初めての演奏会
来ていただいてありがとうございます!
寮にも防音の練習室があって空いていれば誰でも使える。いつもは誰かが使ってるけど、寮には今私しかいないから使い放題なんだ。どの曲にしようかなって考えた時思い浮かんだのがゲイルの事だった。あの子は風の精霊だから、風の曲、それもアップテンポの楽しい曲調のものを選んだ。この曲は村にいた時からずっと練習してる馴染みのある曲だったから。
星の音楽団の新年の演奏会は終わって観光客の数も減って来ると思ってたけど、定期演奏会の他にも楽団内で結成されたグループの演奏会や人気の歌姫や歌い手のソロ公演もあるから、まだまだ星降り停での仕事は忙しかった。それでも夜の練習はしっかりやって本番に備えた。
演奏会は星降り停の前の広場に特別に設置されたステージで行われる。なんでも毎年開催される演奏会らしく、始まる前からお客さんがたくさん集まって来てた。昼過ぎから始まってステージの周りには協賛のお店の人達が屋台を出したりしてとても楽しい雰囲気だった。
夕方に仕事着から制服に着替えて楽器を準備する。私達の出番は一番最後と最後から二番目。飛び入り参加だから最後の方なんだろうね。って呑気に考えてた。
「すごい!息ぴったり!」
ノーラとマーシーのヴィオラの二重奏はとても素敵だった。雪の精霊様を讃える曲で、ずっと二人で練習してきた曲なんだって。ずっと二人で、か……。いいな。ちょっとだけ胸が痛んだけど、二人の演奏を聞いてるうちに気にならなくなった。
「マーシー、今日は少し調子が悪いみたい」
選抜チームの演奏の時よりも音に元気が無いような気がする。それでも寄り添うようなノーラの音が優しくマーシーを導いてるみたいで、合奏ってこういうものなんだって改めて思った。私、デリクの音にこんな風に寄り添えてなかった気がする。私達は一人と一人でバラバラに演奏してたのかもしれない。私、自分勝手だったのかも。
「あっ」
二人の演奏中にふわふわと何体かの精霊様達が集まってきた。精霊様達もノーラとマーシーの演奏が気に入ったみたいで二人の周りを飛び回ってる。演奏が終わり拍手の音が聞こえると、精霊様達は来た時と同じようにふわふわと飛び去って行った。
「二人とも良かったよ!」
私は拍手をしながら舞台袖で二人を迎えた。
「ちっとも良くないですわ!!」
突然怒鳴りつけられた……。演奏を終えた二人に詰め寄る銀色の光。じゃなかったハミルトン男爵令嬢。何でここにいるの?
「何なんですの?その気の抜けた演奏は!学園の制服を着て演奏するなら、もっとしっかりやってくださる?!」
「ハミルトン様?!」
「なんでここに?!」
マーシーとノーラも驚いてるし観客の人達も驚いてざわつき始めた。
「マーシ―は今日は少し体調が悪かったんだよ!」
「ノ、ノーラ!駄目よ、そんな言葉遣いしちゃ……。私は平気だから」
「でもさ!」
「そんなの関係ありませんわ!以前と演奏が変わりません!いいえ、むしろ悪くなってますわ!」
ハミルトン様はビシッと指をさしてマーシーを睨みつけた。
「そんな……」
「ちょっと!」
今にも泣きそうなマーシーを庇うノーラ。後ろにオルブライト様がいるのが見えるけど、腕を組んで突っ立ったまま何も言わない。相変わらずの無表情。
「まあまあ、お嬢様、ここは皆が楽しむ場所ですので、そこまで堅苦しくなさらずともよろしいのでは?」
そこへ助け舟を出してくれたのが演奏会を見守っていた星降り停のオーナーだった。
「彼女達には病欠者の代わりを急に演奏をお願いしてしまったので。どうか私に免じて矛を収めていただけないでしょうか」
「……失礼いたしましたわ。皆さま、お楽しみのところでしたのに」
オーナーの言葉に急に我に返ったようにハミルトン様は引き下がり、ステージ横へ移動していった。
「それじゃあセシリーさん、最後お願いしますね」
「は、はい……?」
嘘でしょ?!この空気の中でステージに立つの?!私の初舞台なんですけど?!なんかまだたてロールがこっちを睨んでるし……。ちょっと、何無視してるの?オルブライト様の婚約者なんでしょ?止めるとかちょっとは諫めるとかしてくれてもいいんじゃないの?って無理か。だってあっちは貴族、こっちは平民。結局はハミルトン様と同じ考えってことね……。私はため息をついてリュラ―を手に取りステージ中央に進み出た。
待たされたお客さんの不満顔が目に入る。緊張で足がふるえてる。直前までかがり火で手を温めておこうと思ってたのにあの騒ぎでそれどころじゃなかった。弾き始めようとする私を前に進ませてくれる状況じゃない。無理かも……。諦めかけたその時にどこからが風が吹き、花びらがひとひら舞い降りてきた。
「頑張れ、セシリー。早く聞かせて」
そんな声と一緒に。
そうだった。私の、私達の演奏は精霊様達のため。ひとつ深呼吸をして、改めてリュラ―を持ち直した。小さい時から一緒だったお母さんの形見。この寒さの中、何故かリュラ―はぬくもりを宿しているようだった。手が温かい。これなら……。
かき鳴らす。弦に命を吹き込むように。私の指はいつも通りに滑らかに動いてくれた。いける!確信した私は楽しい風の曲を、突風のような曲を、弱まりまた強まる風、実りをもたらす風、嫌なことを吹き飛ばしてくれる風を讃える、そんな曲を感謝を込めて無心で奏でた。
集中してたから周りは見てなかった。演奏が終わった後、やけに明るいな。かがり火を増やしたのかな。なんてぼんやり考えてた。気が付くと私の周りにはたくさんの精霊達が集まって来てた。
「え……なにこれ……」
「やだなぁ。何言ってるのさ。セシリーの音に呼び寄せられてみんな来たんじゃないか」
「ゲイル?」
いつものような馬の姿じゃない大きな白い光の球体のゲイルが耳元で話しかけてくる。
「なんでその姿なの?」
「僕達にもナワバリがあってさ。あんまり目立つと怒られるんだよね」
「そうなの?そういうものなんだ」
小声で会話してると、誰かが拍手を始めてつられるように大きな拍手が巻き起こった。
「え?何?」
「僕達だけじゃなくて、人間達もセシリーが気に入ったみたいだね。ほら!お辞儀とかしなくていいの?」
「あ、そうだった!」
私は慌ててお辞儀をしてからステージを下りた。
「ありがと。ゲイルが励ましてくれたから、ちゃんと演奏できたよ」
「どういたしまして」
満足そうな声を残して白い光は飛び去って行った。
「セシリーさん、大変素晴らしかったですよ」
「セシリー!すごいじゃないか!」
「こんなに精霊様が集まってくるなんて滅多に無いことよ」
「精霊様達に喜んでもらえたみたいで良かった。無事に終わってホッとした……」
星降り停のオーナーもノーラもマーシーも褒めてくれたけど、マーシーの声と表情が少し暗かったのが気になった。やっぱり連日の忙しさでかなり疲れてるのかもしれない。
「あのお二人も拍手してたわ……」
「あの二人って……」
ハミルトン様とオルブライト様?!噓!なんで??あ、二人とも聖地の方へ行っちゃった。
「なんだよ!楽しい雰囲気を壊しておいて謝りもしないのか。やっぱ貴族って偉そうだな」
ノーラはぷんぷん怒ってたけど、貴族に逆らったらどんな目に合わされるかわからないし、何事もなく立ち去ってくれて良かったってオーナーが言ってた。
つ、疲れた。初めての演奏会だったのに大変なことになっちゃった。無事に最後まで演奏しきれて本当に良かった。その夜は勉強も練習もせずにベッドに倒れこみ、朝までぐっすりと眠ってしまった。
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