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星まつり ➁

来ていただいてありがとうございます!




「あれ?なんだか……」

思わず声が出てしまって慌てて口を押えた。私は観客席からは離れた位置にある噴水の所にいるからたぶん演奏の邪魔はしてないはず。観客席にはエイミーとエイミーと一緒に演奏してた男子生徒も並んで座ってるのが見えた。二人も顔を見合わせて訝し気な顔をしてる。今、舞台上にはマーシーとノーラが立っていて、ヴィオラの二重奏の真っ最中なんだけど、いつものように息が合ってない。どちらかといえばマーシーが遅れ気味なんだけど、ノーラの方も少しテンポが早すぎる気がする。


調子悪いのかな。心配でハラハラしながら見守っていたら段々と二人の息が合ってきた。良かった。緊張してただけだよね。ホッとしてたら肩を軽く叩かれて驚いた。声を上げることはしなかったけど、ちょっと危なかった。

「セシリー、一人なの?」

「フィル様?どうして?」

ささやき声で話しながら、その場から少し離れた路地の方へ入った。ここなら演奏の邪魔にはならないだろう。


「今日はお家でご用があったのでは?」

「ああ、うん。それはもう済んだから、その、そう!みんなの演奏を聞こうと思って」

「そうなんですか」

私はこの街へ来て色んな人の色んな演奏を聞けるようになって楽しいけど、フィル様も同じなんだね。

「それよりもセシリーはずっと一人だったの?」

「いえ。途中までは妹達と一緒でした。私はみんなの演奏が聞きたくて、昼過ぎからはずっとここにいました」

少し遠くの方からマーシーとノーラの演奏曲が聞こえてくる。いつもの調子が出てきたみたいで、音が元気になってきたように感じる。

「楽しいですよね。こういうおまつりって。精霊様じゃなくてもウキウキしてきちゃいます」

流れ星を模した飾りにかがり火やランタンの灯りが反射してキラキラ輝いてる。

「楽しめているのなら良かった」

フィル様の銀の髪も今は温かい色合いに染まってる。


「そのワンピース似合ってるね。かわいいよ」

「え?あ、ありがとうございます」

突然褒められて思わず頬が熱くなる。エクランド様から頂いた時はちょっと困ったけど、こういうかわいい服を着られるのは本当はすごく嬉しい。

「エクランド様からの頂きものなんです。妹にも色違いで同じものを頂いてしまって」

「え……。そうなんだ」

何故か急に険しい顔になって黙り込むフィル様。

「どうかしましたか?」

「あ、いや、何でもないよ。それよりもっと前に行こう。ここじゃ演奏が良く聞こえないから。セシリーの友人なんだろう?」

「はい。そうですね」


時間はもう夕方に差し掛かり、マーシーとノーラの演奏の後はあと数人でポロス学園の演奏会は終わってしまう。たしか一番最後はコリンナ・ハミルトン様達の二年生と三年生の合同のグループの演奏だ。最終日の最後の演奏に相応しく、華やかで迫力のある曲『流星雨』を持って来てる。初めて聞く私にとっては今日一番の楽しみな曲だった。マーシーとノーラの演奏が終わり、拍手が起こる。だけどちょっと様子がおかしい。精霊様が全然集まって来なかった。なんなら、前のグループの時にいた精霊様達も草原の方へ飛び去ってしまっていた。


「精霊様達、お気に召さなかったんでしょうか」

確かにいつもの調子では無かったけど、途中からはどんどん良くなってたように思える。だから不思議だった。

「どうやらそのようだね」

私のつぶやきに答えたフィル様の声はとても冷たいもので、思わず隣を見上げた。

「せっかくだから、あそこのベンチに座ろう。昼からずっとここにいたんじゃ疲れただろう?」

こちらを見たフィル様はいつも通りの微笑みを浮かべてる。あれ?私の気のせい?

「え、は、はい」

フィル様は私をベンチに座らせると、近くのカフェで冷たいお茶を買ってきてくれた。お金を渡そうとしたら怒られてしまった。

「女性にお金を支払わせる男なんていないよ」

あ、私デリクに断っちゃった。失礼だったかな……。知らなかったとはいえちょっと反省しよう。

「ありがとうございます。いただきます」

正直、喉がすごく乾いていたので助かった。


舞台の上では次のグループが演奏準備を始めてる。ああ、もうすぐ終わっちゃうなぁ。でもこの後は星の音楽団の定期公演もあるし、どこかの屋台で夕ご飯を食べてから星の聖地に行こうかな。……フィル様はこの後どうするんだろ?聞いてみようかな。


「こんなとこにいたんだ!」

息を切らせたノーラが目の前に立ってた。控室代わりの天幕から走って来たらしい。

「ノーラ?」

「ちょっと!セシリー、どういう事?なんであんな意地悪するんだ?!」

ノーラはすごく怒ってるみたい。

「ど、どうしたの?意地悪って何?」

ええ?!私何かしちゃった?フィル様と話すときも会場からは離れていたし、大丈夫だったはず。


「セシリーが精霊に言って私達の演奏を聞かないようにしたんじゃないのっ?!」

「はい……?」

なんだそれ?大きな声で怒鳴られて訳の分からないことを言われて、咄嗟に何も言い返せないでいるとフィル様が私達の間に割って入って来た。

「いきなりやって来て訳の分からないことを言うな!」

「あんたには関係無いっ!」

「なんだと?」

うわぁっノーラ、いくらフィル様とはいえ相手は貴族だよ?さすがにこの言い方はまずい!

「ノーラ!ちょっと待って!」

とにかく目で訴えた。そうしたら少し落ち着いたのかノーラもまずいって表情になった。

「とにかく落ち着いて!ね?」

騒ぎを聞いて観客の一部がこちらを見てる。

「……とにかく、ここでは演奏の邪魔になる。落ち着いて話す気があるのなら場所を変えよう」

フィル様が険しい表情のまま、私達をさっきの路地の方へ誘導した。


「さっきも聞いたけど、私が意地悪して精霊様に何か命令したって思ってるの?」

「そうだよ!そうでもなきゃ、私達の演奏に精霊がそっぽ向くはずないだろ?」

「私にはそんなことできないよ。そもそも精霊様って私達の命令を聞いたりしないでしょう?」

逆ならありそうだし、実際ゲイルにリクエストされたけど。

「それはそうだけど。でもセシリーはあの一角白馬の精霊と仲が良いんだろ?だったら頼むくらいはできるんじゃないの?」

「確かに、前に部屋に来た時に静かにして欲しいってお願いしたことはあるけど……」

あまり聞いてはくれなかったんだよね。

「ほら、やっぱり!!」

「でも私、本当にゲイルにそんなこと言ってないから!今日だって二人の演奏をすごく楽しみにしてたんだよ?」

「私達がそのゲイルの事を信じないから、逆恨みしてたんでしょう?」

「そんなこと思ってないよ!」

「嘘!!それにマーシーの才能に嫉妬したんだ!」

どうしよう。ノーラがこんなに怒るのを見たことが無い。今まではいつも笑顔で明るくてさっぱりした性格だったのに。


「見苦しいな」

「は?」

「フィル様?」

「自分達の演奏の不出来を棚に上げて、全てセシリーのせいにするつもりか。呆れたな。それでも誇りあるポロス学園の生徒か?」

「お言葉ですが、私達だって必死に練習してあの舞台に立ったんだ!それなのに……今日だけ精霊が現れないなんておかしい!これじゃあ、秋の選抜が!」

「だから?」

「え?」

「練習ならみんな必死にやってるさ。そんなのは当たり前以前のことだ」

「っ!」

悔しそうなノーラに尚もフィル様は続けた。


「精霊と心を通わせる人の話はよく聞くけれど、精霊を意のままに従わせることなんでできない。精霊達の力は大きい。僕達の世界に及ぼす影響も。だからこそその怒りを買わないための音楽団なんだ」

確かに私達は初めて学校に行くとまずそんな風に教わる。もっと簡単な言葉だったけど。精霊様は私達を守ってくださるんだよ。でも嫌な気持ちにさせるとしっぺ返しがくるよ。って。

「…………」

ノーラは言い返せずに黙っちゃった。


「少なくとも以前の君達の演奏には精霊達が心をふるわせる何かがきちんとあった。しかし、今の君達にはそれが無い。それだけの事だ。他人のせいにする前にまず自分達の演奏と心を顧みるんだな。行こう、セシリー」

フィル様の言葉にノーラは俯いたままその場に立ち尽くしていた。フィル様は私の腕を掴み、演奏会場の方へ引っ張っていく。

「あ、あの、フィル様!庇っていただいてありがとうございました。でも、ノーラをあのままにしておくのは……」

まだノーラは納得してないみたいだし、できればこの場で誤解を完全に解いておきたかった。マーシーはここにいないけど同じように思ってるんだろうか。


「いつもと様子が違うようだから、しばらく放っておいた方がいい。頭が冷えれば反省するだろう」

「そう、かもしれないですね……」

フィル様は結構クラスの人達のことを見てるんだな。確かにノーラはいつもならあんなことを言う人じゃないもの。きっと調子が悪くて焦っちゃってるんだ。今回の演奏会は選抜チームの選考会も兼ねてる。選抜チームに入ることは星の音楽団への受験資格に関わってくるから、みんな必死なんだ。精霊様に喜んでもらえるような演奏をするのが一番大事なこの場面で、精霊様達が興味を示さないことにショックを受けるのはよくわかる。挽回するチャンスはまだあるはずだから、ノーラとマーシーには頑張って欲しい。私は心からそう思った。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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