第八話 家路
杏も涼もあきれてしまって、杏でさえこれ以上なにも言うことが思いつかなかった。
「バカとは何だ!バカとは!」
「名字が一緒ってことだろうが!」
近藤は涼達の感じを見てもまだ二人が双子だと気づかなかった。
「もういいわよ!帰ります」
「へっ!!」
近藤は何故杏が怒っているのか分からず、ポカーンっとしている。
「僕も、もういいです」
涼のあきれたような声に、お前まで…というような顔をしていた。
帰っていく二人の後ろ姿を見ながら、何だったんだ?と首をかしげていた。
「お兄ちゃん速く!」
杏は一人走って行って、向こうの方から手を振っている。
「今…今行くよ」
涼は走って杏の所まで行った。
久しぶりに大きな声を出せた自分が、少し嬉しかった。
「なぁ?お兄ちゃんって言うのやめないか?」
「何~!恥ずかしいんだ!」
杏は少し嫌味口調で言ってきた。
「いや…別にそういうわけじゃ…」
「分かった!じゃあ涼って呼ぶ!」
こっちを見て杏が笑顔でそう言った。
その笑顔はものすごく輝いて見えた。
「いや…僕は…」
「僕?私のお兄ちゃんは僕なんて言わないよ!」
杏は不満げにそう言った。
「はい…」
涼は小さな声で答えた。
「お兄ちゃん変わったね…」
「杏…」
杏は何だか寂しそうな顔をしていた。
「あ!お兄ちゃんじゃなくて、涼だったね!」
杏は心配させまいと、無理に笑顔で答えたのだろう。
その笑顔は少し引きつっていた。
「ああ…そうだよ!」
涼は笑顔で優しく喋った。
「え!そうそれだよ。その笑顔の中の力強さと優しさ!それがお兄…涼だよ」
言っている意味は分からないが、杏はさっきと違い、明るい顔をしていた。
「そう…ですか」
涼はよかったと安心した。
「ああ~またそんな顔して!」
「お兄ちゃんに何があったかは知らないけど、絶対に私が昔のお兄ちゃんに直してあげるからね!」
「杏はまったく変わってないな~…またお兄ちゃんって言ってるし」
「まったくってのはけっこう失礼だよ!」
色々な話をしながら、二人は家路を進んで行った。
「お兄ちゃんに何があったかは知らないけど、絶対に私が昔のお兄ちゃんに直してあげるからね!…か…」
その言葉を思い出しながら、涼は心の中で、ありがとうと言った。