第14話 思い出の道程
少し疲れた僕は高速出口脇で転た寝をした。
目が覚め、多少回復した身体に鞭を打ちつつ、君が好きだった温泉へと向かうのであった。
太陽が昇る大分前から出発し、かつずっと一人切りでの運転だったせいか、いつの間にか車中で転た寝をしていた。
すぐ脇を通過する大型トラックの騒音と振動で目が覚めた僕は、車内のデジタル時計に目を向ける。
どうやら小一時間程夢の中にいたらしい。
最大限に倒していた座席を元の位置に戻したのだが、変な体制のお陰で身体中に痛みを覚える。
とりあえず車外に出て、手を天高く伸ばしストレッチをしてみた。
身体が解凍されていくかの様に隅々まで血液が流れていき、随分と痛みが取れてくる。
たかが小一時間とはいえ、やはり仮眠をしたことが功を奏した様で頭はスッキリと晴々していた。
そして鋭気を養われた僕は、意気揚々と山道を進んで行く事にした。
ガソリンの残量がかなり減っていて、メーターの針が半分を大きく割り込んでいるのに気付く。
走り始めてすぐにガソリンスタンドを見つけ、左のウインカーを出しながら迷う事なく入った。
寂れたスタンドは値段が表示していなく、僕を少々不安な気持ちにさせたが、その状況に似合わない覇気のある店員だった事もあってか少しだけホッとさせてくれた。
ハイオクを満タンに入れ、7千円弱の代金を愛想笑いと共に支払う。
店員からお釣りを受け取り、これまた覇気のある誘導にて国道に戻った。
以前君と来た時にはかなりキツい山道に感じた記憶があったのだが、小一時間程休憩をしたからか、はたまたガソリンをお腹一杯にいれた愛車のお陰か、それ程キツくは感じられなかった。
すれ違う対向車は皆無で、走り易い事この上無い。
何の問題も無く、そして何の障害も無くガソリンスタンドから30分強で目的地であった温泉、夜間瀬に到着する事が出来た。
人里離れた山奥にある秘境とも言えるこの夜間瀬温泉。
ひょんな事から昔君との旅行中に見付けて気に入ったのだが、その佇まいも以前と何ら変わらずひっそりと存在していた。
何か理由がある訳じゃない
ただ、何となく落ち着く
あの時と同じ感覚。
決して綺麗という訳じゃなく、何の派手さも見当たらない。
だけれども何故だか心地良くて安らぎがある好きな場所。
そして君が好きだった場所。
車を1台も止まっていない少しだけ寂しい駐車場の端に止めた僕は、助手席に無造作に置いていた黒いポーターのバックからバスタオルと下着を引っ張り出し、財布の中にある小銭をボトムの左ポケットにねじこんだ。
車にロックを掛け、ゆっくりとした足取りで入口へと向かう僕であった。