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星まつり 異変

来ていただいてありがとうございます!




『おまつり、楽しみにしてるからー』


私とフィル様が演奏する曲が決まった日から、ゲイルは本番を楽しみにするって言って姿を現わさなくなってしまった。相談した結果「星風の瞬き」っていう星の光が美しく瞬くのは風の精霊様のおかげですっていう意味の曲を選んだ。星まつりとゲイルにぴったりの曲だと思ったんだけど、これが結構難しい曲で練習がかなり大変だった。


「あ、また流れ星」

いよいよ星まつりが始まって外国からの観光客がたくさんこの星の聖地の街へ入ってきた。星の聖地の街は王都に比べると広い街ではないらしいけど、周囲にはたくさんの宿屋の建物があって期間限定で開設されている。


今夜から星の音楽団の定期公演が始まる。外国の聖地の方々もお招きしての大演奏会になるらしい。私達ポロス学園の生徒達の演奏会もとうとう明日からスタートだ。緊張とワクワクで眠れない。私はベッドの上に寝転びながら窓の外を流れる星を数えた。


「私は初めての星まつりだし、みんなの演奏もできるだけ聞きたい。…………そういえばずっとマーシ―とノーラに会えてないなぁ」

結局ゲイルの事は信じてもらえないまま。二人とは練習時間や場所が合わなかったし、夜は星降り亭で働いていて忙しいらしい。寮で一緒のエイミーにも話してみたんだけど、反応はあまり良くないものだった。


『うーん……セシリーが嘘を言ってるとは思えないけど、にわかには信じられないわ』

『そう……だよね』

『あ、でも!星まつりの時になればそのゲイルさんも姿を見せてくれるんでしょう?』

『うん。だと思う』

『ならきっと大丈夫よ!きっと二人もわかってくれると思うわ』

『そうだね。エイミーありがとう』

『お互い頑張りましょうね!』

『うん、頑張ろうね』


エイミーはクラヴィーアの男子生徒と二人で舞台に立つんだって。いつも合唱で低い音程のパートばかりだから、自分で主旋律を歌いたかったって言ってた。エイミーの独唱はまだ聞いたことがなかったからそれもすごく楽しみ。


私は起き上がってリュラ―を手に取った。眠れないから手入れをしようと思ったんだ。

「そういえば結局弦の予備を買えてないや」

あの後もう一度街へ行ったんだけど、フィル様に教えてもらった店はまだ休業中だった。

「一度に全部の弦が切れるなんてことはあり得ないし、今持ってる分でも大丈夫だけど、明日またお店に行ってみようかな」

午前中に行けばみんなの演奏にも間に合う。リュラ―を乾いた布で磨いていたらやっと眠気が来て私はベッドに横になって布団をかぶった。

「演奏会、頑張ろうね」

枕元のリュラ―に話しかけながら眠りに落ちた。





「甘かった……」

翌朝、街のメインストリートは観光客でごった返していた。

「これから街へ出るのはできればやめた方がいい」

フィル様も今日はお屋敷から歩いて来なければならないほど街は混雑していた。今は流星の最盛期。昨夜から星の音楽団の定期公演も始まってるから、街は朝からあり得ないほど混雑してる。

「それに僕が紹介したあの店はご主人が体調を崩して休養中だそうだよ」

「え?そうなんですか?」

「うん。僕も昨日家の者に聞いて知ったんだ」

おじいさんが一人で営んでるお店だから、そういう理由ならしばらくお店は開かないだろう。でも前に行っていた楽器屋さんは大きいけど街の反対側、街道沿いの方にあって今から歩いて行ったらこの混雑もあってお昼過ぎからの演奏会に間に合わなくなってしまう。そういう訳で買い物に出るのは諦めることにした。


ポロス学園の演奏会一日目。みんなの演奏はたくさん練習したことが良くわかる素晴らしいものばかりだった。特に三年生の演奏はレベルが高くて、誰が星の音楽団に入ってもおかしくないんじゃないかって思った。エイミーの歌もとても良かった!エイミーの歌の時はたくさん精霊様が集まって来ていて、観客からの拍手も凄かったし、もしかしたらエイミーは将来星の歌姫になれるんじゃないかな?!


夕方になって星の音楽団の定期公演が始まったんだけど、私は少しだけ聞いた後、後ろ髪ひかれながら会場を後にした。明日は私の本番だから、今から練習して今夜は早く休まないといけないんだよね。ああ、音楽団の演奏をもっと聞いていたかった。





ポロス学園の演奏会二日目。フィル様と私の出番は夕方で、最後の方だから昼過ぎには楽屋になってる大きな天幕に楽器を持って待機していた。今はマーシーとノーラのヴィオラの二重奏が披露されてる。二人とも色違いのお揃いのドレスワンピースを着ていてとても良く似合ってる。やっぱり私もドレスを買えばよかったかなぁってちょっとだけ後悔した。演奏も息が合ってて素敵だった。

「結局同じじゃないか……」

「?」

二人の演奏を隣で聞いていたフィル様が呆れたように小さく呟いたけど、私には何のことかよくわからなかった。


出番の前に入念にリュラ―をチェックして、楽譜を見直して、もう大丈夫って思ったら今度はお手洗いに行きたくなってきて少しの間天幕を離れた。フィル様のハープは大きい楽器だから別の小さな天幕に置いてあってフィル様もそちらへ楽器のチェックに行ってる。

「もうすぐ出番だ!ゲイル喜んでくれるかな。頑張らなくちゃ!」

天幕に戻るときに観客席の方を見るとお父さんとロージーとデリクの姿が見えた。

「…………お父さん、聞きに来てくれたんだ……」

私達の演奏は精霊様に捧げるものだから、私達は観客の方を見ないで演奏する。星の聖地、つまり精霊様達がいらっしゃる方を向いて演奏するから、今見つけてなかったらお父さん達が来ていることもわからなかったかもしれない。私は胸が温かくなるのを感じた。私の今の力をお父さんにも見てもらいたい。認めてもらいたい。


天幕に戻ると違和感に気が付いた。

「あれ?私のリュラ―が無い……?」

天幕の中の机の上に置いておいたはずのリュラ―が無くなっている。

「誰かが移動させたのかな?」

まだ小さな不安の種。誰かが気を遣って舞台の近くに移動させたとか?舞台の方を見に行ってもそれらしいケースは置いてない。今回の演奏会はポロス学園の事務員さんが運営をしてくれてる。近くにいたプログラム確認中の事務員さんに尋ねてみたけど、わからないって言われてしまった。不安の種が発火して大きな炎になる。誰かが間違えて持っていってしまったとか?もしくは盗まれた?この天幕は人の出入りが多いから?でもまさか……。

「どうしよう……」

頭の中が真っ白になる。


「セシリー!どうしたんだ?顔が真っ青だ」

心配した事務員さんが別の天幕にいたフィル様を呼んできてくれた。

「あ、フィル様、楽器が……私のリュラ―が無くなってて……」

「なんだって?!」

険しい顔をしたフィル様が外にいた事務員さん達に指示をしてすぐにリュラ―を探し始めてくれた。

「あ、私も……」

「セシリーはここにいて。僕は順番を一番最後にしてもらえるように頼んでくるから」

「は、はい……」

私の頭は混乱してて、ただフィル様の言葉に頷くだけのお人形みたいになってた。演奏順を変えてもらっても私達演奏順は最後から三番目だから、そんなに時間が稼げるわけじゃない。今から学園に行って予備のリュラ―を持ち出して調律なんてしてたら全然間に合わない。大体楽器を忘れるとか無くなるなんて想定してなかった。


なんで?なんで?どうして?


物心ついた時からずっとそばにあったリュラ―が無い。そのことがこんなに心細いものだったなんて。涙が浮かんでくる。

「お母さんの形見なのに……」

私はふるえる手でふるえる自分の体を抱き締めた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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