良いのかわからなかったが、何故だかこの人の前では嘘を言ってはいけない気がした。
いえ、ないです
男性は続けて言った。
お腹空いてないかい?
良かったらウチでゴハン食べて行きなよ
何故か断るという選択肢が僕の中には存在していなかった。