選抜チームって何?
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ポロス学園の授業はとってもハード。午前中は大体一般教養や音楽に関する座学の授業で様々な知識を詰め込まれ、午後は丸々それぞれの器楽の指導。と言ってもただ楽器を練習するだけじゃなくて、体力づくりの運動もカリキュラムに組み込まれてる。田舎暮らしでのんびり学んでた私にとっては授業の密度の濃さと途中で入学した遅れもあるから、勉強はもう必死。寮に帰ってからもひたすら勉強漬けで、奨学金返済の為の仕事なんてとんでもないという状況だった。午後の体力づくりの運動は山育ちだから割と平気なんだけどね。
「ああ、ご飯の時間だけが癒しだわ!精霊様ありがとう!」
リオ村では見たことが無い凝った料理が乗ったトレーを前にした私は両手を組んで精霊様に感謝を捧げた。
「セシリーったら!そんな大声で……」
大人しい性格のマーシーが恥ずかしそうに周りを見回した。お昼休みの食堂はたくさんの生徒達で混雑してる。
「平気だよ。貴族連中は私達なんかに興味ないだろうからさ」
ちょっと男勝りのノーラがちぎったパンを口に放り込んだ。ポロス学園は貴族九割、平民一割。圧倒的に貴族の令息令嬢が多いから私達平民は肩身が狭いんだって。
「肩身が狭いっていうかそもそも相手にされてないって感じかな。あはは……」
マーシーは力なく微笑んだ。ふわふわの栗毛がいつもより元気が無さそうに見える。
「何?!選抜チームでまたなんか言われたの?」
「ううん、特に何も…………」
「ならいいけど」
ノーラは安心したように食事を再開した。
「え?何?!選抜チームって?!」
「ああ、セシリーはまだ知らなかったんだね。ポロス学園では春と秋に星の聖地で演奏会を行うんだよ」
お魚のソテーを切り分けながらノーラが説明してくれる。ああ!私もお肉のシチューを食べなくちゃ!冷めちゃったら勿体ない!!慌ててスプーンを持ち上げる。
春と秋の演奏会は生徒達の中から優秀な奏者や歌い手が選ばれて、かなり厳しい特訓を受けるんだって。大変だけど選ばれれば星の音楽団入団がかなり近づくから、みんなそれを目標に頑張ってるらしい。
「ええ!じゃあマーシーってかなり凄いんじゃない!!」
だって一年生で選ばれてるんだもんね。マーシーは私達一年生の希望の星ね!
「そうだよ!マーシーは町一番のヴィオラ奏者なんだから!!」
「そんな……ことは……」
ノーラは自慢げにマーシーを見てる。マーシーは照れながらも褒められて嬉しそう。二人はとても仲良しなんだなぁ。いいな。私は飛び出してきたリオ村のことを思い出していた。実はデリクとペアを組んでから仲が良かった子達からは避けられるようになっちゃったんだよね……。結局お別れを言える人がいなかった。できればこの二人とは仲良くなりたいな……。
「放課後に選抜チームの練習があるし、自由に見学も出来るよ」
ノーラが食後のお茶を飲みながら
「そうなんだ。見てみたいな」
「え?大丈夫かな……緊張しちゃう……」
「大丈夫だって!マーシーは選ばれたんだから、堂々といきなよ!私も頑張るから」
「……うん……。頑張るね」
ノーラに励まされてマーシーは笑顔を見せた。友達でライバルかぁ。こういうのなんかいいな。それにしても選抜チームかぁ。どんな感じなんだろう。ノーラが教えてくれたから今日はちょっと見に行ってみよう!
お昼を食べ終えて午後の授業の教室へ行った。実はリュラ―の奏者は私以外いなくて、専門で指導できる先生もいなかった。私を指導してくれるのはエルベ先生で、クラヴィーアの授業の合間に教室に顔を出してくれるだけなんだ。私は一人で準備運動をしたり、渡された楽譜を覚えて練習をしてる。ちょっと寂しい。
「星の音楽団にはリュラ―の奏者も何人か在籍してるらしいし、今度演奏を聞きに行ってみようかな」
柔軟運動を終えてリュラ―の楽譜を用意する。さあ今から弾き始めようとした時、突然エルベ先生が部屋に入って来た。
「やってるかー?」
「エルベ先生!今日は指導していただける日でしたっけ……あれ?」
先生の後ろに誰かついて来てる?
「オルブライト様?」
フィル・フィランダー・オルブライト伯爵令息。いつも教室の最後列の窓際の席でつまらなそうに授業を受けてる美少年だ。今もすごく不機嫌そうな顔をしてる。どうしてエルベ先生と一緒に……?
「よければ二人で演奏してみないか?」
「え?」
「…………」
唐突なエルベ先生の提案に嫌な記憶が蘇る。嫌だ。思い出したくないのに……。
「オルブライトはハープ(リュラ―より大きい竪琴)が弾ける。ハープの二重奏の楽譜もあるし、独奏でやるよりも演奏の幅が広がるだろう。考えてみてくれ。じゃあ俺は他のクラスに顔を出すから、また後でな!」
「あ、待ってください、先生!行っちゃった……」
言いたいことを言ってエルベ先生は風みたいに去って行ってしまった。
オルブライト様と二人だけで残された教室の中はしんと静まり返ってる。どうしよう。エルベ先生からオルブライト様とペアを組むことを勧められたんだよね。リオ村では演奏のペアを組んだ男女は婚約したのと同じ扱いになっちゃうけど、ここではそんなことにはならないだろう。だって身分が違いすぎるし。それでもできれば男の子とペアを組むのは避けたい。でも相手は貴族様だし、私から断ってもいいものなんだろうか?いや、絶対ダメでしょう。どうしよう。
「オルコット嬢」
「…………え?うわっ、は、はいっ!」
ええ?話しかけられた?話しかけられたよ!びっくり!
「悪いけど僕は誰かとペアを組む気はない。確かにハープも弾けるけど、今はクラヴィーアを練習したいんだ。それにハープをやるならソロでやっていきたいから」
「あ、はい。わかりました」
変なの。どうやって断ろうかって考えてたのに、いざ相手から断られると胸が痛い。デリクとロージーのことを引きずってるんだ。
「じゃあ、僕はクラヴィーアの個人練習に戻るから」
私には無関心な深い青。でもちゃんと最初にきっぱりと断ってくれたのは優しいと思う。うん、いい人だわ。
「はい。わざわざご足労頂きありがとうございました」
私はにっこり笑って丁寧にお礼を言った。
「…………」
オルブライト様は少しだけ戸惑ったような表情を浮かべながら私の教室を出て行った。
「お礼の言い方、おかしかったかな?…………ま、いいか」
一人教室に残った私はエルベ先生が持ってきてくれたハープの二重奏の楽譜を二人分練習した。今までに弾いたことがない綺麗な曲で私のお気に入りの楽曲になった。脳内合奏余裕だし!
放課後は予定通りに選抜チームの練習を見学に行った。そこであまりのレベルの高さに衝撃を受けて、寮の部屋に戻ってもしばらく勉強が手につかなかった。私、リュラ―の練習ももっともっと気合い入れないとまずいかもしれない……。
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