おまつりが終わって
来ていただいてありがとうございます!
「リュラ―を盗まれて弦を切られたって?」
いつも口数が多くないお父さんの方から話しかけられるとは思ってなかった。
星まつりも終わり、お父さん達が帰る朝。エクランド様に呼ばれてお屋敷に見送りに来ていた。
「う、うん。今回はリュラ―を持って来てくれてありがとう。おかげで助かっちゃった。オルブライト様にご迷惑をおかけするところだったわ。それにしても都会って物騒なのね」
応接室で向かい合う私とお父さんをハーディー・エクランド様はニコニコと見守ってる。ロージーは帰り支度に手間取っててデリクが手伝ってるのでまだここへ来ていないんだって。……本当に何やってるのよ。
「……『月の竪琴』はお母さんの形見だ。お前に託すから大事に使ってくれ」
「とても高価なものなんだよね?あんなのが家にあったなんて全然知らなかった。でも本当に私が持ってていいの?」
「……お母さんはリュラ―の名手だったから、リュラ―を選んだ自分の娘が使えばきっと喜ぶだろう」
「今、『月の竪琴』はエクランド様に預かってもらってるの。さすがに寮の部屋に置いておくのは危ないから。寮の部屋にも泥棒が入らないとは限らないもの」
「……お前は本当に外の人間が犯人だと思ってるのか?」
「え?だって、学園の事務の人がそう言ってたよ?…………えっと違うの?」
お父さんは渋い顔をしてる。え、嘘。もしかしてポロス学園の生徒の中に犯人がいるの?私は思わずエクランド様の顔を見てしまった。エクランド様が悲し気に微笑んでる。てっきり泥棒が楽器を盗んだけど、値打ちものじゃないから腹が立って弦を切ったんだと思ってた。じゃあ、楽器じゃなくて私を傷つけるのが目的だったってこと?
「そんな……どうして……」
私恨まれてる?誰かに何かしちゃった?誰に?
「まあ、君を妬む理由ならいくつか思い浮かぶね。例えば、学園在籍中に音楽団の人間から声がかかったこと、とか」
エクランド様は少しだけ上を向いて人差し指を立てた。
「それは私のリュラ―が珍しいからで」
たまたま同じ楽器を演奏する団員さんが聞いてくれただけのことだ。
「それにセシリーの演奏の時は必ず精霊達が集まって来る」
「それは私だけじゃないです。オルブライト様だって、他の生徒の時だって精霊様達は聞きに来てくれてます」
そうだよ!エイミーの時だってたくさんの精霊様達が集まって来てた。……もしかしてエイミーや他の人も同じように怖い目にあってたりするの?
「それともう一つ……ほら、フィルは君ととても仲が良いだろう?」
「それは……!楽器の系統が似てるからで、オルブライト様も演奏仲間だっておっしゃってました。……妬まれるような間柄じゃないです」
「傍から見たらそれは分からないだろうね」
エクランド様は何故か苦笑してる。そんなに仲良しに見えるかな?本当に練習ばっかりなのに。練習の時は優しそうに見えて、練習室の使用時間をかなり延長して大変だったんだよね。そりゃあこの前うちあげはやったけど、あれも演奏会の一部だし。
「第一私は平民で、オルブライト様は貴族ですよ?」
そう!それ!一番大事なところ。フィル様だってそんな風に思われたら困るよね。そのうちにどこかの貴族のご令嬢と婚約なさるだろうし。……あれ?なんだか胸の辺りがチクってしたような気がする。
「精霊様の前では身分など意味の無いことだ」
「お父さん……?」
「お前はリオ村を出るべきじゃなかった。一緒に村へ帰ろう」
「え?いやよ、そんなの!」
お父さんはそんなに私がリュラ―を弾くのが嫌なの?せっかく頑張ってるのに酷くない?
「お前には人間の嫉妬や妬みの恐ろしさはまだ理解できないだろう」
無残に弦が切られたリュラーを思い出して、少し怖くなる。
「……そんなことない。私だってデリクとロージーのことは腹が立ったもの。知ってて教えてくれなかったお父さんにも怒ってるんだからね」
醜い心なら私の中にだってある。
「…………セシリー」
「私はどうしても星の音楽団に入りたいの」
星まつりの定期公演を見てその思いが強まったばかりだ。譲れない。私の言葉にお父さんは深くため息をついた。
「…………わかった。だが十分に気を付けなさい」
「大丈夫です。安心してください、オルコットさん。支援者としてセシリーを推薦した責任があります。彼女のことは僕が守りますよ」
エクランドさんは自分の胸を軽くポンポンと叩きながら笑った。
「よろしくお願いいたします」
お父さんは立ち上がって深く頭を下げた。ちょっと意外だった。お父さん、少しは私のことを心配してくれてるの?
「お待たせっ!お父さん!」
しばらくするとロージーが元気よく応接室に入って来た。後ろからデリクもついて来てる。ちょうどエクランド様が席を外して、数か月ぶりかの家族だけの時間になった。
「やあ……セシリー、おはよう……」
デリクはロージーとは正反対に元気がない。
「お、おはよう、デリク。なんか大丈夫?」
「ああ。大丈夫。ははは……」
デリクは随分疲れてるみたい。さては昨日もロージーに付き合って街を歩き回ったのね。
「ねえ、お姉ちゃん、ちょっとこっち来て!」
ロージーに手を引っ張られて、ソファから遠い窓辺へ連れて行かれた。
「なに?」
「デリクと交換してよ」
ロージーは小声でおねだりしてきた。
「は?何と?」
「だから!デリクとオルブライト様!交換してよ」
「ロージー?一体何を言ってるの?」
本気で何を言ってるのか訳が分からない。人同士を交換するってどういうこと?
「だから!来年必ずポロス学園に受かるから、そうしたらデリクはお姉ちゃんに返すわ!」
だんだんロージーの声が普通の音量に戻ってく。
「ちょっと、ロージー?」
ロージーの後をついて来てたデリクの声がワントーン上がって掠れてきた。ロージーの冗談を本気にしたみたい。
「はぁ……訳のわからないことを言わないで。そういう冗談は良いから!第一、私はデリクなんて要らないわ」
「ちょっとぉ……セシリーまで……」
デリクが情けない顔でこっちを見てるけどとりあえず無視!
「大事なコンテスト直前に私を裏切った奴なんて信用できないわ」
「えー!お姉ちゃん心が狭ーい!」
「うるさいわよ!それに関してはロージーも同罪だからね。私は許してないわよ。そ・れ・に!オルブライト様は別に私のパートナーって訳じゃないから!そもそもあの方は貴族なのよ?平民の私達なんか音楽のこと以外で相手にされる訳ないでしょう?」
お父さんもロージーも何勘違いしてるのかしらね。
「お姉ちゃん知らないの?!星の音楽団に入ればそんなの無問題なんだよ!貴族と平民で結婚だってできるんだから!」
「は?」
ロージーの言葉に驚いた。星の音楽団のメンバーの間では身分の差が無くなるって聞いたことはある。でもそれは演奏する仲間としてだと思ってた。まさか結婚まで許されるなんて……。つまりロージーは玉の輿を狙ってポロス学園に入りたいということなのね。
「そういうことね……呆れた」
「そうなのよ!私だってお姉ちゃんみたいに学園に入りたいの!」
「一番大事な事を忘れてるわよ、ロージー。学園に入れても星の音楽団に入るのはとても狭き門だってこと」
「それは知ってるけどぉ……」
「はぁ……。とにかくそんな夢を見るんなら、まずはポロス学園の試験に合格しないと駄目よね」
「わかってる!頑張るわー!じゃあじゃあ私がオルブライト様を射止めても文句言わないでね!」
「はいはい、くれぐれもオルブライト様にご迷惑をお掛けしないでねー」
「あー!ひどーい!私が受からないと思ってるんでしょう?!見てなさいよ」
「……もう好きにしたら?」
お父さんとロージーとデリクはそのあとすぐにエクランド様の用意してくれた馬車に乗ってリオ村へ帰って行き、やっと静かな夏休みが始まった。そういえばお母さんのこと、お父さんに聞きそびれちゃったな。それにお父さん、星まつりの間ずっと出かけてたみたいだけどどこに行ってたんだろう?
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