スタート
来ていただいてありがとうございます!
うう……。何だか居づらい。この教室……。なんでみんなこんなに美男美女ばかりなの?同じ制服を着てるのに、ううん、同じ服装だからかあふれ出る品位が止まらない感じ。寮友達のエイミーちゃんも同じクラスだったら良かったのに。彼女は声楽、つまり歌のクラスだから教室は全然違う場所なんだよね。
ポロス学園の校舎は四階建て。一階は一年生、二階は二年生、三階は三年生のそれぞれの教室がある。四階には大小さまざまな練習室がたくさんあって申請をすれば誰でも自由に使えるみたい。校舎とは別棟が二つあって食堂、職員室、事務室、学園長室が入った建物と、図書館が一つ。リオ村では考えられない程規模の大きな学校だった。あ、運動場の広さだけは勝ってるけどね!
今朝は事務室に寄ってから職員室に行って先生と一緒に教室へ来たんだけど、なんと試験官の先生が担任の先生だった!アベル・エルベ先生はこの辺ではあまり見ない黒髪の背の高い男の人だった。クラヴィーア(ピアノ)の先生で星の音楽団にも所属してる。
「覚悟はできてるか?」
教室に入る前、エルベ先生に不思議なことを言われた。
「え?」
たくさん勉強したり、厳しい指導を受ける覚悟はできてるつもり。だってここは星の音楽団に入る為の学校だもの。星の音楽団に入れるのは卒業生の中でも一握りだと聞いてる。中途編入の私なんて相当頑張らないと生き残れないだろう。だから私はリュラ―を入れたケースの持ち手を強く握りしめて答えた。
「勿論です!」
「いいだろう。開けるぞ」
ドアを開けた時に感じたのは敵意のような視線だった。何?これ?冷たいような、睨みつけるような、あるいは無関心な雰囲気。
「ライバルが増えたぞ。はるばるブランカ連峰の麓のリオ村からやって来たリュラ―の弾き手だ。仲良くしてやれよ」
ええ?!何?その紹介の仕方?!田舎者で悪かったわね!文句を言いたかったけどとてもそんな雰囲気じゃない。でも先生の言葉のせいか、なんとなくだけど棘のある視線が少し和らいだ気がする。私に関する興味が失われて、開いた教科書や窓の外に意識が向いただけかもしれない。クラスメイトは三十人位かな。それにしても綺麗な人が多いなぁ……。銀髪率がすごく高い。
「セシリー・オルコットです。よろしくお願いします」
私は階段状になった教室の一番高い位置にある最後列の隅っこの席に座った。
「よーし!じゃあ授業を始めるぞ!」
え?エルベ先生って普通の授業もするんだ……。てっきりクラヴィーアだけだと思ってた。
「それぞれの聖地については前回も説明したとおりだ。最後は『時の聖地』について。この聖地は不可視の聖地と呼ばれ、長年存在も疑問視されてきたが最近になってその存在が確実視されるようになった」
ええ?!『時の聖地』っておとぎ話じゃなかったの?!
「実際に見た或いはそこへ行って帰って来たという実例が…………」
本当にあるんだ……。エルベ先生の話につい聞き入ってしまう。リオ村ではこんな話は聞けなかった。精霊様達は私達の世界を守ってて、各地にある聖地は精霊様がたくさんいる場所だって教えられてきただけだもの。すごい!この教科書の前のページもすぐに読みたい!
こうして私のポロス学園での生活が始まった。授業内容が濃いっていうか、レベルが高い。リオ村の教科書の一文の説明が何ページにもなったくらいの細かさだった。私、よく学力試験通ったなぁ……。これからもっと勉強しなくちゃ。ちょっとたけ現実逃避で思わず窓の外を見た。リオ村とは違ってまだ紅葉してる木が少ない。あ、私の反対側の席。最後列の窓際に顎の下くらいで銀髪を切りそろえた美少年が座ってる。クラスメイト達はみんな美形だけど、あの男の子は一段と綺麗な顔立ちをしてる。一瞬だけその子の青い目が私を見たけど、すぐに窓の外に視線が移ってしまった。あ、居眠り始めちゃった。授業聞いてなくて大丈夫なのかな?
「ねえ、ねえ!リュラ―ってどんな楽器?」
「珍しいよねぇ。私も見たことないわ」
「え?」
午前の授業が終わってホッとしてたらいきなり女の子達に声をかけられた。赤毛のノーラと栗毛のマーシーは二人ともヴィオラの奏者でエイミーと同郷らしかった。それにしてもリュラ―って珍しいの?
「あ、見てみる?」
私は家から持って来たリュラ―のケースから取り出して二人に見せた。
「ああ!なんだ小さなハープなのね」
「可愛い楽器だね」
二人は喜んでリュラ―を手に取って眺めまわしてた。
「そんなに珍しい?」
「うん。この辺じゃあまり弾いてる人を見かけないね」
「ねえ!ちょっと弾いてみせてよ!」
「え?今ここで?」
「うん。どうせこの後は楽器ごとに教室が分かれちゃうから聞けないもん」
「だからちょっとだけ!」
「うーん……ちょっと恥ずかしいなぁ」
「わたくしたちも是非お聞きしたいですわ」
三人で話しているといつの間にか周りにクラスメイト達の一部が集まって来ていた。主に銀髪の女の子達で一番前にいる子は腕組みをして何だか偉そうだった。
「貴女、平民よね?編入試験をパスなさったということだけど、何か不正をなさったのでは?」
「そんなことはしてません!」
いきなり喧嘩売って来て一体何なの?それから私を平民と呼ぶってことは貴族のご令嬢ってことかな?そう言えばアクロアイト王国の貴族って銀髪が多いって聞いたことがある。ってことはクラスの人達は殆どが貴族の坊ちゃん嬢ちゃんってこと?!
「なら証明してくださる?」
「証明って……」
「そのリュラ―で一曲演奏してみてくださいな」
銀髪たてロールのご令嬢が私を指差す。ムッときた。人を指差すなんて礼儀知らずな子だわ。
「わかりました」
私はノーラからリュラ―を受け取って爪弾き始めた。こんな状況で演奏するのは不本意だけど、お母さんの言葉を思い出しながらいつもの曲を奏で始める。
『いい?セシリー、精霊様が楽しんでくださるように、楽しんで弾くのよ』
うん。わかってるよ、お母さん。リュラ―を弾くのは楽しい。その気持ちはいつでも忘れない。
「まあ……!」
「へえ……」
「あ……」
「精霊様が……!」
「噓でしょう……!!」
窓から精霊が一体入って来てた。私の周りをふよふよと飛び回ってまた外に出て行ってしまった。
「そっかぁ。ここって星の聖地が近いから精霊様が入ってきたりもするんですね」
リュラ―をケースにしまいながら誰にともなく尋ねると、ノーラがちょっと呆れたように答えてくれた。
「滅多にないよ、そんなこと」
「へ?そうなの?」
「ふん!まあ演奏技術はそこそこですわね!」
何故か悔しそうな銀髪たてロール令嬢は他のクラスメイト達と離れて行ってしまった。本当に何なの??
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