もうすぐ星まつり
来ていただいてありがとうございます!
「こんなにたくさんの人、初めて見た……」
練習に明け暮れて久しぶりに街へ出たら、星の聖地の街の様子が一変してた。星まつりまではまだ日があるのに、街中がキラキラした星の飾りやランタンそして花でいっぱいになってる。とっても綺麗!商店街の店先にはワゴンが出され、たくさんの雑貨や土産物や食べ物が並んでる。それを多くの観光客と思しき人達が興味ぶかそうに眺めたり手に取ったり。
「おまつりの本番はこんなものじゃないわよ」
「そ、そうなの?!」
もっと人が増えるんだ。全然想像できない。
今日はエイミーと一緒に街へ買い物に来た。エイミーは新しいリボンが必要になったんだって。
「セシリーの故郷ではおまつりは無かったの?」
「あったよ。あったけど、村の人達と行商人が何人かと旅のお芝居の一座がいるだけだったから」
それでもいつもは静かな村に活気が溢れて子ども達も大はしゃぎで、音楽のコンテストもあって、私は年に一度の秋祭りがとても楽しみだった。
もうすぐ流星群の期間がやってくる。アクロアイト王国の星まつりは毎年夏のこの時期に星の聖地で行われる。流星が増え始める日から始まり、最盛期の三日間、そして終了までの七日間程の間とその前後の日々は、星の聖地の街はお祭り一色になり、国の内外を問わず観光客が押し寄せてくる。
「わあ、お店がいっぱい!」
普段は何もないあちらこちら石畳の広場にはたくさんの露店や屋台が設置され、もう商売を始めてる人もいる。大きな広場だけでなく、道が交差するだけの小さな広場にも行商人がいて、大きなカートに見たことも無い珍しい装飾品を並べて売ってたりする。
「こんなにたくさんお店があったら、星まつりの間だけじゃ見きれないかも!」
私はきょろきょろと周りを見回した。
「そっか。セシリーは星まつりは初めてだものね。屋台や露店は大体毎年似たようなのが並ぶのよ」
「そうなの?じゃあエイミーはもう慣れっこなのね」
私も何年かすればこの大きなおまつりに慣れちゃうのかな。
「でもその年によって流行りみたいなのがあって、あ、ほら!あの果物の飴がけは去年までは無かったわ!南の国から入って来た行商人が売ってるから、たぶんそこで流行ってるお菓子なんじゃないかしら」
エイミーは早速その目新しいお菓子をいくつか買い求めて、私にも一つおすそ分けしてくれた。透明な飴の中に鮮やかな色の果物が閉じ込められてキラキラ光ってる。
「綺麗……。それに美味しい!」
パリパリ、ジュワ―って甘さと甘酸っぱさが口の中に広がって、新しいんだけど何だか懐かしい気持ちにもなる不思議な食べ物だった。
エイミーは目当ての店でリボンを無事手に入れることができた。なんでも家から送られてきたドレスに合うリボンが無かったらしい。
「付き合ってくれてありがとう。次は楽器屋さんね。それはそうとセシリーは星まつり用のドレスは用意しないの?」
「うん。オルブライト様とも話し合って制服でってことにしてもらったから」
最近は練習ばかりで星降り亭での仕事もしてないし、星まつりの定期公演が近いから演奏会のお誘いもない。だから正直少し懐がさびしいのだ。ドレス一着くらいなら何とか買えるだけの貯金はあるけど、買っちゃうとその後に何か必要になった時に困ってしまう。なるべくお金は取っておきたい。
「今日は楽器屋さんお休みで残念だったわね」
「うん。まだ手持ちが少しあるし、また今度買いに来るから大丈夫」
実は今日は私も楽器屋さんでリュラーの弦を買おうと思ってたんだけど、お店が臨時休業だった。私達はその後も街中を少しだけ見て回り、夕方になる前に寮へ戻った。今日はオルブライト様も用事があるとかでおうちに戻ってるし練習はお休みって思ってたけど、やっぱり落ち着かなくて寮の防音室で夕食までと寝るまでの間の時間に練習しちゃった。エイミーと寮に帰る前に私達が演奏するステージを見に行ってちょっと気が昂っちゃったんだ。そのステージはジョディ―さん達と一緒に演奏した草原が見渡せる岩のステージに程近い場所にあった。しかも飾りつけまでしてあって星まつり仕様になってた。
「あんなに星の聖地に近い場所で、私達だけで演奏するなんて緊張する!」
もちろんワクワクもしてる。星の音楽団に少し近づけたような気がするから。
星まつりが明後日に迫った学園内には園庭にも練習するグループがたくさんいる。練習室の数が限られているので木陰で練習してるんだけど、日中は気温がかなり高くなるから結構大変だ。練習の合間にカフェテリアで水分と休憩を取らないとフラフラになってしまう。
「え?!明日オルコット嬢のお父様がいらっしゃるのか?!」
いつもなら熱いお茶を選ぶオルブライト様もさすがに氷の入ったキンキンに冷えた紅茶を飲んでる。この暑さじゃあ当然だよね。私はもちろんレンレンのジュース!
「はい。エクランド様……私を支援してくださってる方が招待してくださったみたいで。だから明日は午後に少し街へ行きたいんです」
エクランド様にお屋敷に来るように言われてるんだよね。気が重いな。
「ハーディー・エクランド殿か。エクランド家は歴史ある伯爵家だね。代々の当主が熱心な支援者で有名だよ」
「へえ、そうなんですか!リオ村はエクランド様の領地にあるんです」
「オルコット嬢はエクランド殿とは……」
「はい。お手紙で時々近況報告をさせていただいてます。前に一度面会に来てくださったり、ドレスを送っていただいたこともあります。親切にしていただいててとてもありがたいです」
「ゴホッ……」
飲みかけていお茶をのどに詰まらせた?!
「大丈夫ですか?!オルブライト様」
「ゴホッ……だい、じょうぶ。えっと彼からドレスを送られたの?」
「はい。え、あ、はい。春のダンスパーティー用にって。結局ダンスパーティーには行かなかったんですけど」
「そうか。ドレスを…………それでお父様はお一人で?」
「いえ、妹と妹の婚約者と一緒に来るらしいんです」
「らしい?」
「えっと、その……色々あって家族とは仲違いみたいになってるので、こちらに来てからは全然連絡を取ってなくて……。エクランド様からのお手紙で知らせていただいたんです」
「そう。この機会に仲直りできるといいね」
「……はい。そうですね」
つい心にもない事を言ってしまう。オルブライト様はそれ以上はそのことについては触れなかった。ただ……。
「それで、えっと妹さんには婚約者がいるの?」
何故かそこを追求してきた。あまり触れられたくない話題だけど仕方ない。
「ええ。村の慣習というか、村祭りで演奏のパートナーになった男女は村公認になるんです。妹は去年その人と一緒に演奏をしたので婚約者と言ってもいいと思います」
一緒にここへ来るくらいだから、もうお父さんも家族として認めてるんだろうし。
「ああ、そういうことか。なるほどね。そういう慣習があるんだ。オルコット嬢は……」
「私は村祭りに出たことはないんです」
「そうなんだ」
オルブライト様は何故か安心したように笑って残りの紅茶を飲み干した。
「わかった」
「?」
何がわかったんだろう?
「そういうことなら、僕も挨拶に行くよ」
「え?エクランド様にですか?」
「ああ、うん、そうかな。オルブライト家とエクランド家は親交があるからね」
「そうなんですか……わかりました」
同じ伯爵家同士だから、そういう事もあるのかな?貴族同士のことはよくわからないから断ることもできず、明日は一緒にエクランド様のお屋敷に伺うことになった。
本当なら気が重い筈の家族との面会だけど、ほんの少しだけ気持ちが軽くなったのは少し不思議だった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




