第11話 目先の目的地
朝早く車に乗り込み、宛のない旅に出た自分。
惰性で高速を走りつつ、漠然と目的地を考え続ける。
そして君との思い出を頼りに昔よく遊んだ長野へと向かって行く。
黒いカーテンに覆われていた空は少しづつ明るくなり、車内に付いてあるデジタルの時計は5時を表示していた。
環八同様、関越道も時間が早いだけあってまばらな交通量。
アクセルをおもいっきり踏み込んで、回りのどの車よりもスピードを出せば気持ちいいかもしれないが、少々古くなった愛車を労る意味でも流れに身を任せる程度で走らせていた。
高速に乗ったという事で、かなり遠出になるのは理解していた。
でも肝心の目的地が未だに決まらない。
そうこうしているうちに、もうすぐ埼玉を脱出しようとしている事に気付く。
流石にヤバいと思った矢先、ふと頭をよぎる地名。
長野?
君とよく行った長野。
そして君と離れ離れになってから行かなくなった場所。
よし、長野に決めた
行先をやっと決める事が出来た僕は、走っている関越道から上信越道へと愛車を進ませて行く事にした。
今迄走ってきた関越道よりも更に上信越道の交通量の少なさに不安がよぎる自分がいたが、そんなことを吹き飛ばすかの様にアクセルを踏み続けた。
朝一で買ったブラックのコーヒーが空になっていたのもあり、また少しばかりの尿意を感じていたので何処かSAにでも寄ろうかと考える。
この先には君とも立ち寄った事のある、行き慣れた横川SAが在ることもあってか、僕はとりあえず目先の目的地をそこに決める事にした。
車に備え付けてある小さなデジタル時計が6時半を表示し、ようやく当面の目的地であった横川SAに到着した。
大きな施設だけあって、結構な賑わいを見せている。
僕はトイレの側にある、車群とはちょっと離れた場所に愛車を止め、小走りでトイレに駆け込んだ。
用を済まし、ボトムの左ポケットに忍ばせていた真新しいハンカチで手を拭きながら、自販機の列へと移動。
数分物色したのだが、結局何の代わり映えもしない先程とは他社のブラックを買った。
喫煙所で本日2本目の煙草に火を付け、すっかりと明るく、そして文句の付けようがない程の晴天を仰いだ。
煙草を珍しく根元まで吸い灰皿に投げ込み、充電完了と言わんばかりに愛車に戻りエンジンを優しく掛けた。
ゆっくりと走り出したはいいが、また当面の目的地を設定するのを忘れた僕は、宛もなく上信越道を流す事になってしまった。
すぐ先の軽井沢で降りても別に構わなかった。
ただ一人きりの軽井沢は淋しく、そして切ないのはわかってる。
一瞬の速答で出口をパスし、10本近く連なったトンネルへと入って行く。
お腹が空いたな
ふと思った。
そう思うと、お腹の中に潜んでいた虫が一斉に大きな鳴き声を出し始めた。
長野と言って連想するモノ。
安直かつ単純明快な僕は蕎麦が思い浮かぶ。
お気に入りの蕎麦。
そうだ、彼処があったか
ようやく第2の目的地が見つかった僕は、惰性で緩めつつあったアクセルをもう一度踏み込んだ。