婚約者に嫌われていると思って距離を置いたら、彼が限界まで溺愛してきた
アメリア・ローゼンフェルト、21歳の行き遅れ伯爵令嬢です。
政略結婚の婚約者が18歳の公爵なので、半年後に彼が学園を卒業したら結婚します。
けれど、学園の同級生がみんな子供が生まれたと手紙をくれるので焦ってます。
まだ卒業して3年も経っていないのに、2人目の報告が続き、3人目が生まれると言うのには驚きました。
妊娠期間あってる!?
おぼろげに前世の記憶がある私は、少子化と言う言葉が何を意味するのか分かりません。
学園の休暇がもうすぐなので婚約者のアレクシス・アシュクロフトも王都の自宅に戻って来るはずです。
会えるのが楽しみですが、同級生の令嬢たちとカフェに出かけた時に不穏な噂を聞いてしまいました。
今日は生まれたばかりの双子の赤ちゃんを乳母に預けてきた令嬢が、学園に通う妹から聞いた話として、私の婚約者のアレクシスが最近、ベアトリス・フォン・アルウェイン侯爵令嬢と仲がいいらしいと教えてくれました。
他の令嬢たちも、妹や弟から聞いていると気まずそうに話してくれた。
「ベアトリス様の方が一学年下なのに、学園ではずっと一緒にいるらしいわよね?」
「そうそう、なんだか授業が終わるたびに、二人真ん中の廊下であっているとか」
「休日にはいつも学園の寮から街へ一緒に出かけているらしいわよ」
あ、完全に付き合ってる感じ?
「やっぱり近くにいる若い子の方がいいんじゃないかしら?」
と、かなり年上の男性と結婚した3人目がお腹にいる令嬢が言う。
言われてみれば、もうすぐ休暇だと言うのに、アレクシスが私の予定を聞いてこないわ。
以前は休暇の前には、私に予定を聞いて来て出かける計画を立ててくれていたのに……。
卒業前の大規模な休暇だから、忙しいんだと思っていたけど……それならそうと手紙をくれたらいいのに……。
卒業間近になって、現実的な年上の婚約者のリスクが見えて来たとか!?
他の令嬢と仲が良くて、連絡も来ないんじゃ、完全に嫌われてる……。
最後に会った時にはいつも通りだったけど……。
……違うかも、最後に会った時から様子がおかしかった……。
なんだか、私と目を合わせてくれなくて……変だと思っていたんだった。
……もう、年上の私から婚約破棄してもらえるように頼んだ方がいいのかもしれないけど、相手は公爵家だから、こちらから言えない。
もう、会わないようにしよう。
たぶん、アレクシスは会いたくないと思うけど、義務感から休暇中に一度は会いに来てくれると思う。
会わずに距離を取れば、アレクシスからの婚約破棄もしやすくなると思います。
◆◇◆
アレクシスからの連絡を無視して一週間です。
休暇に入る直前に連絡が来て、お断りすると毎日使いがやって来ます。
アレクシスを義務感から早く解放してあげたい。
そして、私は夜会に出かける。
もう婚約者がいるから、そんなに積極的に行ってはいなかったけど、婚約破棄された後から顔を出すようになると気まずい。
婚約者の恋人のベアトリスさんがどんな方か知りたいと言うちょうど良い理由もあります。
今から慣れておかないと。
昼に会ったり手紙のやり取りが出来る友人たちからはあまり情報を得られなくて、悪い評判はないようだけど。
どうしてアレクシスは彼女が良かったのかとか、知っておきたいんです。
久しぶりの夜会でウロウロしているだけだったら、エドガー・ウィンチェスター侯爵令息から声をかけられました。
学園時代の同級生で弟と妹がまだたくさん学園に通っているそうで、ベアトリスさんと同級生の弟もいると言うから、すごい偶然!
「ただの同級生じゃなくて、弟はベアトリス嬢が好きだったんだよ。上級生のアレクシスと最近、仲が良すぎると相談されていたんだ。君と婚約しているのをみんな知っているのにどう言う事なんだい? アメリア」
エドガーからは、ベアトリスのかなり詳しい話も聞けそうなので、私たちは外の庭園に移動した。
「ベアトリスさんってどう言う方なの?」
「学年の主席でものすごい美人だって弟が言ってるよ。会った事はないけど、俺は学園時代の君みたいな子だと思ってるんだ。それなら、アレクシスが惹かれるのもわかる」
「学園時代は主席だったけど、今は全然違うのよ。それに、アレクシスが私に似てるからベアトリスさんに惹かれたという事も無いわよ。私とアレクシスは政略結婚だから、アレクシスは最初から私を好きな訳じゃないのよ。本当に素敵な子だからアレクシスは好きになったのよ……」
「弟はもう脈なしなんだろうな……」
話した後に、エドガーが肩を落とす。
私も脈なしなのを痛感した。
「弟はまだ他にいくらでも相手がいるからいいけど、アメリアはもっと前なら、今頃は結婚して子供もいたのにな……。一学年下の王太子も君の事が好きだって噂されてたのに」
ズキっと胸が痛む。
アレクシスに別の恋人がいると聞いてからずっと考えている事だ。
「あ、ごめん」
私は溢れてくる涙を止められないまま首を振った。
「エドガーのせいじゃないわ……」
誰かのせいにしても、時間は戻って来ない。
「……俺と今すぐに結婚してくれないか、アメリア。あの頃、君に婚約者がいなければ俺もプロポーズしていたんだ。きっと振られていたけど、今なら……」
「私はまだ婚約中なのよ……」
でも、婚約破棄されたらすぐに相手を見つけないと、すぐに22歳になってしまう。
「エドガー……私……」
待っていて欲しいと言おうとして、後ろに引っ張られた。
「俺の婚約者に何しているんですか……!」
アレクシスだった——。
「な、なんでもない」と言ってエドガーは慌てて夜会会場へ戻って行った。
「アメリア、どういう事ですか? 俺の誘いを断って、夜会のこんな人のいない場所で男と二人でいるなんて……!」
アレクシスが怒っている、けど、困惑した顔で言う。
「それは、あなたにベアトリスさんという新しい恋人が出来たから……私も新しい婚約者を探す必要があると思って……」
「ベアトリスは恋人じゃない! 次の主席の彼女が学園の代表だから、引き継ぎが沢山あって休暇の前に済ませただけだ!」
そう言えば、私も3年生の大規模休暇の前には、次の主席の王太子に引き継ぎをしたわ……。
「でも、みんなに噂されるのは、それだけじゃなく親しく見えたからで……」
「アメリアも王太子と噂になっていました。あの時、俺がどれだけ嫉妬したと思っているんですか……!」
……そうだったの?
「政略結婚だから、アレクシスは私の事なんて好きじゃないでしょう?」
「それは、あなたから見れば政略結婚でしょう。公爵家から俺とあなたを婚約させなければ、そちらの伯爵家との取引を全部やめると言われたんですから」
「え?」
「俺はあなたの事がずっと好きだったんです。子供だけの剣技大会で、下級学園の二年生だったあなたを、従兄弟の王太子にこっそり好きな人だと紹介された時から好きでした。剣技大会で優勝したら、あなたと婚約させてやると父に言われて、一年後に優勝して婚約したんです。王太子にはずっと文句を言われてますが、王太子に取られる前に婚約出来て良かった……」
「し、知りませんでした……」
「知られたら引かれると思って、知らせないようにしてましたから」
アレクシスの目が鋭くなる。
「それが良くなかったですね。なんですか、さっきの男は?」
エドガーのことだけど……。
「ベ、ベアトリスさんの事を教えて頂いていました」
アレクシスの目がもっと鋭くなる。
「プロポーズされて、何か言おうとしてましたよね? アメリア」
「それは……友達はみんな結婚して、子供がいるから、私も……」
「つまり、アイツと子供を作ろうとしていたと……」
「そ、そういうわけでは……」
違うけど、結果的にはそういうことになるの?
「え!?」
アレクシスに抱き上げられた。
「行きましょうか、アメリア」
「ど、どこへ……ですか?」
アレクシスがにこりと笑う。
◆◇◆
伯爵家の私の部屋にアレクシスと一緒にいる。
「部屋をお借りします」
と、母にアレクシスが言っただけだ。
そのまま、私はアレクシスに一晩中抱かれる事になる。
翌日も、次の日も、ずっと。
「アメリアは、赤ちゃんが欲しかったんですよね」
そう言ってアレクシスが離してくれない。
私は顔を覆って泣いていた。
「俺とじゃ嫌だったんですか?」
アレクシスが悲しい様子で、でも絶対に離す気なんてない声で、私を背中から抱きしめて言う。
「ち、違うけど……。アレクシスがずっと離してくれないから、お母様にもお父様にも、使用人達にも、部屋で何をしてるか分かってしまったもの。恥ずかしすぎて……」
「それは、子供がいる人はみんな同じでは?」
「違います。こんなにずっとなのはないでしょう!?」
「それは、俺の愛が誰よりも深いんです」
それから、休暇中に私とアレクシスの結婚を前倒しして行った。
「最初からこうしていれば良かった。アメリアともうすぐ結婚できると思ったら、楽しみすぎて、俺も不自然な態度になっていたと思う」
目を逸らされたり、連絡が遅かったのってだからだったのね。
アレクシスは、結婚式以外では休暇中ずっと伯爵家の私の家に入り浸っていた。
おかげで卒業してすぐにアレクシスはお父さんになっていた。
「もっと二人っきりの時間が欲しかったのに」
私が言うと、アレクシスは困っていたけど、貴族の子は大体乳母が育てるので、前世とは事情が違います。
二人っきりになるようになっていて……気づいたら、2人目と3人目の赤ちゃんがいました。
友人から7、8人目が生まれると聞くと、流石に羨ましくない、大変すぎると思いました。
ただ、子供の数は少なくても、アレクシスの愛が誰よりも深い事には変わりなく——。
ずっと、溺愛されています。




