夕暮れの街
来ていただいてありがとうございます!
フィル視点です
「来客が、来客が多い!!何なんだ一体!」
僕は苛ついていた。せっかくまた秋の選抜チームに選ばれたのに練習する暇が無い。
星まつりが終わったばかりの星の聖地の街では露天商や行商人達が片づけを行い次の街へ向かう準備をしていた。すでに旅立った者達も多いのだろう。街の中はやや閑散としている。そしてあちこちで街の人々が通りや家の前の清掃をしている姿も見られる。まつりの余韻を楽しんでいるのか、夕方に近い街の中にはまだ残っている観光客と思われる人々の姿もあった。
セシリーとの演奏は大精霊が現れたことで王都でも評判になっていたらしく、国王陛下の耳にも入ることとなり王家から招待状が届いた。
「面倒だな……」
正直、選抜チームの曲の練習もあるのに、王都への往復なんかで時間を無駄にしたくはなかった。しかし父は王都で話題の的になっていることをとても喜んでおり、貴族同士の集まりでも自慢しまくっているようだった。
「自分は僕の演奏なんて聞きに来なかったくせに」
父は星の音楽団の定期公演には行ったようだが、学園の演奏会には来ていない。息子の演奏は素晴らしかったとあたかも見て来たかのように話していると侍従が報告してきた。そして星まつりが終わっても星の聖地の街の屋敷に居残って僕と会いたいという貴族の対応も自ら率先して行っていた。更に王家からの招待状に狂喜乱舞し、王都での演奏もしっかりやるようにと厳命してきた。
「言われなくても演奏はしっかりやるさ」
王都へ行くのは三日後。幸いにも星の聖地の街から王都までは馬車でも半日かからない。今日からセシリーとの練習を再開しようと思っていたのに、午前中にも午後にも来客があり外出ができなかった。やっと解放されたのは夕方近くになった頃で、寮を訪ねたがセシリーは留守だった。
「もうすぐ暗くなるのに一体どこに……そうか!星降り亭だ」
夏休みの間も帰省はしないと言っていた彼女の言葉を思い出し、星降り亭に向かった。
「セシリー!」
星降り亭の扉から出てきたセシリーの姿を見つけ、行き違いにならなかったことに安堵した。
「フィル様?」
最近はやっと仲間として認めてくれたようで、名前で呼んでくれるようになったことは本当に嬉しいことだった。セシリーは身分の事を気にしているようだけど学園は貴族社会とは違う。星の音楽団を目指すものが集う場所だ。だが特権意識を持った勘違い生徒がいるのは事実だから、セシリー達が委縮してしまうのも仕方ないと言える。
「会えて良かった。寮へ行ったら留守だったからここじゃないかと思ったんだ。セシリーにも王家と学園からの手紙、来たよね?」
セシリーを星降り亭にほど近い広場の方へ連れて行き、一緒にベンチに座った。どこかで買い物をしてきたのか、セシリーは小さな紙袋を膝の上に乗せている。
「はい。王家からの招待状はエクランド様から渡していただきました。学園からの手紙は寮に届いていました」
答えるセシリーの表情が少し曇ったのが気になった。
「エクランド様から?……ああそうか。彼がセシリーを支援してるから」
恐らく保護者という扱いなのだろう。自分へ招待状も父であるオルブライト伯爵宛てに届いていたのを思い出す。
「秋の選抜チーム入りおめでとう!お互いまた一緒に頑張ろう」
「ありがとうございます。フィル様もおめでとうございます」
「それで王都での演奏のことなんだけど」
「はい。少し練習が必要ですね」
一度気が緩んでしまったから、もう一度調子を取り戻すためにも練習は必須だ。
「うん。陛下の気まぐれには困ったものだよ」
「えっ?そんなこと言ってしまって大丈夫ですか?」
辺りをきょろきょろと見回すセシリーの姿を見て思わず笑ってしまった。
「大丈夫。誰も聞いてないよ。本来僕らの演奏は精霊に捧げられるものだ。今回も王家の為ではなく王都にすまう精霊達の為に演奏すればいい」
「王都にも精霊様がいらっしゃるんですか?」
「ここと比べれば少ないけれど、精霊の姿は見かけるよ。精霊の為の演奏会だって開かれることもある」
「そうなんですね。そういえばリオ村にも山に精霊の泉がありましたし、王都にだって精霊様がいらっしゃいますよね!」
セシリーの表情が明るくなり笑顔が浮かんだ。王都の精霊に会えるのが楽しみなんだろう。自分に向けてではないけど彼女が笑ってくれるとやっぱり嬉しい。
「王都への出発はいつ?」
「エクランド様は明後日の朝には出発するとおっしゃってました」
「そう。それじゃあ明日一日だけでも合わせて練習をしよう」
「はい」
「星降り亭での仕事は何時まで?」
「あ、王都から帰るまではお仕事はお休みさせてもらうことにしてきました。その後の事はまたオーナーと相談という事になります。エクランド様のご予定が未定ということなので」
「エクランド様の予定?」
「あ、はい。演奏の後で王都を案内してくださるそうなんです」
「え?!エクランド様が?」
「はい。いつも親切にしていただいてありがたいです」
また少し表情が曇ったような気がする。王都に行くのは気が進まないのだろうか。
「そういうことなら僕もご一緒させてもらおうかな」
「え?でもフィル様は王都なんて見慣れてるのでは?」
「そうでもないよ。小さい頃から暮らしてるけどあまり観光名所なんて見たことないな」
「そういうものですか。リオ村は小さかったので、私達は村中を走り回ってましたけど」
懐かしそうにセシリーが微笑むのを見てこちらも頬が緩むのを感じる。セシリーは子どもの頃、どんな風だったんだろう?
「じゃあ、明日はまた学園で一緒に練習しよう。練習室の使用許可を取っておくよ」
教職員や事務員も夏休みを取ってるだろうけれど、当番で学園に残ってる職員もいるはずだ。
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
二人で詳しい時間なんかを話し合っていると、誰かが近づいて来た。
「あ、ノーラ、マーシー!今帰ってきたの?」
セシリーが先に気が付いて立ち上がった。膝にのせた紙袋が落ちて意外に固い金属音がした。セシリーは慌ててそれを拾い上げた。アクセサリーでも買ったんだろうか?
「セシリーにオルブライト様か。相変わらず仲が良いんだね」
呆れたように笑うノーラにはあの演奏会の後の豹変とも言えるような様子は全く見られなかった。マーシーの方はややノーラの後ろに隠れるように立っている。何かに怯えているようにも感じられた。セシリーは気にしてないようだが、僕はあの時のノーラの暴言をまだ許していない。それに今もセシリーをからかうような嘲るような響きがわずかに声に表れているのを聞き逃さなかった。
どうやらオーナーに頼まれたお使いの帰りだったようで二人とも買い物籠を持ってる。今からまた仕事に戻るそうだ。表向きは楽しそうに会話してる三人だったが、明らかにマーシーは顔を伏せ、セシリーから視線を外しがちだった。その表情に思い当たることがあって尋ねてみた。
「君達、星まつりの演奏会でセシリーのリュラ―が壊されたのは知ってる?」
「え?!壊された?!」
「本当なのか?セシリー」
「えっ?!あ、うん。実はそうなんだ……」
セシリーが訝しむようにチラリと僕を見たが構わず続けた。二人の反応を見たかったからだ。
「誰かがリュラ―を盗み出したんだ。君達は会場近くにいたんだろう?怪しい人物を見かけてないかな?」
「……知りません」
「そんなことがあったんだ。それは酷いね。でも私達は何も知らないよ。第一控室の天幕には近づいても無いしねぇ」
ノーラは普通に受け答えをしているが、マーシーの顔は青ざめている。
「でも代わりの楽器があったんだよね?もう一つの天幕?」
「ううん。偶然エクランド様が持って来てくれてたの」
「そうなんだ。運が良かったね」
「うん。私の管理が甘かったせいでオルブライト様にもご迷惑をおかけするところだったから、助かっちゃった。とりあえず今日は楽器ケース用の鍵を買ってきたの」
どうやら紙袋の中身はアクセサリーではなく錠前だったらしい。そんなものを買っていたなんて……。
「それで?セシリーは明日から仕事に来るの?」
「それが、しばらく行けそうになくて……その……」
「え?どうして?」
「僕達は王家から呼び出されてるんだ」
言いづらそうにしているセシリーの代わりに僕が答えた。
「王家から?」
「ああ。王都で演奏しろと書状が届いてね」
「へえ……それは凄いね!」
「だからしばらく仕事には来れないって、オーナーに話しをしてきたんだ」
「王様の前で演奏なんて大変ね。私なら緊張してとてもできないわ。頑張ってね、セシリー」
「でも帰ってきたら絶対店に手伝いに来てよ!星まつりが終わっても星降り亭は大忙しだってオーナーが言ってたしさ。セシリーがいないと大変だよ」
「うん!頑張るわ。それじゃあまたね」
セシリーは二人と和やかに会話ができたことに安心したようだった。けれどノーラとマーシー二人とも目は笑ってなかったように僕には思えた。一つの疑念が生まれた。
もしかしてリュラ―を盗み出した犯人は……。
ただの勘で根拠も証拠も何もない。でもその勘が当たってないことをセシリーの為に祈りたい。
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