ちょっと有名人?
来ていただいてありがとうございます!
「セシリーさんっ!起きてくださいっ!お客様がいらしてますよっ!」
「ほへぇ……」
私の安眠はマーガレットさんの声とけたたましいノックの音に妨げられた。
「はいぃ……今起きます」
んー……まだ朝食にも間に合いそうな時間……?こんなに朝早くからお客様?誰……?起きたばかりでまだ頭が働かない。もそもそとベッドから起き出して顔を洗い髪を梳かした。そうしてるうちに頭がはっきりしてきて着替えを終える頃には怒りが湧いてきた!一体誰よ?こんなに朝早くから!いくら夜通しおまつりやってるからって、非常識だわ!マーガレットさんにも迷惑をかけてしまってるし、一言文句言ってやるんだから!
「お姉ちゃん遅ーい!!」
寮の玄関にいたのはロージー。あんただったのね……。隣には苦笑いのデリクもいるし。二人とも朝早いとは思えないほど元気そう。
「朝早くからすみませんでした、マーガレットさん。この子は私の妹のロゼット・オルコットです。それから妹の婚約者のデリク・ヘイズさんです」
「いいのよ。故郷からご家族がいらしてたのね。一緒に宿に泊まってくればいいのに」
「いえ。昨日までは演奏会の練習もありましたし」
「そうね。そうだったわね。セシリーさん達のゆうべの演奏はとても素晴らしかったらしいわね。私も聞きに行きたかったわ!大精霊様達もいらっしゃったとか!すごいわねぇ!」
「えへへ。ありがとうございます」
マーガレットさんに褒めてもらえて、まるでお母さんに褒めてもらったみたいに嬉しかった。でもマーガレットさん、誰から聞いたんだろう?他の寮母さんか料理人さんが聞きに来てくれたのかな?
「お姉ちゃん!早く!もう行くわよ!」
不機嫌そうな声が割って入る。そうだ、忘れてた。ロージー達が来てたんだった。
「ちょっと何?!」
「エクランド様がお呼びなの!早くってば!!」
ロージーが私の腕を引っ張る。
「え?」
「セシリーさん、朝食は?今からでも用意できますよ?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと出かけてきます」
ゆうべは遅くに帰ってきたから、今日はお昼近くまで眠ってポロス学園の演奏会を聞きに行こうと思ってた。だから朝食は無しでってお願いしてあったんだ。こんなに朝早くに起きる予定じゃなかったのに……。でもエクランド様が呼んでいらっしゃるなら仕方ないよね。昨日のお礼も改めて伝えたいし。お父さんにも。
「やあ、朝早くから呼んでしまってすまないね。昨日は素晴らしい演奏だったよ、セシリー」
「おはようございます、エクランド様。昨日は助けていただいてありがとうございました」
「いやいや。僕はただ楽器を運んだだけさ。礼ならお父君にね。まあお父君は躊躇なさっていたみたいだけれどね」
朝食を終えて居間でくつろいでいたのはエクランド様お一人だった。お父さんはこの街に古い知人がいるとかで昨日の演奏会の後から出掛けてるんだって。「月の竪琴」の事を聞きたかったのにな。
「セシリーを呼んだのは他でもない。これを見て欲しい!」
バアンッっと突然、居間のドアが開いて使用人の人達が運び入れてきたのはトルソーが着た可愛いワンピースドレスが二着。
「きゃあっ!」
「???」
ロージーが歓声を上げ、私は訳がわからない。
「可愛いドレス!!エクランド様はセンスいいわよね!」
パフスリーブのピンクの花柄のワンピースドレスを着たロージーがくるっとその場で回った。
「結局いただいてしまった……」
私のは青い花柄。とても良い生地で仕立てられていて、とても私達が買えるような服じゃない。ロージーにまで良くしていただいて、どう恩返ししていったらいいか見当もつかない。私とロージーはエクランド様にいただいたワンピースドレスを着て、星まつりの街をデリクと三人で歩いていた。
「二人ともとても似合ってるよ。一緒に歩けて僕も嬉しいよ」
デリクはにこにこと笑いながらロージーの隣を歩き、時々ロージーの欲しいものを買ってあげたりしていた。デリクのお家はリオ村の中でも裕福な方だけど、さすがに私の分まで買おうとしてくれたのは全力で断った。
「ほら!お姉ちゃんが先導して街を案内してよ!もう半年近く住んでるんだから、詳しいんでしょ?」
「無理よ。私は今まで練習三昧でそこまでこの街に詳しいわけじゃないもの」
知ってるのは学園近くの星降り亭とか楽器屋さんとかエイミーと一緒に行ったアクセサリー屋さんくらい。
「それに今は星まつりであちらこちらに行商人の露店や屋台がいっぱいで、人もいっぱいだしもっとわからなくなっちゃってるんだから」
「もう!頼りにならないわねぇ。あーあ、一緒に来ると思ってたのになぁ……」
「何の話?私はお昼を過ぎたらポロス学園の演奏会に行くから。遊びたいのならデリクと二人だけで行って」
デートに姉同伴ってどう考えてもおかしいでしょ。
「もう!付き合い悪いわねぇ」
「その言い方、村の雑貨屋のマルタおばさんにそっくりよ」
「えー?!似てないよ!私おばさんじゃないもん」
「なんか……仲直りしてくれて良かったよ。責任感じてたんだ。僕のせいで喧嘩させちゃったから」
デリクが安心したように笑いながら頬をかいた。この人ってこんなズレた人だったかな?村にいた時はみんながデリクの事をかっこよくて優しくていい人だって言ってたし、私もここに来る直前まではそう思ってた。今は何でだろう……一緒にいるとちょっとイライラする。
ロージーの後をついていくのは大変だった。あっちこっちに興味が移って急に走り出したりするものだから、時々見失いながらもはぐれないようになんとかついていった。
「じゃあ、私はそろそろポロス学園の舞台の方へ行くわ。明日の朝見送りに行くから、また明日ね。じゃあデリク、ロージーをよろしくね」
もうすぐお昼の時間だ。やっとロージーから解放される。私はホッとして二人と離れて星の聖地にほど近いポロス学園の演奏会の舞台へ向かった。途中でお腹がくうっとなった。
「そういえば朝ごはん食べてないんだった……」
星降り亭の前を通りかかったけど、店の前には長い行列ができてて入るのは無理そう。
「星降り亭は人気店で有名店だもんね。仕方ないか」
近くの屋台で何か買おうと思って見回すと、揚げパンのお店が目に入った。お値段もそれほど高くなくてちょうど良さそう。
「すみません、そのショコラのパウダーがけのを一つください」
「はいよ!」
恰幅の良い中年のおばさんが、ショコラの揚げパンを紙に包んで渡してくれた。お金を払おうとしたら、何故か断られた。
「え?あの、お代がまだなんですけど……?」
「いらないよ!それはあたしのおごりさ!」
どういうことだろう?
「お嬢ちゃん、昨日の夕方リュラ―を演奏してた子だろ?」
「え?聞いてくれたんですか?」
そういえばここは昨日の舞台のすぐ近くの広場だった。そっか、観客の中にこのおばさんもいたんだ。
「ああ!すっごく良かったよ!!あんなに近くで大精霊様を見たのは初めてさ!眼福だった!ありがとうね!」
「そうだったんですか。演奏を聞いていただけて嬉しいです」
「だから、それはお礼!これからも頑張ってね!」
「あ、ありがとうございます!」
「だったらこれも持っていきな!」
威勢のいい声がかかって、隣の屋台から白髭白髪のおじいさんが顔を出した。手には私の好きなレンレンのジュース。
「俺からもお礼と激励だ!いやぁ、昨日の演奏はばっちりだった!未来の星の奏者様に!」
「そ、そんな……私はまだ学生です!恐れ多いです!」
断ろうとしたんだけど、結局これも押し付けられてしまった。私、今日はこんなのばっかりな気がする。なんだかちょっと怖くなって人気の少なさそうな路地へ入って、適当な空き箱の上に座って揚げパンを食べた。
「あったかくて甘くて美味しい」
食べ終わる頃にはちょっと汗をかいたけど、ちょうど涼しい風が吹いてきて冷たいジュースも飲めたからちょうど良かった。
「ごちそうさまでした。学生の演奏なのに結構覚えていてくれてる人がいるんだなぁ。私ってちょっとだけ有名人?なーんちゃってね。…………星の奏者かぁ。いつかなれたらいいなぁ。まずは星の音楽団に入れるように頑張らないとだよね」
お腹も満たされたのでゴミを片付けて、今度こそポロス学園の演奏会の会場へ急いだ。
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