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熱量

来ていただいてありがとうございます!





夕食、夜の練習を終えて部屋に帰って一休みしていたら、開け放った窓から気持ちのいい風と一緒にゲイルが入って来た。


「という訳で、オルブライト様と一緒に演奏できることになったんだけど、星まつりの演奏会と兼ねてでもいいかな?」

「いいよー!僕の為の演奏楽しみだな、どんな曲?どの曲?」

夜に寮の部屋で跳ね回るゲイル。音は立ててないけど、ちょっと声が大きい。寮は部外者の許可無しの立ち入りは厳禁だから、見つかったら寮を追い出されちゃうかもしれない。

「ゲイル、静かにして。それはまだ決めてないの。これからオルブライト様と相談するから」

両隣は空室だから大丈夫だけど、廊下を通りかかることはあるかもだからゲイルには毎回注意してるんだけど、なかなか覚えてくれない。


コンコンッ!


「うわぁ!はいっ!!」

「セシリーさん、夜分にごめんなさいね。夕方にお手紙が届いていたのを渡し忘れてしまっていて」

「あ、マーガレットさん、ありがとうございます!」

慌ててドアを開けると寮母の一人、マーガレットさんが少し困ったような顔で立っていた。マーガレットさんは中年の女の人で金色の髪をふんわりと後ろでまとめてて、普段着用のドレスにエプロン姿。たぶん私のお母さんが生きていたらこんな感じなんだろうなっていつも思ってる。


「ごめんなさいね。食材の搬入が遅れて夕方少しバタバタしてしまってたものだから」

「いえ!わざわざ届けていただいてありがとうございます」

「星まつりが近いから熱が入っているのかもしれませんが、しっかりと休むことも大事ですよ」

マーガレットさんは手紙を受け取った私がまだ寝間着に着替えてないのが気になったみたい。さっき部屋に戻ってくるまで寮の防音室で練習してたし、ゲイルと話をしてたからまだ寝る準備を何もしてない状態なんだよね。

「は、はい!今からちゃんと寝ます!」

「ふふ、他のお部屋の子達も同じようなものなのだけれどね。根を詰めすぎて体を壊す生徒さんも多いから気を付けて欲しいの。歌も演奏も体が資本ですよ」

「はい。ありがとうございます。気を付けます」

マーガレットさんも他の寮母さんもお母さんみたいに優しくて大好き。

「おやすみなさい、セシリーさん」

「おやすみなさい、マーガレットさん」

ドアを閉めて振り向くとゲイルはもうそこにはいなかった。ゲイルはあんまり私以外の人の前には姿を現わしたくないみたい。私もなんとなくオルブライト様以外の人にはゲイルの事を話せてない。


「あ、そうだ。手紙……。誰からだろう?うわっ、エクランド様だ」

前にドレスのお礼状を書いて以来、近況報告のお手紙を書いてないのに気が付いてちょっと焦った。

「まずいわ。色々あって忙しすぎて忘れてた……」

私は急いで手紙を開いた。

「苦情だったらどうしよう……」

ちょっと心配になったけどそんなことは無くて、この前の演奏会に来られなかったことを残念がる内容だった。演奏会を聞きに来てた貴族の方が褒めてくれてたらしく、自分も鼻が高かったと書かれていた。

「お忙しくて王都を離れられないのね。あ、でも星まつりにはこっちへいらっしゃるんだ。演奏、聞いていただけるかな。頑張らなくちゃ」

元々手を抜くつもりなんて無かったけど更に頑張る理由が増えた。

「ん-っ!気合が入るぅ!今からもう少し練習しようかなって……さっき休みなさいって言われたばかりだったわ」

今夜はもう寝て練習は明日の朝頑張ろう。

「……んん?何ですと?!」

読み進めると手紙の続きには驚くべきことが書かれてた。


星まつりに父さんと妹とデリクが来るって書いてあった。しかもエクランド様の星の聖地の街の邸宅に滞在させてもらうらしい。貴族の方々はその殆どが王都と領地とこの星の聖地の街にそれぞれ邸宅を持ってるらしい。私から見たらお城みたいに見えるお屋敷をいくつも持ってるなんて、想像がつかないくらいお金持ちなんだろうね。

「それにしてもなんでいきなりそんなことになってるの?まさかロージーがエクランド様に無理を言ったんじゃ……」

ありえそうで怖い。気にはなったけど、家を出てからは父や妹と連絡を取ったりはしてないから今更手紙なんて書きづらい。それに今から手紙を書いても私の家は僻地にあるから、やり取りが終わる前に星まつりの日が来ちゃう。ああ、練習に集中したいのに頭が痛い。



翌朝朝練を終えて教室の前まで来てから思い出した。

「教室に入るのが怖いかも」

オルブライト様は人気があって、昨日も女子生徒に囲まれて誘いを受けていたはず。オルブライト様と一緒に星まつりの演奏をすることになったから、クラスの女子生徒様方にどんな目で見られるか……。最悪教室から連れ出されて囲まれるかもしれない。


けれど教室に入っても想像に反して誰からも冷たい目で見られることは無かった。いつも通り普通に挨拶を返されて、教室の中の雰囲気は穏やかそのもの。というよりはあちらこちらでグループができていて、楽しそうに話し合いをしてたり楽譜や楽器のチェックをしたりと忙しそうだった。

「おはよ、セシリー」

「あ、おはようノーラ、マーシー」

「おはよう」

あ、マーシーも普通に笑って挨拶してくれた。良かった。怒ってるかもって思ったのは気のせいだったのかもしれない。


「おお、みんなやる気満々だな。やっぱり星まつりは気合が入るよねぇ」

私の後ろから入って来たノーラは教室内を見回して楽しそうに笑ってる。

「そういえばセシリーは一緒に演奏する人決まった?私達断っちゃってごめんね」

マーシ―、心配してくれてたんだ。

「うん。オルブライト様と一緒にすることになったんだ」

「へえ!ずいぶんあの方に懐かれたんだね」

「懐かれたって……。今回は私が頼んだんだ。やりたい曲があったから」

正確にはゲイルのリクエストなんだけど。そうだ!いい機会だからノーラとマーシーには話しておこうかな。

「ちょっと知り合いの精霊様に頼まれちゃって。ゲイルっていう風の精霊様なんだけど」

「何言ってるんだ?精霊様が曲をリクエストしてくるなんて聞いたことが無いよ」

「……オルブライト様にもそう言って頼んだの?何も嘘をつかなくても……」

意を決して説明したんだけど、二人とも全然信じてくれなかった。二人には少し呆れられてしまったみたいでため息をついたり、両手をあげてお手上げのポーズをしたり。

「本当なの……!実は私の故郷の山に精霊の泉っていう場所があって……」

何とか説明しようとしたら、エルベ先生が教室に入って来た。


「おー!みんなおはよう!」

私達は慌てて自分の席に着いた。

「今日は星まつりまでのスケジュール表を渡して終わりだ。後は自主練。明日からは授業も無くなる。この教室にも集まらなくていいぞ!練習室の割り当てとステージの時間割表は最終的にグループメンバーと演奏曲の決定後に決まるから、未提出の者は今日中に提出するように」

エルベ先生はそれだけ言ってバサッと紙の束を教卓に置くとそのまま教室を出て行ってしまった。


「え?終わり?」

「じゃあ、僕達も今日中に演奏曲を決めてしまおう。いくつかピックアップしてきたから」

「あ、は、はい!」

オルブライト様も他の生徒達もさっさと立ち上がり、先生が来る前のように各々のグループ同士で集まり始めた。他のクラスの仲間の所へ行く生徒もいる。

「とりあえず僕らはカフェに行こう。練習室の使用は演奏曲が決まったグループが優先だから今日は多分もう使えない」

「そういうものなんですね」

私は促されるままにオルブライト様について行くしかなかった。


星の聖地、星の音楽団、そして星まつり。田舎育ちで中途入学の私にはまだみんな程の熱量が足りないみたい。
















ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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