ゲイルの不満
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夏のお休み前のクラス発表会は上手くいったと思う。二年生のクラスは全部で三クラス。一クラスが声楽科で後の二つは器楽科。一位になったのはエイミーもいる声楽科のクラス。光の精霊様を讃える曲を歌い、一番精霊様達が集まって来てた。特にエイミーの周りにはたくさん集まって来てて、精霊様達がとても喜んでいたのがわかった。その証拠に講堂の天窓からはそれまで曇っていた空から一筋の光が射しこんで来ていた。二位と三位は先生の評価では僅差だったけど、私達のクラスの方が精霊様の集まり方が少なくて惜しくも三位だった。それでも及第点を貰えて、試験は合格。エルベ先生からは「あの状態からよくここまで仕上げてきたな」と褒めてるのかそうじゃないのか良くわからないお言葉をいただいた。
その夜は強風が吹き荒れた。寮の庭の木々もざわざわと揺れて秋でもないのにたくさんの葉を落としてる。
「どうしたの?ゲイル、なんか機嫌悪い?」
「…………」
久しぶりに寮の私の部屋にやって来たゲイルはどことなくイライラしてるみたいだった。発表会の日の夜、夕食を終えて練習を早めに切り上げて部屋に戻って来たら、ゲイルがこちらに背中を向けて立っていた。窓ガラスをコツコツと木の枝が叩いてる。夕方から吹き始めた風がもっと強くなってきたみたい。
「つまんなかった」
「え?」
「今日の演奏」
こちらを振り向いたゲイルはすごく不満そうで、その言葉に私は少なからぬショックを受けた。
「演奏、聞いてくれてたんだ。でも今日の演奏、よくなかった?」
「セシリーの音は良い感じだったよ。他にもいい音あった。でも……なんか濁ってた」
「濁ってた?音が?」
「うん。音もだけど、空気が嫌だった」
「そ、そう。なんかごめんね……」
謝ってはみたものの、演奏はそこまで悪くなかったと思っていた私にはゲイルがどこをダメだと思ってるのか見当がつかなかった。私達の演奏は精霊様に喜んでもらうためのもの。『初夏の大風』は風の精霊様を讃える曲なのに、風の精霊のゲイルに気に入ってもらえなかったなら私達の演奏は意味が無い。
「あーあ、せっかく僕らの季節が来たのに面白くないよ。『踊る雨粒』はすっごくいい感じだったのに、なんで僕らのは……」
ぶつぶつと言い続けるゲイルに私はどうしていいのかわからない。私達の演奏中にも精霊様達が集まって来てくれて、(そりゃあ、三クラスの中では少ない方だったけど)まとまって演奏できていたのに。
「…………」
「あ!セシリーは悪くないよ?!」
黙り込んだ私に自分の顔を擦り付けながらゲイルは打って変わって明るく言ってきた。心なしか吹き荒れる風が弱まった気がする。
「ゲイル?」
「だから今度僕らの曲を演奏してよ!」
「え?風の精霊様を讃える曲を?」
「うん。星の音楽団と一緒にさ!そしたら許してあげる!」
「それは私の一存では無理だよ。私は星の音楽団のメンバーじゃないもの」
前の二度の演奏会はお誘いがあったから参加させてもらえただけ。それは奇跡みたいなものだから。またいつ誘ってもらえるかなんてわからない。
「そうなの?セシリーも早く星の音楽団になってよ」
ゲイルはそんな無茶なことを言う。
「そりゃ、なれるのならなりたいけど……」
「うーん、じゃああのハープの子だけでもいいや」
「ハープってオルブライト様?それも無理が……」
「えー!!やだやだやだっ!セシリーの合奏が聞きたい―!!」
「ちょっとゲイル。大騒ぎしないで。夜なんだよ?みんなに迷惑だよ!」
一度弱まっていた風がまた強まった。これってゲイルの気持ちに風が反応してるの?
「わかった、わかったわ。オルブライト様に頼んでみるから。とにかく落ち着いて!」
「いいの?やったー!」
風が穏やかになってきた……。やっぱりゲイルは風の精霊様なんだわ。精霊様の心が私達の世界に影響を与えるってこういう事なんだ。私は精霊様の影響力を初めて実感した。
「約束だよーっ!!」
ゲイルは嬉しそうに足音を立てずに狭い部屋の中をくるくると走り回ると外に飛び出して行ってしまった。窓を開けて外を見るともうゲイルの姿は無くて、ただ頬に爽やかな風が吹きつけてくる。
「ああ、変な約束しちゃったなぁ……。どうしよう。みんなに知られないようにお願いするしかないか……。オルブライト様って、私ちょっと苦手なんだよねぇ……。悪い人じゃないんだけど」
精霊様のお願いを無下にはできない。初夏を感じさせる夜風の中、私はかなり憂鬱な気分になってしまった。
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