初めての王都
来ていただいてありがとうございます!
後半にフィル視点があります
馬車の揺れに合わせて眠気が波みたいに寄せてくる。
昨日は一日中星まつりの時の曲を練習してた。少し練習するとすぐにフィル様も私もカンを取り戻せて、どんどん調子が上がって行った。うん。これだったら王都での演奏も問題なくできそう。翌日の移動に備えて夜は早めに寝ようと思って支度していたら、あの日以来姿を見せてないゲイルが部屋にやって来た。
『えー?セシリーまたどっかに行くの?僕も行くー!!』
『違う違う!引っ越す訳じゃなくて、ちょっと王都に行ってくるだけよ。何日かしたら戻って来るわ』
『王都かぁ。それはちょっと面倒だなぁ。本当?本当にちゃんと戻って来る?』
『うん。ちゃんとここに戻って来るわ』
『そっかー。ならいいや』
納得してくれて良かった。ゲイルまでついてくるってなったらきっと対処できない。それは良かったんだけど、その後夜遅くまでゲイルのおしゃべりに付き合っていてあまり眠れなかった。ゲイルは『月の竪琴』のことを特に聞きたがっていて、お母さんの形見だってことや、今回お父さんが家から持ってきて私にくれたんだってことを何回も説明させられた。知ってるのはそれくらいだし、私の方がもっとお母さんのこと知りたいくらいなのに。
今朝は朝ご飯の後すぐにエクランド様のお屋敷から迎えの馬車が来ることになってたから、寝坊はできなかったし。王都へは制服で行こうと思ってたんだけど、それじゃ失礼になるからってドレスに着替えさせてもらったんだ。通された部屋には何着かのドレスがあってそのうちの一着を選ぶように言われて、メイドさん達に身支度を整えられた。高価そうなドレスに物凄く高価そうな宝石のついたアクセサリーをつけてもらった。なくしたらどうしよう……。
今は王都に向かう馬車の中。かたかたと揺れが気持ちよくて眠くて眠くて仕方ない……。…………はっ!ダメダメ!眠る訳にはいかない!だって隣には……。
「で?君は何故セシリーの隣に座ってるのかな?フィル」
「僕はセシリーと一緒に演奏をするんですから、一緒に王都へ向かってもいいでしょう?」
「……まあいいけどね」
そう。何故かフィル様が隣に座ってる。斜め前にはエクランド様。ここで寝顔を晒すなんて恥ずかしいことできるはずがない!
……フィル様はノーラとマーシーに何であんなことを聞いたの?私はちらりと隣のフィル様を見上げた。二日前のことを思い出す。確かにノーラとマーシーは犯人を見てるかもしれない。
『お前は嫉妬や妬みの恐ろしさをわかってない』
あの時お父さんの言葉が頭に浮かんで、マーシーとノーラに秋の選抜の事は言い出せなかった。演奏会の後、ノーラがあんなに怒るとは思わなかった。きっとノーラはマーシーのことがすごく大事なんだろう。私だってロージーが意地悪されたと思ったら相手に文句言いに行ってたと思うし、実際近所のいじめっ子と喧嘩したりもしたし。マーシーを傷つける人を許せないんだろう。でも、選抜の事は王都から帰ったらきちんと言おうと思う。星降り亭の前で会った時は普通に話せたし、きっと大丈夫だよね。
「どうしたの?セシリー。何か心配事?」
顔を上げるとエクランド様が私を見つめていた。隣に目をやるとフィル様も心配そうに私を見てる。
「少し疲れてるみたいだね。大丈夫?昨日少し頑張りすぎたかな?」
「フィル……その言い方……」
「何ですか?」
二人とも笑ってるけどなんだかピリッとしたおかしな空気が漂ってる?
「い、いえ、少し緊張してて」
少し寝不足なのは本当だけど、緊張してるのも本当。だって王様の前で演奏しなくちゃいけないんだから。
「それは無理ないね。初めての王都でいきなり国王陛下の御前だからね」
「はい」
そうだった。思い出したらもっと緊張してきちゃった。
「大丈夫だよ。一人じゃない。僕も一緒だから。いつも通りに演奏すればいいんだよ」
「はい。そうですね」
ああ、礼儀作法の授業とかあったんだけど、私には必要ないでしょってうる覚えだからすごく不安だ。もっとちゃんとやっておけば良かった。
森の中の街道を抜けて王都に入ると驚くことばかりだった。最初は良かったんだ。星の聖地の街と同じような街並みだったから。でも遠くに見えていたお城が近づくにつれて、これはお城じゃないの?!っていうお屋敷がたくさん並ぶエリアに差し掛かって、今度は奥行き、どこまで?っていうお城の敷地が見えてきて、馬車で門から玄関まで入るっていう経験を初めてしたよ……。
「セシリーさん!やっぱり貴女も招待されてたのね!」
お城に到着すると、無駄に広くて豪華な応接室にコリンナ様達がいた。なんだコリンナ様達も呼ばれてたんだ。当然だよね。あんな素敵な演奏だったんだから。でも良かった。少し心強いかも。でも平民はやっぱり私一人……。みんなこの場に馴染んでて私一人だけ疎外感。本当に制服で来なくて良かった。さらに場違いになってた。エクランド様には感謝しかない。
「演奏会は明日の午後になります。それまで皆様どうぞおくつろぎください」
その後はお城の人に大きすぎる一人部屋に案内されて、昼食を出された。お腹が満たされてホッとした半面心細くなった。なんで部屋の中にメイドさんが二人もいるんだろう?天井が無駄に高いし、ベッドに屋根がついてる。なんで?
「あの、リュラ―を練習してもいいですか?」
「はい。こちらには貴女様お一人ですので大丈夫ですよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
そっか。こっちの建物にはコリンナ様達はいないんだ。私は楽器のケースを開けて『月の竪琴』と楽譜の束を取り出した。メイドさんに見張られてるみたいでやりづらかったから、思い切ってバルコニーから庭に出てみた。外で演奏するなって言われてないからいいよね?私がいる建物はお城の端の方にあるみたいで、外はすぐに森になってた。少し歩くと綺麗な東屋があったから、そこに座って練習を始めた。しばらくリュラ―を奏でているとどこからか精霊様がふわふわと光の球体で飛んできてくれた。
「王都の精霊様、初めまして。セシリー・オルコットと申します」
挨拶をすると光が明滅した。答えてくれたみたいで嬉しい。たぶん森の精霊様なんだろうなって思ったから、覚えてる緑の精霊様を讃える曲を演奏してみた。精霊様の光の動きが活発になったから、当たりだったみたい。
「実は選抜の楽譜も持って来たんだよね。昨日までは落ち着いて見られなかったけど…….。あっ!リュラ―とハープがメインの曲もある。『落ち葉のワルツ』かぁ。気分転換にちょっと練習しちゃおう」
私は初めて弾く曲を楽しく練習した。途中で失敗もしたけれど、精霊様達は気にせずに周りを飛び回ってた。
「ふふ、精霊様達は星の聖地と変わらないんだね。村の中では精霊様を見かけることが無かったけどなんでだろう?星の聖地から遠いから?不思議。でも山の泉にはたくさんいらっしゃるのか……。精霊様にも好きな場所があるのかもしれない」
「その通りじゃ。リュラ―のお嬢さん」
「え?!」
目の前に突然緑のおじいさんがいた。びっくりした。なんか変な言い方だけどそれ以外に表現のしようがない。
「ちょっとお邪魔するよ。楽しい音が聞こえてきてな。つい出て来てしまった」
「…………この森の大精霊様でいらっしゃいますか?」
私はリュラ―を抱えたまま膝をついて頭を下げた。
「ふぉふぉ!そんなに畏まらないでおくれ。ただ永く生きてるだけのおいぼれだよ」
やっぱり。精霊様は長く生きれば生きるほど大きな力を持つというから、この方はとても大きな存在なんだと思う。
「私はセシリー・オルコットと申します」
「セシリーか。良い名だ。どれ、そのリュラ―をもっと聞かせてもらえるかな?」
「はい!私で良ければ喜んで!」
✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧
悔しいけれどハーディー・エクランドの趣味はとてもいい。今日のセシリーのドレスもとても似合ってた。淡い菫色のドレスにとても控えめなアメジストの花の形のネックレス。僕もセシリーにドレスを贈ってみたいけど、悔しいかな僕にはその権利が無い。
「セシリーも落ち着いた頃だろうか。練習に誘っても大丈夫かな」
城の四階に用意された部屋の中で立ち上がった。セシリーの部屋の場所をメイドに尋ねようとしたその時、離宮に来るようにと言われた。王妃様がお茶に招いてくれたらしい。ハープの練習をしておきたかったが、王妃様の命令なら仕方が無い。お茶会にはセシリーも来るだろうし、その後で一緒に明日の練習をしよう。
庭に面した明るい部屋の中に入るとすぐに違和感に気が付いた。セシリーがいない。ハミルトン嬢、ハミルトン嬢のチームの仲間の令嬢令息は皆この場にいるのに何故セシリーだけいないんだ?
「どうしてセシリーさんがいないの?」
ハミルトン嬢だけは訝しんでいるが、この場の他の人間は何も気にしてないようだ。
王妃様が入室してお茶会が始まってもセシリーは姿をみせない。
「オルコット嬢はどうしたんですか?もしかして体調不良ですか?」
メイドの一人に尋ねた。そういえば馬車の中でも少し元気が無かったことを思い出して急に心配になってきた。
「あの方は平民でオルブライト伯爵令息様のおまけでしょう?」
「は?」
「こちらにお呼びするのはちょっと……」
ああ、そういうことか。最初からセシリーは呼ばれてないということなんだ。だったら僕も理由をつけて断ればよかった。僕らの会話が聞こえていたらしいハミルトン嬢も顔をしかめている。
僕は出された菓子には手を付けず、お茶にも口をつける程度に留め、失礼にならない程度の受け答えをするだけにした。とにかく早くこの不愉快な時間が終わって欲しかった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




