推薦と依頼
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窓を開けるとそこにはリオ村で出会った角のある白い馬が浮かんでた。ええっ?!浮かんでるぅっ?!やっぱりこの子って普通の馬じゃなかったんだ……。
「あなたは大精霊様なんですか?」
私が恐る恐る話しかけるとその馬は窓からスーって入って来た。とてもその体が入れるような大きさの窓じゃないんだけど、壁をすり抜けて来たみたいに見えた。
「うーん、良くわからないや。それって人間が区別してるだけでしょう?まあ、確かに僕は一応君達が精霊って呼んでる存在だよ」
うーん、本当に精霊なのかな?プルプルと首やたてがみをふるわせる仕草は普通の馬と変わらないように見える。
「あなたは馬の精霊様?それとも他の?」
「風を起こせるよ」
「じゃあ、風の精霊様なのね。あなたは山の泉に住んでる精霊様なのよね?なのにここにいていいの?」
「あっちはつまらないから」
山の泉で演奏を捧げてたのはこの精霊様のためだよね?この子がいなくなっちゃって大丈夫なのかな……。精霊様って守護や加護を与えてくれてるんだよね?天候を安定させたり悪いものが入ってこないように守ってくれてたりするんだよね。リオ村には今加護が無い状態?それとも他にも精霊様がいらっしゃるのかな?
「そんなに心配しなくても僕の他にもたくさんいるから平気だよ」
あれ?声に出してた?それとも顔に出てた?私は思わず頬を両手で押さえた。
「そんなことより楽しい音楽聞かせてよ」
精霊様は私が持っているリュラ―を見つめた。私は精霊様に乞われるがまま、風の精霊様を讃える曲を演奏した。何曲か聞いて満足したのか精霊様は来た時と同じように窓から飛び去って行った。
それから時々一人で練習してる私の元に一角の白馬が現れるようになった。先生が顔を出す以外は一人きりだったけど、おかげであまり寂しいと感じなくなってきた。精霊様はいつの間に知ったのか私をセシリーと呼び始めたから、私も名前を聞いたら「ずっとずっと昔にゲイルって呼ばれてたことがあるよ」
って教えてくれたから、私もこの子をゲイルって呼ぶことにした。
「もうすぐ冬休みだなぁ。仕事も決まったし勉強も何とか追いついたし良かった良かった」
ポロス学園の一年生の授業は一般教養が多め。ここで追いつておけばあとはもう大丈夫。一安心だ。冬休みの間の短期の仕事はノーラとマーシーが働いてる宿屋のお手伝い。二人と一緒に仕事できるなんてラッキーだ。新年を迎える星の聖地の街は年終わりや新年の演奏会なんかもあったりして観光客が多いらしく、人手はいくらあっても足りないらしい。
冬休み前の最後の授業でエルベ先生に演奏を聞いてもらった。これは学期末の試験みたいなもので、すごく緊張したけど結構うまく演奏できたと思う。ちなみに一般教養の試験は何とか大丈夫だったって感じ……。
「うん。渡した楽譜はすべて完璧だな。合格だ」
言われた瞬間心底安心した。
「ただ音がぼやけてることがある。一音一音を大切に弾け。それから作曲者の意図、この場合は讃える精霊のことをもっとよく思って演奏しろ」
「はい!わかりました。ご指導ありがとうございます」
「そうだ、休みの間にこのハープの楽譜の練習もしておけ。練習室の使用許可を出してやるから。俺から春の選抜チームに推薦しておく」
「…………選抜?」
渡された楽譜を受け取りながら訊き返した。
「どうした?」
「選抜チームに入れるんですか?」
「あくまで推薦だけだ。選抜チームに入るにはコンテストに出て合格しなくてはならない」
「コンテスト……」
嫌な記憶がよみがえるけど、今回は私一人での参加だから大丈夫。
「自信ないか?」
「……いえ!やってみたいです!」
憧れの選抜チームに挑戦する機会がこんなに早く来るなんて!冬休みは仕事と練習とでかなり忙しくなりそう。頑張るぞ!
リオ村でも近所の食堂で働いたことはあった。でもこんなに忙しいなんて!ここ何日か降り続いた雪も降りやみ今年も残り最後になった日は、宿屋兼レストランの『星降り亭』は目の回る忙しさだった。ようやく交代でお休みが取れたのはお昼を随分過ぎた時間。それでも店内は混雑してて、とても座れる場所がなかったから、お店のある広場でマーシーと一緒にご飯を食べることにした。外は雪が積もってて寒いけど、広場では新年を迎えるために火が焚かれてて、その周りは温かかった。
「い、忙しかったねー……」
私はしばらくの間、お昼ご飯のハムと野菜のサンドイッチの包みを持ったままぐったりしちゃってた。
「セシリーが一緒に働いてくれて助かったわ」
マーシーは疲れすぎてるのか少し顔色が悪かった。
「大丈夫?」
「うん。私あまり体力が無くて……。学校の運動の授業も辛いの。セシリーは大丈夫?」
「私は田舎育ちだし、農作業の手伝いとか山に入って果物やキノコを採ったりもしてたから」
そんな私がしばらく食欲がわかないくらいだから、マーシーは本当にきついんだろうな。それでも私達は何とか食事を終えて星降り停に戻ろうとした。
「あれ?あそこにいるのって」
見覚えのある銀髪たてロールの女の子が、やはり見覚えのある銀髪の美少年と一緒に歩いてるのを見かけた。
「ああ、ハミルトン様とオルブライト様だわ。あのお二人って婚約間近って言われてるけど本当だったのね」
「へえ?!そうなんだ」
コリンナ・ハミルトン男爵令嬢は星の歌姫クララ・ハミルトン様の妹で、編入初日に私に難癖をつけてきたクラスメイトだ。
「あの二人も選抜チームにいるんだけど……私、嫌い」
「マーシー……」
大人しいマーシーがこんなにきつい言葉を使うのは多分珍しいことだと思う。でもそれも仕方ないかもしれない。あの二人も選抜チームに入ってて、特にハミルトン様はマーシーを目の敵にしてきつく当たってたらしい。
「平民が星の音楽団を目指すのは分不相応だって言われたわ」
「そんな……そんなの酷い!」
そっか、貴族の人達の視線が冷たかったのはそういう事だったんだ。オルブライト様が私との合奏を断ったのも。オルブライト様は無表情なことが多いけど真面目にクラヴィーアに取り組んでるだけだと思ってたのに……。私はライバルとも思われてなかったってことね。
「ふう……なんかやる気が出てきちゃった!」
「セシリー?」
「偉ぶってる貴族様には負けてられないもの!マーシー、一緒に頑張ろう!」
「…………ふふっ。セシリーはいつも前向きで元気ね。そうね。ノーラにも言われたし、私も頑張るわ」
「さあ、そろそろ戻ろっか。もう少ししたらディナータイムね」
「うん。星の音楽団の演奏会が始まるまではたぶんお客様が多いから大変だわ」
マーシーはほーっとため息をついて立ち上がった。
「良かった!帰って来た!」
星降り亭に戻るとノーラが少し興奮気味に話しかけてきた。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった?交代するからノーラも休憩に行って来て」
マーシーと一緒に私も急いでエプロンを身につけた。今はお客さんもまばらで食事というより温まるためにお茶を飲んでる人ばかりみたい。
「ううん、そんなことないよ。それよりも頼まれごとがあるんだよ」
「頼まれごと?」
「そう!年明けにこの辺の商店組合で演奏会をするんだけど、私達にも参加して欲しいんだって!」
「え?私達が?」
「勝手に演奏会に出てもいいのかな?私達はまだ学生だし、許可とかがいるんじゃない?」
突然のことにマーシーは驚いてるし私も戸惑った。
「それは問題ないと思うよ。だってお金を貰う訳じゃないし、星の聖地に一番近い広場では貴族様達の演奏会があってそっちにもポロス学園生徒が招待されてるらしいからさ」
「貴族の音楽会かぁ。そっちには負けられないね」
「さすがセシリー!そうこなくっちゃ!」
「でも三人で練習なんてしたことないのにできるかしら」
マーシーが不安そうに呟く。
「いつも二人で練習してるんだから一人増えたくらいは大丈夫だよ」
あ、これは私は一緒じゃない方がいいかも……。演奏会には出てみたかったけど仕方ないよね。
「だったら今回は二人で合奏したら?私は応援してるから!」
「え?」
「でも……」
「二人のヴィオラにいきなり私のリュラ―が入ったらガタガタになっちゃうかもだし!ね?」
「…………」
「…………」
黙っちゃった。ちょっと気まずい。
「そういうことなら、セシリーさんには一人で演奏してもらえばいいでしょう。流行り病で出演者が減ってしまっているから、数が増えた方がありがたい。何ならノーラとマーシーも一人づつでも構わないよ」
私達の話を聞いていた星降り亭のオーナーが、そう提案してくれた。結局、マーシーは一人で演奏するのは怖いって最初の通りノーラと二人で合奏して、私は一人で参加することになった。演奏会は三日後。仕事でクタクタだったけど、私は夜遅くに寮に戻ってから楽譜を選んで寝る間も惜しんで練習した。だって私にとっては初めての演奏会だもの!楽しみすぎるでしょ!
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