うちあげ 2
来ていただいてありがとうございます!
「はあぁぁぁっ!やったわね!私達!」
ジョディ―さんはまた一気にグラスをあおった。雨の中の演奏会の後、私達はまた星降り亭で一緒に夕食をとっていた。夕食といっても大人組はお酒がメインだけど。
「ちょっとペースが早すぎやしないか?」
ちびちびと度の強いお酒を飲んでるブラッドさんが嫌そうにジョディ―さんを見た。ブラッド・アールさんは今回シロフォンで演奏会に参加してくれた星の音楽団の助っ人さんだ。
「嫌だぞ。また星音の宮までへべれけのお前を送っていくのは……」
「大丈夫ですよ!セシリーちゃん達もいるのにお酒に飲まれるようなことはしませんって!」
「それはちょっと信用できないなぁ……んぐ……」
クラークさんはよっぽどお腹が空いていたのか大きく切り分けたお肉のステーキを頬張った。
今日はすごい一日になったなぁ……。人の姿をしてる精霊様なんて初めて見た。私は今日の演奏会を思い出しながら星降り亭のおすすめの七色野菜たっぷりスープをかき混ぜた。綺麗な精霊様だったなぁ。青く透き通った姿で幻みたいだった。本当の馬みたいに見えるゲイルとはまた違った感じだった。
「大丈夫?疲れた?セシリー」
色々思い出して余韻に浸っていたら突然声をかけられてハッとなった。
「いえ、オルブライト様……」
「フィル」
「あ、えーと、はい。……フィル様」
「フィルでいいのに。まあいいか。演奏会、大成功で良かったね」
「はい。無事に演奏出来て、精霊様達にも喜んで頂けてホッとしました」
やっぱり名前呼びは慣れないよ。この場だけだとしても無理がある。
「おやおやぁ?ずいぶん仲良くなったんだね、君達」
ステーキをペロリと平らげたクラークさんがサンドイッチを手に持ってこちらを向いた。その向こうではジョディ―さんがブラッドさんのグラスにお酒をつぎ足そうとしてるのを、ブラッドさんが必死に押さえてる。もっと飲め飲めとか言ってる……。ああ、ジョディ―さんの目が据わってる。これは完全に酔ってしまってるみたい。村の酔っぱらったお爺ちゃん達と同じようになっちゃってるもん。
「僕達は演奏仲間ですから。皆さんだって名前で呼び合っているでしょう?」
からかうような口調のクラークさんにオルブライト様はいつものように平然と言い返してる。まあ、実際ただの演奏仲間だし、からかわれるようなことは何もないしね。
「まあ、そうだね。ならいいか……」
何がいいんだろう?クラークさんは手に持ったサンドイッチにかぶりついた。
「セシリー、今日は凄かったね!」
ワゴンを押してノーラが私達のテーブルへやって来た。星降り亭は人気店で今日みたいな雨の日でもお客さんでいっぱいで、ノーラも他の従業員さん達も忙しそうだった。
「ノーラ!見に来てくれたの?」
「当たり前じゃないか。セシリー頑張ったね。あんなに近くで大精霊様を見たのは初めてだったよ!」
珍しくノーラが興奮したよう顔を紅潮させてる。
「あ、これ、オーナーからサービス!いいものを見せてもらったお礼だって」
そう言ってノーラが持ってきてくれたのは、ガラスのボウルに入った色とりどりの果物の盛り合わせ。食べやすく一口大に切ってあって、蜜を使ったソースをつけて食べるもので、甘酸っぱさのバランスがとても良くて見た目も綺麗なデザートだった。
「美味しい!オーナー、ありがとうございます」
厨房から顔を出したオーナーにお礼を言いながら手を振った。
「セシリーは本当に果物が好きだね」
「うん。ケーキとかも好きだけど、果物が一番かな」
「ふーん……そうなんだ」
ノーラとおしゃべりしていたら、オルブライト様が何かを考え込みながら果物の盛り合わせをじっと見つめていた。食べないの?オルブライト様は果物がお好きじゃないのかもしれない。美味しいのになぁ。
「セシリーは果物が好きなんだぁ。そうだ!フルーツタルトの美味しい店知ってるよ。今度俺が連れてってあげるよ」
クラークさんが自分の分の果物の盛り合わせをあっという間に食べ終えて、今度はハーブでローストされた骨付き肉を切り分けていた。サンドイッチは?!もう食べ終えたの?!クラークさんって細いのにいっぱい食べる人なんだ。びっくり。前の時は遠慮してたのかな?
「そうなんですか。ありがとうございます」
社交辞令だとは思うけど、一応お礼を言っておいた。
「へえ、いいですね。是非僕も連れて行ってください」
オルブライト様がクラークさんに笑いかけた。あれ?オルブライト様って果物好きなの?それともタルトの方かな?
「うーん、貴族の君の口には合わないかもしれないよ?」
「いえいえ、僕は好き嫌いはありませんので。色々教えていただけるとありがたいです。クラーク先輩」
「仲良しだよね、あの二人」
「……そうかな」
小声で話しかけるとノーラは渋い顔をした後、楽しそうに笑いながら私を見た。
「人気者だね、セシリー」
「……?あ、そうだ、マーシーは?今日はお休み?」
空いたお皿を持って厨房へ行こうとしたノーラに尋ねた。今日は店の中にマーシーの姿が無くて気になってたんだ。
「ああ、うん、そうなんだ。またちょっと疲れてるみたいだ」
「そうなんだ。お大事にって伝えて」
「……わかった」
昨日学園では元気そうだったけど、大丈夫かな。
その後も楽しい夕食会はジョディ―さんが酔いつぶれるまで続いた。結局ブラッドさんとクラークさんがジョディ―さんを支えて星の音宮へ帰って行った。
「さあ、僕達も帰ろう。寮まで送っていくよ」
「いえ、近いので本当に大丈夫ですから」
オルブライト様はお店の近くに馬車を待たせているだろうし、更に帰る時間が遅くなったら申し訳ない。
「駄目だ。こんな夜更けに女性を一人で歩かせられない」
「でも……」
「駄目だ」
「……よろしくお願いします」
結局またオルブライト様に寮まで送ってもらうことになっちゃった。
「僕も、フルーツケーキの美味しい店を知ってるから」
「え?」
寮の門の前でそれまで無言だったオルブライト様が突然話しかけてきた。
「今度一緒に行こう」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
これも社交辞令だよね。でもタルトにケーキ。都会は美味しいものがいっぱいで楽しいね。村のおばあちゃんが作る素朴な焼き菓子も絶品だったなぁ。ちょっとだけ懐かしい気がする。まだ村を離れて一年も経ってないのに変なの。
「それじゃあ、おやすみなさい、オ、……フィル様」
「うん。おやすみセシリー。また明後日学園で」
雲の隙間から月明りが差してフィル様の銀色の髪を照らした。柔らかく微笑んでるフィル様は今日見た精霊様みたいに綺麗だと思った。フィル様が精霊様なら月の光の精霊様かな?そんなことを考えながらその夜は眠りについた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




